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花も恥じらう美少年ロボットと普通の女子高生の初恋  作者: 藍銅 紅(らんどう こう)@『前向き令嬢』2巻 電子書籍2月配信


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第10話 季節は春から夏へ

 本気で、全力を掛けて、好きだと言う。

 返ってくる答えも、好き、ではある。

 だけど、ロボットの好きは、人間の心とは違う。

 プログラムされたもの。

 恋愛を、人の感情を学ぼうとして、恋人として過ごす一年。

 そのためのモノ。


「それが、どうした」


 家まで走って帰りながら、ミサキは思う。


「だから、何」


 繰り返す。


「わたしが、零一君を好きな感情は、嘘じゃない」


 多分、最初から。動画を見て、惹かれた。

 最初は、テレビのアイドルを見て魅かれるような、そんな感情でしかなかったはず。

 だけど、実際に会って、話して……悩んで。それからきっと、本当に好きになった。


 一年間限り。

 プログラム。

 たくさんのマンガも読んで。

 読んだマンガにはいろんな展開もあった。

 参考になるのかならないのか、わからないけれど。


 それよりも。


 悩んだりするのは一年が過ぎた後でいい。

 悲恋になって、大泣きしたら、ハッピーエンドのマンガを、山のようにプレゼントしてもらう。

 大丈夫。

 泣いても、笑っても、一年。

 全力で、走って、ぶつかる。


 後悔の、ないように。


 よっしゃ、行ってこい!


 言葉に背を押されて。

 走って、告白をした。


 だから。


 泣くのは後。

 今は、全力で、好きを伝える。伝え続ける。

 心の中で繰り返す。



 そうして週末ごとに、ミサキは零一に会いに行った。

 デート先はヒノマル・メカニカル・ワークス株式会社のビルの中のテナント。

 デジタル体験ギャラリーやカフェ、カラオケなど。

 零一の部屋で、勉強を教えてもらうこともあった。


 だけど、場所はどこでもよかった。

 大事なのは一緒に過ごすこと。


「ありがとう」

「大好き」


 気持ちを、言葉にして伝えること。


「今日は楽しかったよ」

「また来週ね!」


 桜の花びらが散って、葉桜になって。

 春の穏やかな空は、あっという間に日差しの厳しい夏になっても。

 ミサキは零一に好きを伝え続ける。

 笑顔で。

 先の別れなど、知らないかのように。



        ***



「夏休みになったら、毎日のように来てもいいかな!」

 にぱっと笑いながら、ミサキは零一に聞いた。

「はい。もちろん」


 零一も微笑みを返す。


「ありがとう! わたしのおかーさん、在宅仕事だから。仕事している人の側で、わたしがごろごろしているのも、ごめんなさいって気になっちゃって」

「お母様がお仕事中は、ミサキさんは学校の課題を行うとかは……」

「ひーん! そんなにサクッと宿題ができれば苦労しないんだよー」

「ミサキさん、戸部平高校生ですよね。あの優秀な……」


 そう、市立戸部平高校は、県内トップ……とまでは言わないが、そこそこに偏差値が高い。


「おかーさんの経済的負担にならないように、ウチから一番近い公立高校に通おうと思ってて。そしたら、戸部平高校しかなくって。だから、中学時代は必死になって勉強していただけ」

「なら、今も必死になれば……」

「……高校入試で燃え尽きて、高校一年生の時期はだらーっと最低限の宿題とテスト勉強しかしてなかったし……」

「……大学受験、どうするんです? それとも就職とか、専門学校とか」

「ううう……、学校の先生みたいなこと言わないよー」


 頭を抱えたミサキに、零一はくすりと笑った。


「勉強、わからないところは教えられますよ?」

「いいの⁉」

「もちろんです。家庭教師もできる程度の知識は有していますから」

「ありがと、零一君! 助かります!」


 次の日から早速、ミサキは学校の課題を山ほど抱えて、零一の部屋にやってきた。部屋はヒノマル・メカニカル・ワークス株式会社のビルの中の四十階の一室。元々は会議室だった場所にラグを敷き、その上にクッションを転がして。そして、ミサキが飲食や勉強ができるようにと食卓サイズのテーブルと椅子が四脚入れられただけではある。ミサキと零一の分の二脚ではなく四脚なのは、ごくたまにではあるが、朝比奈やカエデが来ることを考慮した結果である。


 寝る必要のない零一の部屋にベッドはない。代わりにあるのはスティッククリーナータイプの掃除機の充電器のような、立体型の充電ステーション。ミサキが帰った後、ほとんどの時間を零一はこの充電ステーションの上に載って過ごすらしい。


「将来的に、ボクの発展形のロボットが大量生産されて、各ご家庭や医療現場、ご老人用ための地域交流センターなどに配属されたときの充電を想定して、家庭内のコンセントからも充電が可能のように設定してあるんです」

「へー……」

「工業用の充電ではないので、少々時間がかかるのが難点ですけどね」

「時間、かかるんだ……」

「ええ。人間の睡眠時間が六時間とか八時間とか、その程度必要なのと同じ……と考えればいいかもしれませんね。ボクもだいたい毎日六時間ほど、ここに乗っています」


 勉強を教わる合間に、他愛もない話をすることもあれば、零一のことを聞くこともある。

 とはいえ、保守義務的な側面もあり、零一のことは聞けないこと、話せないことも多い。

 それでも、ミサキは構わなかった。

 一緒に過ごすこと。時間を重ねること。

 おしゃべりをして、笑ったり驚いたり。

 それが、楽しい。だから、それだけでいい。

 そうしているうちに夏休みも半分が過ぎた。


「こんにちはー」

「いらっしゃい、ミサキちゃん」


 宣言通り今日も、ミサキは零一の部屋にやってきた。


「あー……、外からこのビルに入ると空調効いていてサイコー。涼しい~」

「あはは。夏だものねぇ」

「うん、しかも今日は、駅から海側に海側に向かう人、すごく多くて。余計に熱く感じた。ライブとかなんかあったっけ?」


 零一の部屋の窓から外を見下ろせば、大勢の人間が海側へ向かってぞろぞろを歩いていた。浴衣を着ている人もいる。


「ああ、ほら、今日はあれですよ。コンベンション・センター一帯の臨港緑地公園(パーク)で夏祭り」

「あ、ああっ!」

「昼間からずっと音楽の演奏や屋台が出て、夜には打ち上げ花火が五千発とかいろいろ」

「そうだった! 忘れてた!」


 幼いとき、ミサキもカエデに連れられて夏祭りに来たことがある。

 綿あめを食べて、口元をベタベタにして。ヨーヨー吊りはひとつもつれなかったけど、オマケで黄色のヨーヨーをもらった。カエデは射的で景品を取ったりもした。

 そんな思い出を、ミサキは零一に語っていった。それを、にこにこしながら、零一は聞いた。


「あー、零一君は……夏祭りとかは、行けないよね?」

「そうですねえ。曇っていたのならなんとかなったかもしれませんが。この気温と湿度ではオーバーヒート起こしそうですし」

「そうだよねえ……」


 ちょっと行ってみたかったな……と、ミサキは思った。

 夏祭りでデートなんて、恋人っぽい。


「外出はむずかしいですが、夜の花火なら、ここの窓から見えますよ」

「あ、そういえば、最初あった時にも言っていたっけ」


 炎天下にデートに出なくても。

 空調設備のある高層階のビルの窓から花火を見る。

 最高ではないだろうか。


「あのね、零一君。今日、わたし、花火が終わるまで、零一君の部屋にいていいかな?」


 一緒に花火を見よう。

 ミサキはワクワクした目で、零一を見た。


「もちろんいいですよ」

「ありがと! じゃ、わたし、自分用の食べ物、ちょっと買ってくる! あ、あと、おかーさんにも連絡しなきゃ!」

「あ、帰りはタクシー使って送りますと、カエデさんに伝えてください」

「え、歩いて帰れるし。それに、花火イベントなんて日に、タクシー捕まるかなあ」

「ちゃんと今から予約します。花火が終わるの八時ですよ。さすがに一人で歩いて帰せません」

「んー、じゃあ、お言葉に甘えて」


 へへへーと、笑いながら、ミサキは財布とスマホを持って、ビルの商業階のコンビニに、飲み物と食べ物を買いに出た。



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