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(第四部:天正伊賀の乱編)第六話:百姓一揆

潤吾は南家に移動すると、北家で受け取った配牌を鵡川と合わせ、切るべき牌を相談し始めた。

「(振りテンにならないように。手役構成がなるべく高くなるように。待ちが広くなるように・・・)」和了してしまえば、和了翻数が二倍になるし、ドラや字風牌のボーナスもつくのだから捨て牌を慎重に選ばなければいけない。


〔南一局〕ドラ中

東:虻蜂幻燈斎【85】 南:鵡川六郎太【77】+青野潤吾【5】 西:天翔一馬【33】 北:

幻燈斎: 二三四伍六七八2西西白白白

鵡川+青野: 一三六九24467⑥⑧北北 + 伍八1336②④東北中中中

     → 2334466北北北中中中

「(マズイな。ここで一揆を成功されると振出しに戻る・しかもご丁寧に2が捕まっている・・・切るんじゃあるまいな・・・おれの手を見ろ!)」一馬は祈るような思いだった。

幻燈斎は鳥獣入魂で鵡川の手を確認し、一馬の背後に回ろうとしたとき、

「うるせぇ、スズメだな!」と、潤吾が苦無手裏剣(クナイ)を投げた。

「グサッ!」スズメに突き刺さった。

「ぐえぇぇ!」スズメはのたうち回って手摺りの外に転げ落ちた。

「おほっ! 初めて当たったぜ!」潤吾は歓喜した。

「! (マズイ! あのスズメには術で幻燈斎が入っている! 鳥獣入魂の術中に怪我をすると、動物の体から抜け出せなくなる)」一馬は、驚愕した。慌てて手摺りの外に向かうと、スズメは、虫の息だった。

「(駄目だ! 死にかけている! こうなると死を待つだけだ!)」狼狽えている一馬を尻目に、潤吾が言った。

「そんな、スズメ一匹なんてどうでもいいだろう。何かマズいのか? 時間稼ぎは止めてくれ」一馬は、潤吾の言葉が聞こえないふりをした。

「一馬さま、席にお戻りください」瓜丸に促されて仕方なく無言で席に戻った。

「あのスズメ、さっきから鬱陶しかったんだ。いい気味だ」潤吾が吐き捨てた。

「我らの手を見ていた訳でもあるまい」鵡川が言った。

「スケベなスズメだぜ! けっ」

「・・・(仕方ない。チーム戦の意味を理解していないのだから・・・)」そして、魂が抜けた幻燈斎は、切るべきではない牌を切ってしまった。

「ロン! 一揆成功!」

「面前混一色、中、ドラ3、一盃口まで付いてらぁ」一揆成功組は、嬉々とした。

「8翻です。子で2倍、一揆成功で2倍、ドラ入りで2倍です。合計64翻です」瓜丸が確定した。

「(死ぬまで、自摸切りマシーンだな・・・。死ぬ前にケリを付けるしかない!)」一馬は開き直った。


〔南二局〕ドラ二

東:鵡川六郎太【109】 南:天翔一馬【33】 西:青野潤吾【37】 北:虻蜂幻燈斎【21】

「(鳥獣入魂があるなら、何故最初から使わないのだ! 全員の手牌を確認しろ! 意地でも伊達の手は借りたくないのか! 小さな自尊心(プライド)で、一族を見殺すのか?)」一馬にかつてない怒りが湧いて来た。

「どう~した? 参ったか? 相方がポンコツだったな~」潤吾が心無く罵り始めた。

「(自分一人では、切り抜けられぬ局面はいくらでもある! 頭を下げろ! 手を借りろ! 一族を守り抜くのが頭領の役目の筈だ!)」一馬の形相が険しくなった。体が一回り大きくなり、髪の毛が逆立って、血液が沸騰するかのように体が熱くなった。目が血走り、卓内と敵を睨みつけた。

「おっかねぇ、顔だな・・・勝負なんだから怒んなよ・・・」潤吾が萎縮し始めた。

「一揆はルール上、認められている。何の問題もない」鵡川が潤吾をフォローした。

「そんなつまらないことではない!」一馬の表情が激変した。体が二回りほど大きくなり、体中から湯気が出始めた。呼吸が荒くなり、ぞんざいに牌を引き寄せた。自摸る手が荒々しかったが卓内を破壊しないように、静かに手牌を倒した。

「自摸! 満貫!」

六七八3467888⑥⑦⑧ 自摸:2

「お見事です、断么九、平和、自摸、三色同順で5翻。子で2倍です。計10翻です。12翻に満たないので、子2翻、親4翻の支払いになります」瓜丸が確定した。

「味方を飛ばさずに済んだなっ」潤吾はビビりながら言った。一馬は潤吾に一瞥(いちべつ)をくれただけだった。


〔南三局(ラス前)〕ドラ1

東:天翔一馬【41】 南:青野潤吾【35】 西:虻蜂幻燈斎【19】 北: 鵡川六郎太【105】

くみとは、一馬の異変に気付いていた。そして、静かにその時を待っていた。

「そろそろ、来るな・・・。この局じゃ!」ドラの表示牌が、嵐の訪れを知らせていた。

一馬の配牌:1112④⑤⑥七八九東西北白  打:北

「お(めぇ)、そんな顔だったっけ?」潤吾は、一馬の目に瞳がないことに気付いた。白目だけが異様に血走っていた。犬歯がむき出しになっていた。

「何が憎い? 誰が憎い? 一体何に腹を立てている? 己の弱さか? 相棒のふがいなさか? 黙って静かに自摸って、捨てよ。勝負は時期にケリがつく。がっはっは~!」鵡川が挑発をやめなかった。


―回想シーン―

「雀悟よ。この世で憎いこと思うものはあるか?」雀悟は、眉間に皺を寄せながら答えた。

「何もかも、憎いわ!」雀悟は、吐き捨てた。くみとと一馬とのやり取りを聞いていたから機嫌が悪くなったらしい。

「父親が誰だか分からぬ! 母上の言いつけでこんな格好をさせられている! 毎日気分の悪いことだらけじゃ! 憎い! 憎い! 憎い! 何もかも憎いわ!」興奮する雀悟を、一馬が窘めた。


「(雀悟よ、俺も同じ気持ちなのさ・・・。だけどお前が俺の気持ちを言ってくれるから、俺は黙っていただけだ。何もかも、憎いのは世の中の仕組みだ。世の中の流れだ。しかし、それは簡単には覆らない。黙って時期が来るまで耐えるだけだ。耐えさえすれば・・・)」しかし、こればかりは耐えられなかった。

「グワーッ」と吠えながら、一馬は牌を自摸った。鵡川と潤吾の背後にたむろしていたスズメたちが一斉に飛び去った。ここぞとばかりにくみとがカラスの体を捨てて一馬に()りついた。


「今、獣が吠えなかった?」氷月が言った。

「聞こえました。試合場の方ですね・・・。何の鳴き声でしょうか? 熊か、獅子のような声でした」碧竜も獣の吠える声が聞こえた。

「一斉にスズメが逃げたわよね?」試合場を見て、氷月が言った。

「一馬さまの背後にいたカラスもいつの間にかいなくなりました・・・」二人は、長閑(のどか)な陽気のもとで試合結果が出るのを待っていたが、異様な雰囲気に嫌な予感がした。


「自摸!」

1112233④⑤⑥七八九  自摸:1

「面前三色一気通貫(2)、最高形(2)、平和(1)、一盃口(1)、ドラ4、面前自摸(1)、合計11

翻、親で3倍、ドラ入りで2倍なので22翻オールになります」瓜丸が確定した。


【三色一気通貫】

萬子、筒子、索子の三種類を使い一気通貫を完成させる。面前に限りプラス一翻となる。一索で始まり、九満で終わる形が最も美しくプラス二翻とされる。この手役を和了した者は、今後の人生がいかようにも切り拓け、自分の望むように人生を歩めるという。雀武帝特別ルール 十二の役の一つ。


「結果は以下の通りです。伊賀組の勝利です。朱雀派は、結果を受け入れて速やかに退却してください。戦後の賠償問題は、私の報告に基づいて、朱雀派に請求されます」残念な結果に、鵡川と潤吾はため息をついた。

東:天翔一馬【107】 南:青野潤吾【13】 西:虻蜂幻燈斎【-3】 北: 鵡川六郎太【83】

一馬は落ち着きを取り戻し元の風体(ふうてい)に戻っていたが、呼吸は荒いままだった。


「聞こえませんでしたか? 幻燈斎どの。勝利を確認してください」瓜丸は、幻燈斎に確認したが返事がなかった。

「?」鵡川が幻燈斎を見た。

「?」潤吾も幻燈斎を見た。

「・・・」一馬は何が起きているか分かっていた。

「! 死んでいる!」瓜丸が叫んだ。

「! 何でだよ? 座って麻雀してただけなのに死ぬなよ」潤吾が心なく罵った。

「一馬さまは、理由をご存知でしょうか?」

「・・・術の最中だったとだけ言っておこう・・・」

「な・る・ほ・ど・・・。理由をご存知ですが、説明は出来ないと言う認識で宜しいでしょうか?」

「あぁ、その通りだ」

「それでは、この試合は【乱闘戦】のルールが適用になります。麻雀の結果は無効となります」

「!」一馬は愕然とした。朱雀派の二人は歓喜した。

「いやった~! 訳が分かんねぇけど、勝ったぜ!」一馬は潤吾を睨みつけた。

「いや、ン、負けが無くなったぜ~!」小さな声で、明後日の方角を見ながら喜んだ。麻雀の結果は、斥候を通じて朱雀派本陣に伝えられた。伊賀組も同様に斥候が比自山城に走った。比自山城を包囲していた朱雀派は、歓喜した。

「んなぁにぃ~! 麻雀で負けたが無効試合になっただとー! ツイておるわ、総攻撃じゃ!」霧笛のかけ声とともに、織田勢の桁違いの兵力による総攻撃が始まった。城に籠城していた伊賀衆は、絶望した。

「幻燈斎どのが、亡くなっただとー! 伊達の頭領は、何をしていたのじゃ!」怒鳴り散らす百地に報告した。

「幻燈斎どのは、麻雀が上手ではありませんでした。自分勝手な戦い方を見かねた、伊達藩の頭領が幻燈斎どのを一時は、一位(トップ)まで押し上げました。しかし、連携を嫌う幻燈斎どのは、鳥獣入魂の術中に朱雀派の者に仕留められました。最後は、伊達藩の頭領どのが一位に躍り出ましたが、幻燈斎どのが死亡したため無効試合になってしまいました」

「ふむぅ。是非もない。幻燈斎の奢りじゃ。伊達藩には借りが出来たの・・・」百地は考えを巡らせた挙句、指示を飛ばした。

「石川! 柏原城に移る。今宵、皆を移動させよ! 今日一日は何としても耐え抜くのじゃ! 明日の朝、朱雀派の総攻撃が始まるぞ!」

「御意!」


〔第七話:伊賀の壊滅〕に続く


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