ラブコメ編第3話
翌朝、楮の里の小道を三人が並んで歩いていた。いちごといちかは揃いの制服姿で、刹那は少し離れて後ろから見守るように歩いている。
「ねえねえ、私のリボンの結び方、いちごと一緒だよ?」いちかが楽しそうにくるりと回って見せた。
「お姉ちゃん...もう少し落ち着いて...」いちごは周りの視線を気にしている様子だった。
確かに、通りすがりの人々は不思議そうに二人を見つめていた。瓜二つの美少女が並んで歩く姿は、この田舎町では珍しい光景だった。
「おい、あの子たち双子なのか?」「でも今まで一人しか見たことないよな...」そんな囁きが聞こえてくる。
刹那は少し距離を詰めていちごに小声で聞いた。
「本当に身体同じなのか?」
いちごは顔を赤らめながら、ため息混じりに答えた。
「恐ろしいぐらい一緒よ...お姉ちゃん、全部チェックしてるんだから...」
「まぁ...こればかりは致し方ないか」
高校の正門が見えてきたところで、刹那は足を止めた。
「ここまでだ。俺はこれから和紙職人の佐藤さんのところに行く」
「え~? もう帰っちゃうの?」いちかが不満そうに唇を尖らせた。
「お前たちの学校生活に、俺がいても邪魔だろう。それに...」刹那は懐からメモ帳を取り出した。「和紙作りの修行もしないといけない。神社のお供え用として」
いちごは心配そうな表情を浮かべた。
「でも...お姉ちゃんが何をするかわからないし...」
「大丈夫だって!」いちかがいちごの肩をぽんと叩いた。「ちゃんと普通の女子高生してるから。ね、刹那くん?」
刹那は疑わしそうな目でいちかを見た。
「約束だぞ? 変な能力は使うなよ」
「は~い」いちかは無邪気に手を振った。
「それより...」刹那がいちごに視線を移した。「どう説明するつもりだ?」
いちごは深く息を吸い込んだ。
「遠く離れて住んでた双子の姉が帰ってきたって話にするしかないでしょ?」
「そうだな...」刹那はうなずいた。「それしかないよな」
「じゃあ、行ってきます」
いちごが小さく手を振った。
いちかは突然駆け寄り、刹那の頬に軽くキスをした。
「いってきま~す! お昼には様子見に来てね!」
「お、お姉ちゃん!」いちごが慌てて引き離そうとする。
刹那は呆然と頬に手を当てたまま、二人が校門をくぐるのを見送っていた。いちかは振り返りながらにっこり笑い、いちごは恥ずかしそうに下を向いている。
「まったく...」刹那は苦笑いしながらつぶやいた。「がんばれよ...」
そう言い残し、和紙工房の方へ歩き出した。しかし、頭の中は学校に残してきた二人のことでいっぱいだった。
「いちかのやつ…..わざとらしいキスなんかして...」
そう呟きながらも、頬のあたりが妙に熱いのを感じていた。今日一日、どんな騒動が待っているのか、想像するだけで胃が痛くなった。