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和紙の里の秘密  作者: JIN
10/10

ラブコメ編第5話

翌朝、教室に響くチャイムとともに一日が始まった。いちごは緊張しながら教科書を開いた。隣のいちかはというと──


「国語の教科書って、こんなに面白かったんだ!」


目を輝かせながらページをめくるいちかの手が止まらない。先生が朗読を始めると、いちかは教科書を閉じ、すらすらと暗唱し始めた。


「『春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、すこしあかりて…』」


クラス中がどよめいた。先生も驚いた様子で目を丸くする。


「千石さん…清少納言の『枕草子』を全部覚えてるの?」


「え? だって教科書に書いてあるじゃない」いちかは不思議そうに首を傾げた。「紙に書かれたものは全部頭に入っちゃうの」


いちごは隣で顔を覆った。(お姉ちゃん…それ、普通じゃないってば…)


英語の時間も同様だった。教科書の英文を一度読んだだけで、いちかは完璧に暗唱できる。発音もネイティブのように滑らかだ。


「いちご、お姉さんすごいね…」後ろの席の女子が感嘆の声を漏らす。


「は、はい…」いちごは苦笑いしながらも、内心は複雑だった。(私、こんなに勉強できるわけじゃないのに…)


しかし、数学の時間になると状況が一変した。


「…xの値を求めよ、ですか」


いちかが問題用紙を睨みつけ、眉をひそめる。珍しく苦戦している様子だ。


「お姉ちゃん、大丈夫?」いちごが小声で聞く。


「いちご、これ…数字が動いて見えるんだけど…」


「それはただの苦手意識よ」いちごがため息をついた。


しばらくすると、いちかは諦めたように鉛筆を置き、ノートの隅にかわいい落書きを描き始めた。和紙でできた小さな動物たちがページいっぱいに広がっていく。


「お姉ちゃん、授業中よ…」


「でも数学はちんぷんかんぷんなんだもん。代わりにいちごのためのお守り作ってるの」


いちごは思わず微笑んでしまった。(お姉ちゃんにも苦手なことがあるんだ)


そんなほっこりした気分もつかの間、午後の体育の時間がやってきた。今日の種目はバスケットボール。


「よーし! 体を動かすのは得意だよ!」いちかは張り切ってコートに飛び出した。


最初はぎこちない動きだったが、すぐにコツをつかむと、あっという間にいちごと同等の動きを見せるようになった。


「お姉ちゃん、そんなに急に上達しないでよ…」いちごが困惑する。


「だって、いちごの体のデータを元にしてるから。身体能力も同じなんだよ!」


いちかは楽しそうにドリブルを続け、見事なシュートを決めた。クラスメイトから拍手が起こる中、いちごは複雑な表情を浮かべていた。


(お姉ちゃんは何でもすぐにできちゃうんだな…)


その時、いちかが突然いちごの前に立ちはだかった。


「いちご、私とマンツーマンで勝負しよう!」


「え? でもチーム分けは…」


「先生! ちょっと特別練習させてください!」いちかが手を挙げて叫んだ。


許可をもらうと、いちかは真剣な表情でいちごに向き合った。


「さあ、いちご。私に勝てるかな?」


「お姉ちゃん…」いちごは覚悟を決めたようにボールを構えた。「本気でいくよ」


二人の一対一が始まると、クラス中が注目した。瓜二つの美少女が激しくぶつかり合う姿は、まるで鏡を見ているようだった。


「お姉ちゃん、ずるい! 私の動きを全部読んでるじゃない!」


「だって、いちごのことなら全部わかるもん!」


激しい攻防の末、いちごが奇跡的なシュートを決め、勝負がついた。二人とも汗だくで息を切らしていた。


「はあ…はあ…やったよ、お姉ちゃんに勝てた…」


「いちご、すごいじゃない!」いちかは満面の笑みで妹を抱きしめた。「私、本当に楽しい!」


その瞬間、いちごの中にあった劣等感がふっと消えた。お姉ちゃんは確かにすごいけど、自分にも勝てるところがある──そう思えたからだ。


放課後、校門で待っていた刹那に、いちかは興奮気味に今日の出来事を報告した。


「でねでね、いちごが私にバスケで勝っちゃったの! すごくない?」


「お前、わざと負けたんだろ?」刹那は疑い深そうに聞いた。


「ちがうちがう! 本気で負けたの!」いちかは楽しそうに笑った。「いちごは私よりずっと頑張り屋さんなんだよ」


いちごは照れくさそうに下を向いた。刹那は二人の様子を見て、少しだけ微笑んだ。


「まあ、学校楽しいみたいで何よりだ。明日は何の授業だ?」


「えーっと…」いちごが予定表を確認する。「音楽と…家庭科かな」


「家庭科!」いちかの目が輝いた。「料理作るの? 私、いちごの特製おにぎり再現してみたいな!」


「お姉ちゃん、また私の知識使うの…?」


「当たり前じゃない! だって双子だもん!」


いちごのため息と、いちかの笑い声が夕日に染まる校庭に響いた。刹那はそっと目を細めながら、二人の後を追った。

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