衣服を溶かす魔法6
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「なるほど。『打撃を与える魔法』と『部屋の鍵をかける魔法』と『衣服を溶かす魔法』か」
マルコはヴァンダインが見つけた魔痕の魔法を復唱する。
「私の魔痕探知は魔具が発する小さな痕跡も検知し、精度は1日前程度ならはっきりと発見出来る程だ。見間違える事はない。部屋を見るに、私を呼ぶ前提だったろうから、魔具は使わない様に心掛けていたという様子だな」
「まぁ、そうだ。暗い部屋の中、魔灯すら炊かせない様に市警の面々に伝えるのは苦労した。この宿は珍しく魔灯も蝋燭も両方備えているけれど、多くの人間は火を魔法で出す。マッチなんて無用の長物になりつつある」
発見する事のできた三つの魔法の痕跡。それらではなおも、現状を打開する様な事は出来ない。目で見える捜査と魔痕に残る事実が噛み合っている。
「ちなみに『部屋の鍵をかける魔法』はここの宿主が事前にかけていたものなのか?」
「それは確認済みだ。防犯の為に、この宿では全ての部屋に23時には魔法で鍵がかけられる。それまでの人の出入りを確認する事は出来ないが、犯行はその後に行われている為、今の所よく調べてはいない」
「どうして、犯行が23時より後だと言い切れる?」
「証言があったんだ。深夜3時にオルセンの姿を見たという人物がいた」
「なるほど、犯行はその時間より後か。けれど、それはそれで怪しい人物だ。自分が犯行を及んだ後に、発見した事にして捜査を撹乱させる魂胆では無いのか」
「無論、その証言者の身柄は確保している。それはまた後に分かる事だ。他に気になるところはないか?」
「とりあえず、十分だ。事件現場の事実はあらかた理解した。次は人物像を掘り下げていきたい」
オルセン・ドラモンドの人物像はキアンが調べている。後でそれらの情報を照合するとして、2人がやる事は部屋にいた女性に話を聞く事だった。
マルコはヴァンダインに何を言われるまでもなく、スマートに彼を隣室へと連れ立つ。
部屋から出て、次の部屋へと渡る。外に構える市警達の中に先ほど部屋を案内していた市警の姿がある。ヴァンダインは彼のことを上から下までじっくりと一度見る。彼と目が合い、ヴァンダインは少し微笑むのに対して市警は返答にキッと無言の睨みを送った。
「やはり、さっきの市警。まだ怒ってるぞ」
「目を合わせにいくなよ」
マルコは呆れながらも表情を変える事はない。部下の市警達の前で彼は自分の規律を緩める事を許していないのである。
扉をノックする。中からの返事は無い。マルコは少し息を整えてから、部屋の中に入った。