衣服を溶かす魔法1
登場人物
探偵……ヴァンダイン・クロウフィールド
助手……キアン・ロウクロフト
記者……リシェル・カーレン
資産家……オルセン・ドラモンド
市警区長補佐……マルコ・ヴェレッティ
1
区分、殺人事件。
老舗宿イテロの201号室。入り口を有する部屋と、その部屋から繋がる寝室の二部屋で構成されている。
被害者はオルセン・ドラモンド
遺体発見時刻、8時23分。朝食に起きてこない宿泊者を心配した宿主がこの部屋を尋ねたが、返事がない事に違和感を感じ、マスターキーを使用し侵入、被害者を発見した。
201号室にはもう一人、リシェル・カーレンと名乗る女性が在室していた。部屋が密室だったこともあり、その人物から事情を確認中。
この伝達魔法文は短期間しか保たないが、機密事項である為、読み次第即刻魔法処理を求める。 ヴァンダインへマルコより
2
港湾都市グラナティア。流れる運河によって隔たれた八つの区に都市は分けられる。運河は人と商品を運ぶ事を生業とし、他都市に対して魔導商業分野における交易を中心に行う。
そのようなグラナティアにして、ここは運河より離れた内陸の地。無論、人の出入りは極めて少なく嫌味なまでの静謐を醍醐味としている。
朝日が窓から差し込む。豊満な緑は光を分散して、温度を柔和にし、手元の雑誌を照らす。
『月刊オラクル』黄と紫に彩られた表紙の奥には、都市にときめく喜びと、暗雲の輪郭をこの雑誌は内包する。今読んでいるページには「都市で水から離れた場所で生活をする事は、与えられた餌を食べようとしない犬と同じだ」と都市のPRとして、何処ぞの著名人が発言をする。
「ここは静かなところが良いのです。それが分からない方々にはこの生活は理解出来ないでしょうね」キアンは椅子に座りながらぶつくさと呟く。ページを捲る為に一度、食卓の上に雑誌を置く、それからページを捲り再度雑誌を持ち上げる。またゆっくりと目を通す。
目を凝らせて、文章を追っていく。一行、二行ゆっくりと進む。次の見開きは大きく見出しが出ている、えっと『近隣都市の裏の顔』……。きな臭い事件の匂いに男の子の目は煌めく。その時、雑誌がひょいと上に引き上げられた。
「あぁ!ちょっとヴァンダインさん」
彼は何も答えずに、自分の椅子にどっかりと座り込む。そして、キアンが先ほどまで読んでいた雑誌を自分の机の上へ投げた。
「おはようございます、ヴァンダインさん。今朝はゆっくりの起床でしたね。珍しい」
「…………」
起床後、短い時間という事もあってか、キアンの言葉に返す言葉を持たずにただ大きく体を伸ばす。それを2回3回と行ったところで、カラッとヴァンダインは言葉を寄越す。
「キアンは相変わらずだね。いつも通り、23時にベットに入り、8時に起床する」
「そう、相変わらずです。いつも通り起床後、僕は新聞または雑誌を読んでいました」えっへんと言いながら、キアンは胸を張る。
「『月刊オラクル』こんな雑誌どこから拾ってきたんだ、全く」
「北西の森の中に捨てられていましたよ。所謂、『不法投棄』というやつでしょうかね」
「やれやれ」そう言うと、ヴァンダインは自分の髪の毛を指で摘んで遊ばせる。癖毛である彼の髪の毛はふわりと揺れる。
「そういえば、今朝方、魔法文書が届いてましたよ。えっとー、これですね」キアンは部屋の中を駆け足で進んで、ヴァンダインに文書を渡す。
彼は中身をさらっと流し見すると、それをバラバラに破り捨てて、ゴミ箱に捨てた。
「誰からでした?」
「マルコだ。いつものマルコ」
「流石です、ヴァンダインさん。いつも市警の方から頼りにされている」
「どうだかな。ことマルコに至っては頼りになるから呼んでいる訳では無いだろう」
「今回も行きますか?」
言葉を聞き、彼は言葉を返さない。空気は静かになって、清らかに落ち着いて、キアンは深く呼吸をしたくなる。澄んだ空気を介して、キアンは目の前の彼をしっとりと見つめる。途端、ヴァンダインは椅子から立ち上がると、上着を手に持つ。
「行くんですね!」
「はぁ、そうだな。今日もネタの提供でも受けに行ってやろうか」