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(長篠の戦編)第二話:武藤碧竜

1573年(天正元年) 織田信長は、足利義昭を京都から追放し、室町幕府は滅亡となる。同時に発足した『雀武帝政権』は、新政権の発足時の混乱を抑えるべく「私闘制限の(みことのり)(通称:勝ち逃げ御免令)」を発令するが効果は限定的だった。このとき、大和の地には、巨大な四つの勢力があった。

【北海道の道満家】

堂満吉兆太を師範代とし、粘り強く守り強い麻雀が特徴の玄武流派。

【東北の伊達家】

伊達輝宗を不慮の事故で無くし、若干7歳で元服し、家督を継いだ政宗。忍者集団の黒脛巾組を統率する青龍派。

【関東・近畿地方の織田家】

剛掌霧笛を師範代とする貫禄・威圧麻雀を信条とする朱雀派。

【中国・四国地方の龍造寺家】

太刀風八刀斎を師範代とする電光石火の最速麻雀を打つ白虎流派。


〔伊達藩:黒脛巾組の館〕

1575年(天正3年) 弥生(さんがつ)のある日、黒脛巾組の頭領であり「青龍派剣術指南研究所」の主将として修行中だった天翔一馬は、久しぶりに黒脛巾組の館を訪れた。『龍の穴』で修行を初めてまだ半年のことだった。

「お久しぶりです。くみとさま」上座に座っているはずの元頭領に恭しく挨拶をした。

「ご無沙汰しております、頭領どの。わしを呼ぶときに「くみとさま」は止めて欲しい。今の頭領は御身じゃ。部下への示しがつかないからな」

「御意! しかし、私の師匠はあなたお一人です」

「そういってくれると嬉しいよ。しかし、以後わしのことは「くみと」と呼んでくれ」

「御意!」続けて、禿師範代が話し始めた。

「一馬君。この度は、君に少し旅に出て欲しい」

「どのような目的でしょうか?」

文月(しちがつ)までに、三河(愛知県)に行って欲しい。「雀武帝調停試合」が開催される手筈(てはず)になっておる」

「御意! しかし、まだ戦は始まっておらぬのでは?」

「これから、起こることになっておる。仕組まれた戦じゃ。お主は調停人役じゃ。勝ち負けには影響しない。平等に対応すればよいので堅くなるな。調停試合には、全国より選りすぐりの猛者どもが招かれる予定じゃ。見てくるが良い。肌で感じてくるが良い。己の腕を試してくるが良い」

「御意! 有難く引き受けさせて頂きます」一馬は不意の命令に、図らずも興奮を覚えた。

「『長篠の戦』は、織田家、武田家の争いだが、調停人として伊達家、龍造寺家が招聘される予定じゃ。とりわけ四大勢力で一番基盤の脆い、自分たちが指名された。口惜(くちお)しいことじゃ」

その言葉に、どのような打ち方をしようと、将来的に伊達家が窮地に陥ることが予想された。

「まだ、試合まで期間があろう。それまでの間に二つ三つ、調査をお願いする。税収結果の怪しい村がいくつかある。原因を調査して欲しい。調査結果は、くみとを通じて報告してくれ」

一馬「御意!」再び頭を下げた。

「お主の居らぬ間、『龍の穴』の主将は雀悟に任せ、頭領代理はくみとに任せる」

一馬「御意!」

「雀悟は、復讐心が強すぎる。まだ己の感情を自己管理(コントロール)できぬのだろう。もう少し『龍の穴』で、心の修行を続けさせる」

「御意! ソウロ~ウ」

「ようやく、ソウロ~ウを付けるようになったか」

「・・・」

「いずれ、お主の時代じゃ。仕来りには、さして意味がないものも多い、好きに変えて行くが良い」

「御意! ソウロ~ウ」

久しぶりの再開であったが、ついにくみとは姿を見せなかった。齢八十を超える老人の筈だった。


萬子マンズ: 一二三四伍六七八九

筒子ピンズ: ①②③④⑤⑥⑦⑧⑨

索子ソーズ: 123456789

字牌じはい: 東南西北白發中

※ 雀武帝の定めた「雀武帝特別十二手役」は有効で、全国統一の(ルール)


一馬は、白河地方(福島県)に差し掛かっていた。(あお)い鎧の巨漢の男が、白昼堂々と村の真ん中の広場で暴飲暴食をかましながら、町人から搾取していた。男は、全身に刀傷を浴びており、前歯も数本欠けており、活舌が悪かった。

「ぐわっはっは。これだから麻雀はやめられねぇ~」

(へき)(りゅう)さま、もうこれ以上ご勘弁を・・・」

「だぁめだ。もっと持って来い!」

「お侍様、お助け下さい!」町人が、一馬に懇願してきた。

「なぁんだ、お前は? 文句があるのか?」

「文句などないが、見苦しい真似はよすんだな」

「麻雀で勝って、頂いた食料だ。文句は言わせねえ!」

「文句など言っておらぬが?」

「碧竜様は、『勝ち逃げ御免令』を理由に、麻雀後の剣術勝負で全てを持ち去るのです」

「ルールならば、仕方がないな」

「物分かりがいいじゃねぇか。もっとつっかって来いよ。お倒して楽しむんだ」

「先を急ぐのでな」過ぎ去ろうとした一馬の剣に手を伸ばした。

「お前、いい剣持ってるな。俺によこせ」

「簡単にやるわけにはいかないな」

「どっこ~ん! ショーウブ~、カーイシ~」

碧竜に脅された町人が二人座らされ、勝負が始まった。

「(何だ、このいい加減な展開は!)勝負を引き受けるとは、言っていないが?」

「お前が勝負を引き受けねば、町人たちが苦しむだけだ。お前が代わりに苦しめばよい。それで丸く収まる。大剣と、金と、身ぐるみを置いて去れ! 俺の満足は、何ものにも増して、尊いのだ・・・」

「それでは、俺が勝つとどうなる?」

「好きにしろ! しかし、勝てればな!」臭っい息を吐き出しながら、「ぐっちゃ、ぐちゃ」と滑舌の悪い音を出しながら、気乗りのしない麻雀が始まった。

使い古した竹牌だった。牌の背には、傷の付いているものもあるので容易に傷牌(ガンぱい)に出来た。食い散らかしながら牌を触るので、汚れているものもある。

「碧竜とか、言ったかな? 麻雀牌は、何枚あったかな? 教えてくれ」

「何枚だっていいんだよ。100枚くらいか?」

「ありがとう。152枚だと思っていたよ」

「っどっか~~~~ん! ふぅざけるぅな~! 136枚だ~~~!」

「そうだったのか? ここには、152枚あるが?」碧竜はモソモソと、牌をいじり、数え直して、やがて諦めた。幼児的な手つきのぎこちなさが可笑しかった。

「ここにあるやつで、遊べばいいんだよ! 5枚も6枚もある牌は、サービスだ! 俺は寛大だ!」

「己の置かれた環境や状況には、適応できる性格なんだな。大したものだ」

「! 誉めるな! お前の誉めには、棘がある!」

「勝負は、止めるか?」

「やるよ! 他にやることが、ないんだ!!」


掻き混ぜられる牌と、山を積む手つきを見ていると、積み込みは行われていないらしい。

「馬鹿なのか、適当なのか、律儀なのか、面倒くさいのか・・・。さぁ、どれだ?」

「なんのことだ?」

町人Aの打九で碧竜が和了った。

「ぶぉん。倍満! 半倍満(ハーフばいまん)(満貫分)にまけてやるよ。おれは、寛大だ!」

一一一九②②②  碰555 碰999      ドラ:東

町人「ひえぇぇ~」

「対々和だけか?」

「かぁんけい、ねぇー。ヤオチュウ待ち、殆んどマンズ」

「萬子は五枚しかないが?」

「酷い手牌です」ボソッと呟いた町人Aを碧竜がぶっ飛ばした。

「なるほど、これを繰り返していたのか・・・。バカ対々和か・・・」

「おぅらぁ、ばかでねぇー!」満貫分を払おうとした町人を制し、

「殴られたんだ、千点でいい」と、千点を碧竜の眉間に投げ捨てた。

「ほれ、取っとけ。釣りはいらねぇ。飴でも買いな!」碧竜は、予想通りに激昂した。

「どっこ~~ん! 点棒は、魂だ! 兄が言っただ! 投げんな!」

「面白いな、お前は。それは、怒りの表現か?」

「誉めんな! 照れっぺ!」怒ったり、いじけたり、感情が表情に追い付いていなかった。

「(会話にならないな・・・)碧竜とか言ったな。お前は何処の出身だ?」

「甲斐だ。武藤碧竜様だ」

「武藤・・・。龍・・・。聞いたことがあるな」

「俺は、有名だ!」

「武藤臥龍は、知り合いか?」

「兄者だ!」

「奇遇だな。昨日、お仕置きしたぞ! チンチンを曝け出して、気にぶら下げておいた。まぁ、徴税係は解雇だろう・・・。」

「んな、わけねぇ・・・。兄者は、偉大だ!」信じてなさそうなので話題を変えた。

「ところで、かまり(武田の忍び)は、不正を認めているのか?」

「ばれなけりゃ、問題ない! それに俺は抜け忍だ」

「忍者には見えない体型だな。どうにも不器用そうだ」

「ほざけ! 俺は器用だ!」

「よろしい、お前を律義者として扱おう」

「何言ってるだ」町人たちは、不思議に思った。この乱暴で情緒不安定な男と会話がなんとなくかみ合っている一馬を好奇の目で見た。そして何かを期待し始めた。

「(この碧竜の扱いが上手すぎる・・・)」



【二局目】ドラ:西

碧竜の打②で一馬が和了った。

「ロン、七色七対子」和了と同時に、一馬の背後で虹が煌めいた。立ち上った虹は、柔らかく碧竜を包み込んだ。

「なんだ・・・。こ・れ・・」碧竜は、虹に包まれて夢見心地になった。

「ふむ。『七色七対子』に振り込んで、その反応か。お前は、根っからの悪人ではないな」一馬は満足そうだった。

白白發發中中東東②1122  和了②

〔七色七対子(4)、七対子(2)、最高形(1)〕【合計7翻】


【七色七対子】

七対子の構成が七色入っていればよい。三元牌の三つの対子に、風牌の対子が含まれていることが条件。他の三つの対子は、②④⑥⑧か23468のいずれかで構成されていればよい。プラス一翻となる。一索が入っているものが最上級とされる。この手役を和了した者は、対局者の心の奥が読めるようになるという。雀武帝特別ルール 十二の役の一つ。


意識を取り戻した碧竜は、一馬に殴りかかった。

「だぁんめだぁ~」殴りかかろうとする碧竜の拳を躱し、背後に回り込み大剣の柄で後頭部を強打し、碧竜を失神させた。

「勝ち逃げ、御免! (いくらやっても、問題にならないな。酔っ払い過ぎている)」


歓声を上げる町人たち。

「一体。コイツは何なのだ?」

「徴税係の武藤臥竜様の、弟さんです」

「権力に任せて、横暴を働いていたのだな」

「その通りでございます」

「その、武藤臥龍は、昨日解雇した。(じき)に、新しい徴税係が来るだろう」

「それは、ありがとうございます。これで、安心して生活ができます」

「それでは、コイツはどうして欲しい?」

「お手数ですが、町の外に捨ててください」余計なことを聞いてしまったと思った。こいうなることは予想できた。

「・・・。よかろう」

一馬は、町から離れた山の中に、上着を着せたままフリちんで碧竜を松の木に吊るした。

『此の者、横暴を働いたため処罰される。三日間、誰しも彼に触れることを禁ず』


翌日、早々と徴税係が訪れた。武藤臥龍の懲戒解雇を受けて、役人が一掃された。

「くみと。年貢の不正徴収の調査は、これでお終いだ。二十件中八件で不正があった。全て武藤臥龍の担当だ。俺はこれで別の調査にうつる」

「御意!」と、封書を加えると近くの関所に届けた。猫は、頭を撫でられ、煮干しをもらうと去っていった。

 

「(長篠の戦編)第三話:河村氷月」に続く

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