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(第四部:天正伊賀の乱編)第五話:攻城戦

【攻撃三倍の法則】攻撃する側は、守る側の三倍の兵力が必要であるという法則。「戦闘力=兵力の質✕量」というランチェスター戦略は、この際無視します。賢明なる読者諸君には、この点をご理解いただきたい。


「麻雀は、圧倒的に親が有利です。和了翻数が1.5倍になるからです」油小路瓜丸は淡々と説明しだした。他の者たちは、黙って聞いていた。

「均等に巡ってくる親の出番を、有効に使う。連荘を重ねられれば、その半荘における勝利(トップ)に近づきます」

「(当たり前のことを、何言ってんだコイツ・・・)」という顔で、幻燈斎は聞いていた。

「うんうん」と、潤吾は、取り入るように聞いていた。

「【攻城戦】は、親対子の図式が明確な戦いです」


【攻城戦】・・・親の権限を拡大させたルール。子は、結託と離脱を選択可能。

・親は、和了翻数×3。放銃された翻数も、自摸和了で支払われる翻数も均等に受け取れる。

・子は、和了翻数×2。合計翻数が4の倍数になることが増えるので、奇数倍以外を均等に受け取れる。

・子の自摸和了の場合:和了翻数が奇数の場合、和了翻数を一つ下げて四等分し、親は子の二倍払う。

・離脱条件:子が、3翻以下の和了をした場合、卓からその局だけの離脱となるので、放銃の危険性はない。しかし離脱した場合でも、自摸られた場合の点数は支払う。利点は、親や子に自分の自摸を回すことが出来る。

・親流れ条件:以下の条件以外では、親を継続できる

①親が聴牌出来ずに流局した場合

 ②子が、4翻以上の和了をした場合

 ③親が、錯和(チョンボ)した場合

 ④子が、二人以上、和了(もしくは離脱)した場合。この場合、二人とも3翻以下でも可。

・特別条件(親、子共通):和了翻数を×2~×4倍出来る

1.ドラが一枚以上手牌に組み込まれている場合、または自風牌が手牌に組み込まれている場合(×2倍)

2.ドラと自風牌が手牌に組み込まれている場合、またはW自風牌が手牌に組み込まれている場合(×3倍)

3.ドラとW自風牌の両方が手牌に組み込まれている場合(×4倍)

・『百姓一揆』か『打ち(こわ)し』のどちらかを、半荘に一回だけ使うことが出来る。強い親を倒すために起死回生のルール。チーム対抗の場合、お互いに『百姓一揆』を一回ずつ使用できる。

・『百姓一揆』:子に限り、配牌を取る前に宣言すれば、子が二人で組んで『百姓一揆』を選択できる(和了翻数2倍)。配牌時に二人の手牌26枚から13枚を選択し、二人で一人として戦う。三人打ちになる。対面同志が結託した場合、強制的に南家になる。

・『打ち(こわ)し』:子に限り、配牌を取る前に宣言すれば、子が三人で組んで『打ち毀し』を選択できる(和了翻数3倍)。配牌時に三人の手牌39枚から13枚を選択し、三人で一人として戦う。二人打ちになる。強制的に南家になる。

・50翻持ち、一位総どり。「飛び(箱割れ)」があれば即終了。


「以上です。何か質問はありますか?」瓜丸は、(よど)みなく説明を終えた。

「まぁ、いいんじゃないか?」鵡川は、仔細(しさい)を気にする男ではなかった。

「いいんですか? 簡単に条件を飲んでも?」潤吾は、不安で一杯だった。一馬や雀悟に対して、一度も優位に立ったことがなかったからだ。

「大丈夫ですか?」一馬は、幻燈斎に確認した。

「問題ない」幻燈斎が、臆することはなかった。

「それでは、半荘一回の短期決戦になります」瓜丸の宣言で、『第二次天正伊賀の乱』は開始された。くみとは、カラスに乗りうつり、遠巻きに試合の様子を眺めていた。氷月と碧竜は、四方を壁で囲まれた試合場の外で試合の終わりを待っていた。壁は1mほどの高さがあり、戦いの様子を外から見ることは出来なかった。


萬子マンズ: 一二三四伍六七八九

筒子ピンズ: ①②③④⑤⑥⑦⑧⑨

索子ソーズ: 123456789

字牌じはい: 東南西北白發中

※ 雀武帝の定めた「雀武帝特別十二手役」は有効で、全国統一の(ルール)


東:虻蜂幻燈斎【50】 南:鵡川六郎太【50】 西:天翔一馬【50】 北:青野潤吾【50】

〔東一局〕ドラ:2

「こんなので、和了っていいんかえ?」まず、下品な和了を見せたのは、幻燈斎だった。

三三三四六②③④789東東 自摸:伍

「面前自摸だけですね。一翻。親なので3倍です」瓜丸が算定した。

「(待たぬのか・・・。W自風牌が見えているではないか・・・・)」一馬は、歯痒かった。

「ぐわっはっはっは!」

「(このオッサン、カモだわ。自摸だけで勝ち誇っている)」潤吾は、内心ニヤけていた。

「(勝った!)」百戦錬磨の鵡川もほくそ笑んでいた。


〔東一局〕一本場 ドラ:4

東:虻蜂幻燈斎【53】 南:鵡川六郎太【49】 西:天翔一馬【49】 北:青野潤吾【49】

「んっふっふ。ロンじゃ」放銃したのは、潤吾だった。

二三三四四伍234⑥⑥⑦⑦ 潤吾の放銃:⑥

「断么九、ドラ1です。二翻ですが、親で3倍。ドラ入りでさらに×2倍の計12翻になります」

「ぐえっ。二翻しかないのに、12翻かよ!」潤吾は狼狽えた。

「(怖いルールだ。すぐに飛んでしまうではないか・・・)」鵡川は、改めてこのルールの怖さを知った。

「(なるほど、理解した)」一馬の方針は、すぐに決まった。良く晴れた日なので、スズメがそこここにいた。


〔東一局〕二本場 ドラ:北

東:虻蜂幻燈斎【65】 南:鵡川六郎太【49】 西:天翔一馬【49】 北:青野潤吾【37】

「ロン、平和だけ」一馬は、幻燈斎の打った⑥で和了した。

六七八12233499④⑤ 幻燈斎の放銃:⑥

「そうですね、平和だけです。点棒の移動はありません。ゲームは継続です」瓜丸が確定した。

「なぬ?」鵡川は、今更ながらにルールを理解した。

「離脱します」と言って、一馬は手牌を伏せた。

「ぐ、むぅ~」と言ったものの、幻燈斎はニヤリとした。幻燈斎も正確にはルールを把握していなかった。そして、鵡川と潤吾嫌な予感がした。数巡後、

「自摸りおったわ!」幻燈斎の会心の和了だった。

二二三三四四23455②③ 自摸:④

「お見事です、断么九、平和、自摸、一盃口、三色同順で6翻。親で3倍です。計18翻です。6翻オールでお支払いください」

「(やった!)」一馬は、戦い方を心得ていた。

「(わしに好牌を送るための離脱か? まさか、そんなことはあるまい。わしの幸運(ラッキー)を恐れたからじゃ!)」幻燈斎は、チーム戦を理解していなかった。


〔東一局〕三本場 ドラ:六

東:虻蜂幻燈斎【83】 南:鵡川六郎太【43】 西:天翔一馬【43】 北:青野潤吾【31】

調子に乗った幻燈斎に手が入った。

一一二二三三四伍六七八西西 〔三六九待ち〕 打:③

「ロン、東のみ」と言って、一馬は離脱した。

234④⑤⑤⑤⑥⑦⑧東東東

「離脱確認、東だけです。点棒の移動はありません」

「(やるのぉ!)」幻燈斎のニヤケは止まらなかった。

「(マズイ! あの様子では、親がデカい手を聴牌っている!)」鵡川が焦った。

「(何とかしなければ! 東一局で終わってしまう!)」鵡川も焦った。しかし幸運だったのは、一馬が先に離脱したことだった。

「自摸じゃ」鵡川が手を倒した。

九九23445688⑧⑧⑧ 自摸:九

「自摸のみですね。点棒の移動はありません。親流れです」瓜丸が確定した。

「(ちっ!)」幻燈斎のお祭りは終わった。

「(ふ~っ! 何とか繋がった・・・)」潤吾は命拾いした。

「(ふっ!)」鵡川も安堵した。

「(離脱のタイミングが早すぎたか・・・。仕方ない・・・。さて、これからだ・・・)」一馬が戦いに戻って来た。


〔東二局〕ドラ:4

東:鵡川六郎太【43】 南:天翔一馬【43】 西:青野潤吾【31】 北:虻蜂幻燈斎【83】

「ロンじゃ!」唐突に、幻燈斎が鵡川を直撃した。

「なぬ?」鵡川は不意を突かれた。

三四伍234789③③④⑤ 鵡川の放銃:⑥

「平和、ドラ1です。4翻ですが、離脱です」瓜丸が確定した。

「金持ちは、喧嘩せずじゃ! ぐわっはっはっは!」といって、手牌を倒し、傍観した。

「(2を切っているじゃないか・・・。そうじゃないんだよ! あなたにチャンス手が入っているのだから! 簡単に離脱しないでくれ!)」一馬は頭が痛くなりそうだった。スズメが四羽、五羽ちゅんちゅん飛び回っていた。

「(しかし、スズメがうるさいな・・・)」一馬は集中力が切れそうだった。その時、鵡川が動いた。

「ふっふ! 自摸だ!」

「(してやられた! 鳴けばよかった!)」一馬は、千里眼で分かっていたが、(ポン)でも、(チー)でも動けた。

二三四伍伍六七八八八八東東 自摸:東

「面前混一色、面前自摸、W自風牌で、六翻。親で×3倍、W自風牌で×3倍です。合計54翻です。18翻オールでお支払いください」

「ぐわっはっはっは! 一発で生き返ったわ!」鵡川はご満悦だった。

「やりましたね~!」潤吾も安堵した。

「え?」幻燈斎は、状況が呑み込めなかった。

「自分が離脱するということは、相手に自摸が多く回るということでもあるのです。直撃放銃は避けられますが、相手の自摸は避けられません。そこが難しいところです」一馬は仕方なく労った。

「ふ~ん・・・。(伊達の者は不甲斐無いの~。さっさと和了れば、良いものを・・・)」幻燈斎は、状況を理解していなかった。

「(しかし、潤吾は虫の(しにそう)だ・・・)」潤吾の機会(チャンス)を抑え込めば、勝てる筈だった。


〔東二局〕一本場 ドラ:北

東:鵡川六郎太【93】 南:天翔一馬【25】 西:青野潤吾【13】 北:虻蜂幻燈斎【69】

「(まず、親を蹴落とすか・・・)」一馬は、狙いを定めた。潤吾も幻燈斎も配牌で死んでいた。

鵡川の手牌

六七八778899①②東東東  自摸:九 打:六

「ロン! 満貫です」

四伍伍六七567⑤⑥⑦⑧⑧ 鵡川の放銃:六

「平和、断么九、三色同順で、4翻です。子なので2倍です」

「ちっ、事故じゃ!」鵡川は、負け惜しんだ。

 

〔東三局〕ドラ②

東:天翔一馬【33】 南:青野潤吾【13】 西:虻蜂幻燈斎【69】 北:鵡川六郎太【85】

一馬の最大の機会(チャンス)だった。好配牌に恵まれた。

一一一二三三四伍七八九九東  自摸:六  打:東

一一一二三三四伍六七八九九〔一四九待ち 九で九連宝燈〕

青野・鵡川の背後をスズメがうろついていた。一馬がその不自然さに気付いた。幻燈斎を見ると、一瞬だけ気を失っているように見えた。

「(鳥獣入魂(アバター)だ! 二人の手牌より俺の手牌を見ろ!)」心の中で叫んだ。

「(直撃すれば、潤吾は終わる。自摸っても、親が続く。幻燈斎よ、動くな!)」心の叫びだった。幻燈斎にも満貫の手が入っていたが、一息で決めるには不十分だった。

「ロン! 満貫じゃ!」幻燈斎が、潤吾の切った北で和了った。

「ぐわっ、振っちまった!」潤吾が叫んだ!

「! ぐ! (決めきれなかった!)」一馬は、思わず怒鳴るところだった。

「面前混一色、自風牌で4翻。子なので2倍です」瓜丸が確定した。

「なぁんだ、足らぬのか?」幻燈斎は、計算していなかった。

「(落ち着け! 残念ながら仲間なのだ!)」一馬のこめかみに、力が入った。そしてかつて味わったことのない不快さを感じた。

22234555678北北 潤吾の放銃:北

「(・・・まぁ、いいか。俺もまだ未熟だ・・・)」ひと息ついて平静を装った。


〔東四局〕ドラ⑨

東:青野潤吾【5】 南:虻蜂幻燈斎【77】 西:鵡川六郎太【85】 北:天翔一馬【33】

死にそうになりながら、辿り着いた親までの道のりだった。この場で何とかしなければいけないのは、百も承知だった。しかし配牌は死んでいた。

一三六249⑤⑦⑧東北白發發

「!」潤吾は頭の中が真っ白になった。物心ついた時から父に厳しく鍛え上げられてきたこと。毎日のように頂いた、母上の慰めの言葉。同僚が次々に結果を出して出世しき、自分だけが取り残されていく様子。剛掌霧笛に筆遣いで一回だけ誉められたこと。青龍派に潜り込んで、一馬という壁にぶち当たった事。エリートの一馬が隠密行動で青龍派を抜けた後、雀悟という勝てない相手に再び出会ったこと。朱雀派で目が出なかったので、青龍派で諜報(スパイ)活動しながら、密かに出世を目論んでいたこと。親善試合のドサクサで何もかもが嫌になって朱雀派に逃げ帰った事。それがバレて父に怒鳴られ、家を追い出されたこと。鵡川の家に転がり込んで、召使のような生活を続けた事。やっと掴んだ機会(チャンス)を、麻雀の下手糞な伊賀の爺に潰されかけている事。一度も勝てたことのない壁に、弄ばれている事。麻雀しかない、剣術では並みの下であることは自分で気付いていた。手裏剣も決して得意ではなかった。それすらも奪われようとしていることを思い出した。見かねた鵡川が声をかけた。

「死なねぇように、打て! お前なら、多分出来る」それで吹っ切れた。

「・・・」一馬は、潤吾が生き返るのを見た。しかし、麻雀というものは、それほど甘くなかった。

「ロン! 満貫じゃ!」振り込んだのは、鵡川だった。時期に潤吾が振り込むのは目に見えているほどの覇気の無さだった。


「それでは、南入します」瓜丸が宣言した。

「ちょっと、待つだ!」鵡川が流れを止めた。

「どう、なさいました?」瓜丸が確認した。

「一揆を起こすだ!」

「!」幻燈斎と一馬に電流が走った。

「それでは、次の南一局は『百姓一揆』ルールの適用になります!」


〔南一局〕ドラ中

東:虻蜂幻燈斎【85】 南:鵡川六郎太【77】+青野潤吾【5】 西:天翔一馬【33】 北:


〔第六話:百姓一揆〕に続く

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