表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/32

(第四部:天正伊賀の乱編)第一話:背徳の系譜

話は、『長篠の戦い』直後まで遡る。剛掌霧笛と風魔夢幻斎が密会した翌日の昼下がりのことだった。不破雷獣と剛掌霧笛が、長篠城の離れの茶室で対峙していた。茶室の外には護衛が二人立っていた。朱雀派と、雀武帝親衛隊から、それぞれ一人ずつだった。

「こんなところに呼び出してなんじゃ。反省会という訳でもないだろう」雷獣がぶっきらぼうに言い放った。

「ふっ、今後の方針について決めておこう・・・。【直接対決(サシ)】だ。いつまでもダラダラと打つ気はない。字牌は全てドラにする」霧笛は、卓上の麻雀牌をかき混ぜながら話し始めた。

「・・・良かろう」全てを察した、雷獣も牌を掻き混ぜ始めた。


直接対決(サシ)

・5枚対5枚対決

・どちらかが、100翻和了すれば終了。

・子は自摸も放銃も同点。

・親は自摸も放銃も2倍。

・親の連荘(レンチャン)はない。

(ポン)(チー)は出来ない。

・使用する牌は、萬子の二~八を抜いた108枚。


〔有効役〕

・1点役 面前自摸、平和(ぴんふ)断么九(たんやお)

・2点役 全帯公(チャンタ)、対々(トイトイホー)、暗槓

・3点役 純全帯公(じゅんちゃん)混一色(ホンイーソー)

・4点役 清一色(チンイーソー)、国士無双(最終形は、四面待ちのみ有効)

・5点役 字一色(ツーイーソー)、緑一色(リューイ-ソー)、天和(テンホー)地和(チーホー)


〔1局目〕親:霧笛

先手を決めたのは、霧笛だった。

23⑤⑤ 自摸:4

「面前自摸、平和(ぴんふ)断么九(たんやお)【(+3)×2】。三つ付けておくぞ」

「くっ(速い)」雷獣は、聴牌すらしていなかった。

霧笛【6】 雷獣【0】

「まず手始めに、青龍派から取り込む」霧笛が静かに言った。

「・・・」雷獣は、黙って聞いていた。


〔2局目〕親:雷獣

234西西

「悪いな、天和だ。平和、混一色付きだ【(+11)×2】ドラが二つだ」雷獣が和了(アガ)り返した。

「ぐっ」

霧笛【6】 雷獣【22】

「雀武帝親衛隊は、動かぬぞ」雷獣は身動(みじろ)ぎもせず応えた。

「・・・」


〔3局目〕親:霧笛

二三北北 自摸:一

「自摸、平和(ぴんふ)全帯公(チャンタ)混一色(ホンイーソー)。ドラが二つおまけだ【(+9)×2】。九つ付けておくぞ」霧笛が自摸った。

「・・・」

霧笛【24】 雷獣【22】

「それならそれで構わぬが、勝手に動く者がいても構わない」霧笛が静かに言った。

「・・・?」雷獣は、霧笛の言葉を(いぶか)った。


〔4局目〕親:雷獣

東東西西 自摸:東

「自摸、字一色、対々和だ。ドラが五つだ【(+13)×2】」雷獣が和了(アガ)り返した。

「ぐっ」

霧笛【24】 雷獣【48】

「さては、蓬莱と伝宝を(そそのか)したのはお前か? 昨日の二人の様子は、どうも変だ」雷獣が霧笛を(にら)んだ。

「何のことだ・・・」霧笛はしらばっくれた。


〔5局目〕親:霧笛

一九西北   放銃:九

「ロン! 国士無双、ドラ2【+6】」雷獣が立て続けに和了(アガ)った。

霧笛【24】 雷獣【54】

「俺からは、蓬莱と伝宝に指示を出しておらん。やけに青龍派に嚙みついていたのが気になったんだ。一馬は、何か打ちにくそうだった」雷獣が再び霧笛を睨んだ。

「知らないな・・・」霧笛は再び、しらばっくれた。


〔6局目〕親:雷獣

2226 自摸:6

「自摸、断么九(たんやお)、緑一色(リューイ-ソー)、対々(トイトイホー)【+9】」霧笛が大物手をものにした。

霧笛【33】 雷獣【54】

「雀武帝親衛隊の規律が乱れているのではないか?」霧笛が雷獣を睨み返した。

「お前が、唆したのか?」一触即発の雰囲気になった。飽くまでもしらを切る霧笛にしびれを切らした。

「知らんなぁ」


〔7局目〕親:霧笛

伍六八八   自摸:四

「自摸、平和、断么九(たんやお)、清一色【(+7)×2】」霧笛が立て続けに和了(アガ)った。

霧笛【47】 雷獣【54】

「俺が唆したのではない。俺は、出世を促したまでだ」霧笛は悪びれなかった。

「買収したのか?」雷獣の言葉は重かった。


―回想― (長篠の戦前)

不来方稔(こずかたみのる)(青龍派の取り込みに失敗した蓬莱鳥丸を、親善試合後に殺害)が、蓬莱鳥丸に霧笛の伝言を届けに来た。長身瘦躯の黒い戦闘服を着ていた。朱雀派のきっての武闘派忍者。

不来方は、長篠の戦前に、世闇に紛れて蓬莱鳥丸の屋敷を訪ねていた。庭先で、蓬莱の現れるのを待ち、霧笛の言葉を伝えた。

「・・・と、このように申されていました」不来方は、一応形の上では(ひざまず)いていた。

「わしが、青龍派を挑発するだと?」蓬莱鳥丸は、指示を聞いて訳が分からなかった。

「方法は自由です。青龍派が、長篠の戦で自由に打てなくなれば良いのです」

「青龍派の若造どもなど、放っておいても良いではないか。なぜ、朱雀派はあんな奴らを気にするのだ?」

「長篠の戦の後は、青龍派と玄武流派が標的(ターゲット)になります。両派は、朱雀派に吸収されるか、壊滅させられるかのどちらかになります」

「それなら、その時で良いではないか。長篠の戦で何か失策でもされたら面倒だ」

「失策を口実にする考えもございます。麻雀の結果など、その後の戦闘で幾らでも覆ります。一番労せずに他龍派を取り込めます」

「・・・うむぅ」

「青龍派が失態を冒すきっかけは多い方が良いのです。あなたがそのきっかけになれば、それはあなたのお手柄になります」

「まぁ、野次るぐらいならしても良い」

「方法は、自由でございます」と言い残し、不来方は消えた。


剛掌霧笛の心を読んで、怒りに震えながら雷獣は牌を掴んだ。

〔8局目〕親:雷獣

⑨東東東 自摸:東

「槓」 槓:東東東東   自摸:⑨

「自摸、槓、混一色、対々和、全帯公(チャンタ)、ドラが4つだ【(+14)×2】」和了と同時に、雷獣は牌を握りつぶした。

「牌を壊すなよ。和了を確認できん」砕け散った牌の欠片は、明らかに⑨だった。護衛を読んで、交換用の牌を持ってこさせた。

霧笛【47】 雷獣【82】


「熱くなるな、長篠の戦での青龍派の取り込みは失敗だ。次の作戦だ」

〔9局目〕親:霧笛

東北北北 自摸:北

「槓」 槓:北北北北   自摸:東

「自摸、槓、字一色、対々和、全帯公(チャンタ)、ドラが5つだ【(+15)×2】」和了宣言と同時に霧笛の手元に引き寄せられた牌は真っ二つに割れた。

「割れてしまったわ、すまんな。はっはっは! 心は読めても、手の内は読めんか? 分かりやすい男だ。はっはっは!」霧笛は高らかに笑った。

「雀武帝親衛隊は、飽くまでも中立の組織じゃ。戦国の世から戦を無くすためのものだ」

「天下を統一してしまえば、戦など無くなるわ! その方が、早い! その方が、犠牲は少ない!」霧笛は言い切った。

霧笛【77】 雷獣【82】


〔10局目〕親:雷獣

四伍③③ 自摸:六

「自摸、平和、断么九(たんやお)〔+3〕」和了と同時に、雷獣は牌を静かに置いて問うた。

「人を(あや)め、道義に背いてまでも、その道を突き進むのか?」

「戦が終わってから、ゆっくりと悔いることにするかのぅ。この世から戦が無くなるならば、喜んで背徳者の(そし)りを受け入れよう」

「詭弁だ! 己らは、どんな手を使っても天下を取る気だ! それしか考えておらぬ!」

「犠牲は最小限で良い。悪者は、俺一人で良い! 天下が平和に治まるならば、喜んで悪者にでもなってやるわ!」

「何が平和だ! 天下統一後は、重税地獄が待っておる!」

「戦のない世の中で、生命が保証されるのだから、安いものだ! 苦しいと感じるものが多いか少ないかだけの違いだ。その者たちが声を上げるか、立ち上がるかの違いだけだ」

「声をあげられぬ奴もいるし、立ち上がれぬ奴もいるのだ!」

「弱い奴らは、何をほざいても無駄だ。強い者に従うしか生き延びる術はない!」

「戦うしか、選択肢はないと思っているのか?」

「それが戦国の世だ!」

「女や子どもまで死んでいるぞ! それでも平気なのか?」

「派手な戦のあとは、平和な世が限りなく続くのだ! 今は痛みの中にあるだけだ」

「戦をせずに解決する方法もある。それが、我々雀武帝親衛隊だ!」

「麻雀で決着をつけても、その結果に納得のいかぬ奴ばかりだ。だから戦が終わらぬ! 一応、雀武帝の顔は立てているが、それだけでは解決せぬ! 今全国で幾つ内乱が起こっておる? 麻雀で解決せぬ結果だ! 最後は力づくで決着をつけねばならぬ。後味は悪いがな」

「貴様は、どうしても戦をしたくてたまらないのだな? 末代まで汚名は消えぬぞ」

「それが、わが一族の使命だ。背徳を甘んじて受け入れよう! 代々に渡って悪名を受け入れよう。平和が来れば、歴史などいくらでも書き換えられるわ!」

「・・・」

霧笛【77】 雷獣【85】


「それでも、麻雀で解決してみせる!」雷獣は、霧笛の言葉を受け入れずに牌を掻き混ぜた。

〔11局目〕親:霧笛

2366 自摸:4

「自摸、平和、断么九(たんやお)、緑一色(リューイ-ソー)【(+8)×2】)」霧笛が再び、大物手をものにした。

「反撃は終わりか?」霧笛は椅子の背もたれに踏ん反り返って、顎を突き出し見下ろすように雷獣をみた。

「・・・」雷獣は霧笛をねめつけた。

霧笛【93】 雷獣【85】


〔10局目〕親:雷獣

一一七八 自摸:九

「自摸、平和、全帯公(チャンタ)、清一色【+8】」霧笛が立て続けに和了(アガ)った。

霧笛【101】 雷獣【85】

「・・・という訳で、これからも朱雀派の指示のもとで動いてもらう」

「これからも?」

「雀武帝政権は、織田家の傀儡(かいらい)政権(せいけん)だ。忘れるな! 雀武帝など、いつでも追放できるのだ! 義昭追放後に、行き場のない不破家を雀武帝と共に織田家が引き取ったことを忘れるな!」言い放つと、霧笛は席を蹴って立ち上がった。そしてさっさと立ち去ってしまった。

「・・・」この一件以後、雷獣は朱雀派の指示による仲裁の対局に参加することは無かった。


〔第二話:くみと邂逅〕に続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ