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(第四部:天正伊賀の乱編)第七話:伊賀の壊滅

翌日の夜明けとともに、比自山城に朱雀派の総攻撃が始まった。しかし、闇に紛れて伊賀衆は柏原城に逃げていた。

「一杯食わされたわ! 全員、柏原城に突撃だ!」霧笛はもぬけの殻だった城内に入り、裏をかかれ悔しがった。

「おお~!!」柏原城への進軍が始まった。一日遅れで、瓜丸が合流した。

「お待ちください、霧笛どの」

「何だ、お前は? 何度も鬱陶しい奴だ!」

「平和的に、麻雀で決着をお付けください。前回の『長篠の戦』のように」

「・・・」霧笛は一瞬だけ考えたが、何やら意を決した様子で、

「よかろう」と快諾したように見えたが、表情は邪悪さに満ちていた。そして、霧笛の決断が瓜丸の不幸だった。

「開門を願う!」瓜丸の声に、百地は嫌々ながらに朱雀派の代表を受け入れた。

「(ふっふっふ。下手に本物の攻城戦に持ち込むよりも、瓜丸(コイツ)を利用して城内に入ればよい。遥かに犠牲が少なくて済むわ、ふっふっふ。麻雀の結果など、何とでもなるわ!)」


朱雀派は、麻雀を打つ少数の代表者だけが城内に案内された。その数は、わずか十人程だった。対する伊賀衆は、二千人ほどの兵隊が待ち構えていた。乱闘戦を想定していたからだ。

「それでは、『第三次天正伊賀の乱』を行います。『第一次天正伊賀の乱』は、伊賀衆の勝利でした。『第二次天正伊賀の乱』は、伊賀衆の勝利でしたが、没収試合となりました。遺恨を残さぬために『第三次天正伊賀の乱』は、二卓に分けて行います。伊賀衆の1勝から始めます。朱雀派は2勝しなければいけません」

「よかろう」霧笛は承諾した。

「うむ、俺たちが優位なのは当然だ。良いだろう!」百地は快諾した。

「もう一つ、条件がございます」瓜丸の仕切りに、皆聞き入った。乱闘戦に突入するタイミングを見計らっていたからだ。

「何だ?」霧笛は低い声で訊ねた。

「『第二次天正伊賀の乱』は、実質伊賀衆の勝ちでした。甲卓は二人対二人で行いますが、乙卓は、三人対一人で戦って頂きます」

「乙卓の三人が、伊賀衆だというのか?」

「そうです。やはり『第二次天正伊賀の乱』の結果を無下(むげ)には出来ません」

「そんなことでいいのか? 良かろう」霧笛は、【乱闘戦】で、開始早々斬りあいが始まるものだと思っていた。

「それでは、決まりました。対決方法は【攻城戦】です」

「? 何だそれは?」

「親対子の対決になります」

「良かろう。相手は誰だ?」

「甲卓は、百地(おれ)と石川だ。乙卓は、佐々木・村木・鈴木だ」伊賀衆は、麻雀で決着をつけるつもりだった。

「それでは、朱雀派の甲卓は、鵡川と潤吾だ。乙卓は、霧笛(おれ)が参ろう」朱雀派は、麻雀で決着をつけず、乱闘戦に持ち込む作戦だった。

「それでは、皆さん席に座ってください」瓜丸はスムーズに進行を行い、木陰で休みながら閻魔帳に記入する予定だった。一馬に乗りうつったくみとは気配を一切消していた。氷月、碧竜とともに、遠巻きに戦いの様子を眺めていた。くみとは気配を一切消しながら、一馬の体内で術が使えることを試し、柏原城に到着するまでに幾たびか成功させていた。

「(くっくっく。使えるわ。一馬の体内で、意識を消しながら、鳥獣入魂の術が使える。その内、闇斗に憑りつけるチャンスも来るであろう。くっくっく)」一馬は、『第二次天正伊賀の乱』以後、時々呼吸が荒くなり、眩暈(めまい)がすることに違和感を感じていた。

「(何かが、おかしい・・・。幻燈斎の死が原因か?)」氷月にも、碧竜にも、一馬が変わったようには見えなかった。異変にも気づいていなかった。


甲卓で本格的な戦いが始まる前に、乙卓では、一瞬で決着がついた。それぞれが席に着き、瓜丸が開始宣言する直前だった。乙卓で、親である霧笛に対して、

「打ち毀しを宣言するだ!」場は、凍り付いた。

「ん? 親に対する打ち毀しですか? 分かりました」瓜丸が認めた。

「ん? 何だそれは? そんなルールがあるのか?」

「あります。 乙卓の伊賀衆は、三人一組で親と対決することになります」伊賀衆は、南家に移動して配牌を取った。

佐々木: 二三八八1589②⑧⑨東北

村木:  一九九124③③④⑥東白中

鈴木:  一二二四1369⑤⑨南發中

   → 二二二三四234②③④⑤⑥

「! (来た!)」 「(勝った!)」 「(決まった!)」三人が三人とも興奮した。捨て配を置いて、興奮を抑えた。

捨て配: 一一八八九九11156899③⑧⑨⑨東東南北白發中中


三人の捨て牌をみて、霧笛が手の内を読んだ。

断么九(たんやお)、平和系、三色が絡んでいるとすれば、56を切って確定させた234か、振りテンを嫌った456か? 三面待ちの可能性もあるな。聴牌していないとすれば、余程運がない・・・」

「・・・」三人は、無言で霧笛を無視した。

「振りテンをせずに、雀頭一つに面子を三つ完成させているはずだ。両面以上の多面聴ならば申し分ない。理想的には、三面待ち・もしくは変則四面待ちというところか。余程のことが無ければ、五面以上の待ちにはなるまい・・・」

「・・・」霧笛の推理に冷汗が出た。

「お前らは、伊賀の中でも麻雀が上手いのだろう」この言葉に、佐々木が反応した。

「伊賀随一の打ち手だ」

「上手い奴は怖くはない。強い奴が怖い」

「ほざけ! 無駄な話などしていないで、早く切れ!」村木が食いついた。

「打ち毀しの使いどころは問題ない。しかし、相手が悪かった」

「ごちゃごちゃ言わずに、早く切れ! 待ち疲れたわ!」鈴木がしびれを切らした。

「そう、言うな・・・。切る牌が無いんだ・・・」と言って、三人の顔を見てニヤリとした。

「・・・」三人とも嫌な予感がした。

「打ち毀しの最も理想的な形は『地和』だ。しかし残念ながら、親よりも早く和了れる筈がない。子なのだから・・・」

「だから、どうした!」鈴木が怒鳴った。

「まだ、分からんのか?」

「・・・(ギクリ)」

「何か分かるか? そう、その通りだ!」三人は、背筋が凍り付いた。

「天和だ!」

8⑧5西79西⑥4發⑦3西發 → 345789⑥⑦⑧西西西發發

「!」三人は、驚愕した。

「? 瓜丸どうした? 確定を宣言せい!」瓜丸は震えた。『打ち毀し』の失敗を今まで見たことがなかったからだ。

「あわわ・・・、『打ち毀し』失敗です! 朱雀派の勝利!」

「!」場内がどよめいた。

「うっわー! 勝ったー!」盛り上がる朱雀派は、あからさまに伊賀衆を罵り出した。

「お前ら田舎忍者どもが、我らに勝てるわけが無かろう!」

「忍びを辞めて、田舎に帰れ! 武器を捨てよ! (くわ)がお似合いじゃ!」

「牛や馬もお似合いじゃ! 貴様らと見分けがつかんわ!」

「土下座すれば、許してやろう!」

「酒を持ってこい! 女もじゃ!」

「早く動かんかい!」

「・・・」城門は既に不来方によって開けられていた。朱雀派は、戦闘の合図を待ち構えていた。


伊賀衆も負けてはいなかった。

「己らの副師範は、既に伊達の頭領に負けていたわ!」

「『長篠の戦』も、実質伊達が勝った!」

「情けない師範代じゃのー」

「織田家は、威張っているだけで実は弱いわ!」この野次に、霧笛がブチ切れた。

「むんっ!」と刀を一閃し、佐々木・村木・鈴木の三人を同時に斬り捨てた。

「!」戦慄と同時に、場内の野次が止んだ。

「誰か何か、言ったか?」睨みつける霧笛を罵る者がいた。

「ほら見ろ! すぐに手が出る。図星の証拠じゃ!」霧笛は、駆け寄り斬り捨てた。

これを切っ掛けに、乱闘が始まった。

「全員戦闘開始だ! 麻雀を打っている場合じゃない!」百地は命令を下した。

「御意!」そこここで斬り合いが始まった。瓜丸は、霧笛に駆け寄って言った。

「おやめください、霧笛どの! 麻雀で平和的に解決願います!」霧笛は瓜丸の言葉を無視してぶん殴って気絶させた。側近の不来方稔が近づいて、瓜丸を抱えた。

「連れて行け! 雀武帝親衛隊には、乱闘中に鉄砲の流れ弾に当たって死んだと報告しておけ! コイツは役に立つかもしれん、一応人質にしておく」

「御意!」不来方は、瓜丸を城外に連れ去った。城外で待機していた部下は一人だけだった。

「ん? お前しかいないのか?」

「皆さん、戦いたくて仕様がないみたいです。だからここは私だけです」

「お前は、先日まで内勤ではなかったのか?」

「何でも屋なので、今回はこちらに派遣されました」

「そうか、まぁ何でもいい。こいつを安土城まで連れて行き拉致しておけ! 人質に使う」と言って、瓜丸の身を預け自らは戦闘に戻った。

「・・・」(きびす)を返し、門を潜り抜けた瞬間に違和感を持った。

「承知しましたー」と言って、瓜丸を連れ去ったのは、やけに存在感の薄い部下だった。

「(確かに、アイツは内勤でも、長篠の戦でも見たことがある。何処ででも、何度でも見かける奴だが、不思議なことに覚えていない・・・。これは、気のせいではない!)」戦闘に戻ることを止めて自分の勘を信じた。


『多勢に無勢』とはよく言ったもので、5万と言われる朱雀派に対し、伊賀衆はかき集めて9千程の兵力だった。閉じこもった状態の籠城戦ならば抵抗も出来たであろう。城門を開いての総力戦は、ゲリラ戦術を得意とする伊賀衆では勝ち目がなかった。麻雀による勝敗は無効となり、調停役も連れ去られた。一方的な朱雀派の殲滅が繰り返され、伊賀の里は壊滅した。隣国に逃げる者も、命乞いする者も、伊賀の民は根こそぎ惨殺された。


藤林長門守は、甲賀七虹士を率いて反撃の時を待っていた。

百地丹波は、三河の服部半蔵を頼り再起を図った。

石川五右衛門は、京都に逃れ盗賊となった。


悪意は悪意で、恨みは恨みで、憎しみは憎しみで返される。

悪意の複利計算が巨大に膨れ上がり、日本全国に戦国の世を展開していた。

そんな負の連鎖が、ついに大きな事件を巻き起こした。

『本能寺の変』である。


〔第七話:伊賀の壊滅〕終り

最終章(本能寺の変編)〔第一話:戦国の魔王〕に続く

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