3.たとえ分かり合えなくても
その後も不思議と気が合うのか、ミケット嬢と何度かカフェに出掛けたりした。
だけどミケット嬢には恋心を持たなかった。
異性ではあるけど、友達になりたいと思わせる人柄だからかもしれない。
ミケット嬢曰く、僕はレナ嬢とどこか似ている所があるらしい。
未婚の男女が会うと嫌な噂が立つが、僕たちは社交界では余ほど目立たない存在なのか、気にも留められなかった。
「私、ケビン様と付き合ってるの」
突然ミケット嬢に明かされ、僕は本当に驚いた。
「言ってもいいのかな、ケビンは……」
「知っているわ。他に大切な人がいるんでしょ」
今度は僕がミケット嬢を慰める番なのに、気の利いた言葉ひとつ言えなかった。
ほどなくして、たぶんケビンとは別れるだろうとミケット嬢から聞いた。
◇
「実はエマとは別に、ミケット・ラキーユ伯爵令嬢と付き合っているんだ。もう終わりそうだけどな……」
僕は心の中で怒りがこみ上げたが、ケビンを優しく叱咤激励した……親友だから。
そして最後のチャンスをケビンにあげた。
「この間、紳士クラブで耳にした話だけど、ラキーユ伯爵が娘のミケット嬢の縁談相手を探し始めたらしい」
案の定、ケビンはミケット嬢が自分を選ぶと信じて縁談を申し込んだ。
だけど、結局ミケット嬢はケビンを選ばなかった。
「レイモン・タイヨ侯爵と婚約したのか……。彼は人柄が良いからな」
(……ケビンだって人柄は良いよ。だけど、そうじゃない)
なんとなくミケット嬢との会話から、ケビンを選ばない気がしていた。
◇
「ミケット嬢、おめでとう。タイヨ侯爵様と結婚なんてすごいじゃないか!」
「ありがとう、ルイ様もきっと良い方と巡り会えるわ」
僕たちの友情は、きっと細く長く誰にも気付かれず続くのだろう。
あの時ミケット嬢は、ケビンが縁談を申し込む確信は無かったはずだけど、それとなく僕に縁談の話題を振ってきた。
そして僕は、ケビンが縁談を申し込むと確信して情報を教えたんだ。
僕とミケット嬢は、どこかケビンを懲らしめたいという気持ちを共有していたのだろう。
ケビンは、失恋の痛手の大きさも友情も親密さに比例していると思っている。
違うんだよ。
「親密さよりも勝るもの……それは共感なんだ。僕の失恋に寄り添ってくれたのはミケット嬢だった」
だけど、ケビンもミケット嬢も僕の大切な友達には違いない。
(そうさ、それぞれの物差しが違うだけ……ただそれだけさ)
この作品は、「それぞれの恋」シリーズの一編です。 以下の順で読むと、登場人物たちの心情やすれ違いをより深く味わって頂けます。
・ミケット・ラキーユ伯爵令嬢の不条理な初恋
・ケビン・シェロー伯爵の気まぐれな恋
・ルイ・ワイス男爵のほろ苦い恋
※ 2025年7月には、レナ・ジュラン子爵令嬢の視点から描かれる物語も公開予定です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
物語のどこかで心に残る場面がありましたら、ひと言だけでも感想やリアクションをいただけますと、とても励みになります。
感想へのお返事は控えさせて頂きますが、大切に読ませていただきます。
よろしくお願いします。