表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花も恥じらう美少年ロボットと普通の女子高生の初恋  作者: 藍銅 紅(らんどう こう)@『前向き令嬢』2巻 電子書籍2月配信


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/14

第11話 花火を、見ました

 ようやく段々と空も暗くなった。


「おおおおおー! まさにビームスペクタクルー」

「あはは、何ですか、それ!」


 まだメインの花火は打ち上げられてはいないが、花火の会場となる海側では、レーザー光線と音楽が一体となったショーが行われているらしい。

 地上から空に目がけて、色とりどりのレーザーの光が放たれている。


「いや、音楽はさすがに聞こえないけど。レーザー光線はあちこち動いて光ってすごいねってカンジで!」


 コンベンション・センターや、近隣のビルで視界は多少は遮られてはいるが、それでも零一の部屋は高層階にあるのだ。空に向かうレーザーの光の動きが良く見える。


「花火も、レーザーみたいにはっきりと見えるかなあ」

「そう……ですね。あ、そろそろ始まる時間です」


 ふっと、レーザーの光が消えた。ミサキは思わずガラス窓に張り付いた。

 零一が、笑う。


「小さい子どもみたいですね、ミサキさん」

「だって、花火ってわくわくするんだもん! ねえ零一君、この窓、開けるのは無理かな……」

「採光と眺望用の、嵌め殺しの窓ですから、無理ですね」

「ううう。さすが四十階」

「バルコニーがある側の部屋なら出られなくもないんですが、この部屋、元々会議室ですからねえ」

「住居用じゃないから、窓を開ける必要もないかー」

「ええ、空調、きちんとしていますから。匂いもこもりませんし」


 残念そうに、ミサキは顔を顰めた。


「花火、見るだけじゃなくて、音とかも感じられたらなーって思ったんだけど」

「んー、音は聞こえなくても、振動は伝わるかもですね。窓にぺたって両手をつけてみますか?」

「えっと、こう?」


 二人で並んで窓に両方の掌をくっつけてみた。


「ビリビリーって、伝わって来るかな?」

「どーん! という感じかもしれませんね」


 宝箱を開ける前の子どもみたいに、ミサキは零一と顔を見合わせてくすくすと笑った。


 一つ目の花火が打ちあがる。

 下から見上げるのとは違い、目線の高さで開く、花。

 そして、二つ目。

 赤、青、緑。鮮やかな色が夜空を染めて、そしてすぐにそれは消えていく。

 三つ目、四つ目……。花火が次々と揚がっては消えていく。


「わあ……キレイ」

「すごいですねえ……」


 二人、同時に、簡単のため息を吐いた。


「夜空に、花火が打ち上げられて、それがきれいなのも素晴らしいですが……」

「打ち上げらえて、花火が消えて、それで、一瞬静まり返って、夜空が、いつもより黒くて、広く見える感じもいいよね。それで、また花火が咲くの。繰り替えし、ずっと……」


 このまま、この夜が、続けばいい。

 夜を彩る花火。光って咲いて。それが終わって静まり返っても、また、花が咲く。

 繰り返し、夜空を染める。


 だけど、時間になれば、終わる。

 永遠に、続きはしないのだ。

 そして、花火は、あっという間に、すぐに、終わる。

 今、この夜空を見上げている大勢の人達。その大半は言うかもしれない。


 キレイだね。楽しかったね。また来年一緒に見ようね……と。


 ミサキと零一には来年はない。

 今、このときだけしか。


 急激に、ミサキの胸にこみあげてくるものがあった。


「ミサキさん……?」


 今の今まで、はしゃいで、ワクワク顔で、花火を見ていたミサキ。

 その両目から、静かに涙があふれていた。


「あ、ご、ごめん……」

「どうしたんですか?」


 零一には、ミサキが泣く理由が分からない。

 共に花火を見て、はしゃいでいたはずだった。


 窓の外ではまだ花火が続いていた。


「……今日の花火が終わっても、また、零一君と花火が見たいって思ったんだ」


 ぼそりとミサキは言った。


「えっと、花火ですか? 八月の終わりにもまたここから見える花火大会がありますよ。それも一緒に見ますか?」


 ミサキは首を横に振った。


「ううん、違うの。あ、八月の終わりの花火もみたいけど。そうじゃなくて」

「そうじゃなくて?」


 零一が首を傾げる。


「来年。再来年。三年後、四年後、五年後……。ずっと、この花火を一緒に見たいって、そう思っちゃったんだ」


 ごめんと、ミサキはつけ加えて言った。

 零一は答えられなかった。


「契約期間は一年間。ううん、もう夏だから、あと秋と冬。桜が咲きだしたらお別れなんだから、来年のこの花火は見ることができない。わかってるんだけど、わかっていたんだけど……」


 後は、言葉にならずに、ミサキは泣きだした。

 泣いても、どうしようもない。

 泣いても、零一を困らせるだけ。

 ううん、それとも……困らないのかもしれない。だって、零一はロボットだ。感情は、ない。人間の感情に対応して、言動を選択できるように、ミサキを相手に経験を積んでいる……データを蓄積しているだけなのだ。


 悲しいのは、ミサキだけ。


「ミサキさん……」


 そんなミサキを、零一はそっと抱き寄せた。


「……ごめんね」


 ぽつりと、呟かれた、零一の声。ミサキは、零一の背に手を伸ばした。

 ぎゅっとしがみつく、その背中は、人と同じように温かいのに。

 体温。

 そっと髪を撫でてくれる手の優しさ。


 ミサキは、花火が終わるまでずっと、零一にしがみ付いていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ