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衣服を溶かす魔法と魔痕探知師  作者: 端役 あるく


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12/19

衣服を溶かす魔法12



 しばらくして、店の奥から店員が料理を卓に運び込む。キアンはキラキラと目を輝かせて、運ばれてきた料理達の煌びやかを評価する。一口食べて、二口食べて、その美味しさを言葉多く語る。


 ヴァンダインは変わらず語らない。静かに黙々とそのキアンの言葉を聞いているのか、いないのか終始言葉を返す事は無かった。


「美味しかったですね」


「あぁ」


「色んな香辛料の味がしました。貿易の盛ん故でしょうか」


 テーブルの上には白い皿が残る。バッシングに来る様子は見られない、早く客を入れ替えたいという気配も無い。ゆるやかに流れる雰囲気を、2人は肌身で感じ、和む。


 高く登る陽は空気を暖め、海浜からの風がそれを程良く引き延ばす。吹く風はテラス席の彼らの隙間を通り抜ける。


 一度、強めの風が吹く。キアンは飛びそうになった帽子を手で押さえる。1日の中で飛び抜けて温い風に感じた。目は水分を奪われて、瞼を瞬間だけ下ろし、また上げる。


 ヴァンダインが動いていた。立ち上がって、キアンの隣を通り過ぎて、後ろに回った。それを視界に収めようと身体を回転させる。


「何のようだ?」目の前の相手にヴァンダインは呼びかける。対して、何も言わない。相手は歯噛みしている気持ちを増幅させるよう。


「何のようだと聞いているのだが、市警の者」

 そこにいたのは、先ほど宿の中でヴァンダインを案内していた市警の男だった。


「いえいえ、ただ七区の人間が、六区で悠々と昼食をとっているところを出くわしたものだから、挨拶に来たまでですよ」


「あぁ、そうかい」


「まぁ、こんな機会です。少し話をしましょう」


「手早く済まして下さい。私はまた宿に戻らなくてはならない」


 市警は強く歯噛みする。眼光が飛び、拳が握られる。震える拳、薬指に指輪が光る。


「率直に言おう。六区から今すぐに手を引け。七区の人間がこそこそと動き回っていては捜査に不備が生じる」


「不備とは?」


「被害者であるオルセンはこの区では一二を争う有名人だ。今は緘口令を敷いているがそれも時間の問題だ。それによって手続きに不備が生じる」


「それは犯人として、彼女をさっさと検挙出来ないからということかい?」


「……」


「まぁ、彼女もまた他区の住民だものな。だからこそ、態々七つの区を股にかける区警長、その補佐であるマルコが直々に出張っているのだ。出来るなら、そのような事も気にせずに、簡単な犯人で済ませたかったのだろうが。もう既にこの事件は六区で収まる規模では無い。人の手を借りるのも時に大事な事だ」


「この事件は六区の管轄だ。いかに区警長補佐と言えど、ズカズカと入ってこられたら困るというもの」


「困る、ね。なるほど……君の階級章を見るに、『六区警巡査部長補佐』。六区における実働部の中心を担っている訳だ。なかなか位の高い人間だな。年齢も30代前半で、先も長い。けれども、マルコはそれよりも若く全区警長の補佐である、確かに嫌な関係性だな。ある程度仕切ることの出来る立場にいる人間ほどそう言ったやり難い他者の介入を嫌う」


「俺はそう言った私怨で言っているのでは無い。マルコ区警長補佐の存在を嫌がるという事はない」


「あぁ、そうかい。まぁ、それほど個人的な嫌悪を向けている訳ではないか。だがしかし、君は早く事件が収束し、早く出ていってほしいと思っている」


「その通りだ。あの状況、犯人はほぼ断定できているようなものだ。馬鹿な女が無謀にも否定しているが、オルセンもいい気味じゃあないか。自分の愚かな好色の反撃を食らうなど」


「事件は終わっていない。犯人は決まっていない」


「魔痕の結果か、笑わせるな。マルコ区警長補佐はあまりにやり方が強引すぎる。中でも君の介入が一番の不愉快だ。魔痕探知師など、占い師の次に詐欺師の紛い物だろう。魔痕が見えるといって、人の不安を煽り、金品を不当に奪い去るという事件もある。悪魔祓い、宗教と何が違う、そんな戯言で六区を掻き乱すな」


 キアンは席からその様子を見る。私見も交えるが、芯を捉える中身のある答弁をする市警。その割に冷静さの欠ける怒号の音圧。赤熱する肌。それを見て身震いする。


「随分と早い決着に拘るな。私が魔痕探知師だと言う事、それに自分の上司に当たるマルコにも忌避感を強く抱いている。その原因は何処からかな」


 ヴァンダインは静かに彼の身体を下から上へと見る。身分に見合った質の革靴。指に嵌められた結婚指輪、左胸に記された徽章、頭にふわりと被せられているだけの市警帽。


 市警は向けられたヴァンダインの鋭い視線の奥にある確信めいた何かを確認して、赤熱は一気に沈み込む。顔は青く、錆の緑青を思わせる。一歩、後退る。


「魔法を習得するには大きく分けて二つある。一つ、自分でその根源を学び長い年月をかけて発見する事、そしてもう一つ、こちらの方が一般的だが、誰かに教えを乞う事だ。この様な状況ゆえに、魔法にはそれぞれ一般的なものもあれば、職種によって習得するものも、そして何より印象が悪いものもある」


「…………」


「習得魔法の宣言はあくまでも自由意志だ。厳しい審査でも行わなければ、嘘をつくことなど容易」

「ここで君に問いたい。事件現場に残されていた魔痕の中に、一つ特異なものがあった」

ヴァンダインの声は低く、周囲の空気を一気に引き締める。

「……『衣服を溶かす魔法』だ」


市警の肩が震え、革靴が石畳を擦った。


「君の肌に同じ魔痕がある。一体、それは何かな?」


 

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