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衣服を溶かす魔法15



「……な、何を馬鹿な事言っている」

 強気な言葉、震える唇から発されるそれは何とも不合理である。


「ベットで寝た。もちろん、夜勤で疲れたから仮眠をとっていたという訳ではない。夜、女性と性交渉を行っていたと言う意味だ。君は隠さなければいけなかった。理由は二つある」

「一つは職務怠慢。勤務時間中にそんなことをしているのが露見すれば、君の出世街道は間違いなく途絶える。今あるなかなかの地位でさえ失いかねない様な事実だ」

「そして二つ目、指輪を見れば分かるが結婚しているな。リングの様子から見て、婚約後4、5年。夫婦仲は良好だが、愚かにもそれゆえに夫は刺激を求めている。『傷跡を隠す魔法』はリングによって着いている圧痕を消す為、内部の人間に結婚している事は知られているだろうから、不倫相手は仕事場の人間ではない。婚約者がいる事を隠している様な付き合い方ゆえに性風俗などでもない。その割に『衣服を溶かす魔法』というイレギュラーな魔法を使う様な間柄」

「洗えば出てくるだろうな。君の交友関係の自ずから、1人がちゃんと」


 市警は膝から崩れ落ちる。指先が震え、革靴のつま先で石畳を掻く。呼吸は荒く、声を出そうとしても喉が鳴るばかりだった。自分の全てが露見した事に対して、そしてそれを知っているヴァンダインという男を前にして、強く目の前で起立することすらままならない思いがした。


「この二つの理由から、君は露見すれば、仕事もプライベートも全てを失う事になる。何もかも、本当に何もかも」

 上からものを言う様に冷淡にヴァンダインは言葉をぶつける。市警は下を俯きながら、ゆっくりと呼吸を整え、タイミングを測り、淡々と言葉を発し始める。


「……何が望みなんだ」

「俺をただ糾弾したいだけなのなら、マルコ区警長補佐にでも言ってしまえばいい。けれどお前はしなかった。焦った姿がみえた俺を見て、再度見つかりやすいテラス席に座り込んでいた、俺を誘い込む為だ。態々、俺を誘き寄せて、弱味を掴んでいる事を説明する。それは、俺と話して、何かをさせる為なのだろう」


 ヴァンダインは目を丸くする。もう一度、ちゃんと市警の目と姿形を確認する。


「……良いじゃないか、話が早いのは助かる。流石は自分の足で今の地位を築いただけの事はあるな」


「…………」


「ふむ、では率直に。『衣服を溶かす魔法』、その魔法の限界を知りたい」


「何、そんなことか?」


「もちろん、それだけじゃ無いが、事件を解くことが最優先なのは私も同じだ。もし時間がかかったら、マルコから何時迄も連絡が来るからな」

「それに……『そんなこと』が解決に必要だったりする。皆、魔法の意味合いと名称を甘く断定しすぎるところがある」


「魔法の意味合い、それは何だ?」


「知らないのなら良い。馴れ合うつもりは無い。私はその魔法について知る術が無いから困っているだけだ。必ず嘘をつかない君の存在は事件を解決するのに相応しい。ゆえに、君は知っている事だけを話してくれれば良いんだ」


 市警は地に尻をつけながら、一度ヴァンダインを見た後、顔を横に向け、唾棄する。


「良い様に使いやがる」


市警の呟きに、ヴァンダインは小さく肩を竦めて見せた。

「それは君の行動が蒔いた種だ。さっさと諦めて言うんだな」


 市警は息を吐く。

「『衣服を溶かす魔法』、これを教わったのはお前も想像しているかもしれないが、売春を斡旋する青年犯罪集団だった。俺が今の地位に至るのに不可欠な功績の一つだ」

「六区は莫大な成長の裏に、流路獲得による移民の拡大によって、成長を続ける高齢層所有企業と仕事のない若年層との格差が生まれた。その隙間に売春は蔓延った」

「この魔法は現代魔法の中でも特にこの情勢にぴったりで薄汚れた魔法だ。金のない若者の全てを曝け出させる為の魔法」

「身に纏う全てを溶かす魔法。別に妻と寝る時だって、俺は指輪を外す。それが『衣服を溶かす魔法』の限界だからだ」

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