衣服を溶かす魔法16
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宿に戻るとマルコが毅然とした態度でヴァンダインとキアンを待ち侘びていた。当然のように、マルコはキアンと同じ視線になるためにしゃがみ込み、彼に話しかける。
「おかえり、キアン。ヴァンダインに良いものを食べさせてもらったかな?」
「はい」快活に返答する。
「マルコ、宿屋の主人に話は聞いてくれたか?」
未だにしゃがみながら、顔だけをヴァンダインの方へマルコは向ける。
「あぁ、聞いてきた。昨晩の彼らの様子だろう?」
「彼ら、殺されたオルセンとリシェルがどの様な様子で宿の中に入ったのか知りたい」
「聞いてはきたが、無論今までの話を否定できる情報はなかったぞ」
「そうか、計画性のある犯行だ。およそ誰の証言にも決定的な情報はないだろう。この件に関して私が出来ることはリシェルが唯一の犯人候補ではない事を証明する事くらいだ」
「それで構わない。そこまで示してくれれば、今回の件でこれ以上君に付き纏ったりはしない事にするよ」
「付き纏っている自覚があったのなら、その時点で辞めて欲しいのだが。まぁ、良い。それで宿主はどのように言っていた?」
話始めて、誰かが歩き始める。3人は宿の中を歩いて、リシェルが待つ部屋を目指す。
「彼らが宿を訪ねてきたのは、22時11分、最後の客だったし、オルセンはこの宿の常連だったこともあって、時刻は間違えないという」
「客は2人。リシェルとオルセンだったと。顔もちゃんと確認したらしい。先にも言ったが、オルセンはここの常連客。好色家の利用する宿というのだから、用途は予想に反しない。夜更けに女性を連れ込むことも珍しい事でもなかったそうだ」
「昨晩の祝賀会はあまり公にされているものでは無かったのもあり、宿主も深くは考えずに部屋の鍵を渡した。大きめの荷物を持ち、酔った女性に肩を貸して歩くオルセンに休ませる部屋を早く渡したいという思いもあったようだ」
「それからは部屋に誰かが侵入した形跡は無い。時間も時間だったから、2階以上のフロアにある窓の鍵を22時には内側から施錠していた。無論、それにも『鍵をかける魔法』がかかっていたから、23時以降に中に侵入することは出来ない」
マルコは宿主から聞いた情報を語りきった。確かにリシェルが起こした犯行を否定する要素は無い。完全に噛み合っている証言と状況。全てがリシェルを犯人へと仕立て上げようとする為に残されているみたいだ。
リシェルの部屋へと辿り着く。そして、ノブを捻る。
「マルコ、謎は解けた。それを説明しよう」ヴァンダインは言い放つ。