2.寄り添われたら
傷付いた気持ちを抱えて屋敷に戻ると、ケビンが待ってくれていた。
僕の顔を見ると、何も言わず背中を2回ポンポンと叩いて、「またな」と言って帰った。
「やっぱりケビンは優しい男だな。だからモテるのかな……」
爵位でも容姿でもなく、彼の人柄が魅力でもてはやされているとしたら……。
「僕は本当に何の魅力もない男ってことなんだろうな」
ちょっと親し気にされたからって、ひとりで舞い上がって告白までして、自分が情けなく滑稽に感じた。
「もう今日は寝よう」
じんわり目に涙が滲んでも、拭う気にもなれなかった。
◇
それから何日も経ったが、失恋の傷は一向に癒える気配が無かった。
「ルイ……そんなに好きだったのか? レナ嬢のこと、ほとんど知らないだろ?」
僕のあまりにもの落ち込んだ様子に、ケビンは不思議そうにしていた。
「ケビンは失恋したことがないから分からないんだよ。失恋の痛手は、親密さと比例するわけじゃない」
「なんだよ、その哲学者みたいな言い草は。まぁ、あんまり思いつめるなよ」
そうは言っても今回の失恋は、なかなか気持ちの整理がつかなかった。
「失恋なんて初めてじゃないだろ……」
ある天気の良い昼下がり、ひとり呟きながら気晴らしにシュマン通りを歩いていた。
通りにできた新しいカフェには、恋人たちが仲睦まじくお喋りをしている。
「つまらないな……」
ふと向かいの通りに目を遣ると、レナ嬢の親友のミケット・ラキーユ伯爵令嬢の姿を見つけた。
自然と足がミケット嬢の方へ走り出していた。
「ミケット嬢!」
「……ワイス男爵様、ごきげんよう」
ミケット嬢の瞳が小さく揺らいだ。
きっとレナ嬢から僕の告白を聞いているのだろう。
声を掛けたものの、その後の会話が思い付かず、まごまごしているとミケット嬢が口を開いた。
「そんなに気まずそうにしないで。レナも気にしていたわ……傷付けたようだって」
僕が何と言っていいか分からず黙ってると、ミケット嬢は目の前にある老舗のカフェに誘ってくれた。
「すみません、気遣って下さっているのに何も言えなくて」
「それだけレナのことを好きだったんでしょ? 恋は実らなかったけど、その想いは尊いわ」
ハッとしてミケット嬢の顔を見た。
「親友さえも気づかない、僕が一番聞きたい言葉をミケット嬢が言い当てるなんて……」
「ふふふ、親しくなくても分かることもあるわ」
「僕の恋の師匠と呼ばせて欲しいくらいです!」
「そんな……大げさよ。私も恋はほとんど知らないの。だけど、レナのことを好きになったあなたの気持ちは分かるわ」
「分かってくれます!?」
「当たり前よ! だってレナは私の親友ですもの」
この作品は、「それぞれの恋」シリーズの一編です。 以下の順で読むと、登場人物たちの心情やすれ違いをより深く味わえます。
・ミケット・ラキーユ伯爵令嬢の不条理な初恋
・ケビン・シェロー伯爵の気まぐれな恋
・ルイ・ワイス男爵のほろ苦い恋
※各話は独立していますが、順番に読むと余韻が深まります。
※ 2025年7月には、レナ・ジュラン子爵令嬢の視点から描かれる物語も公開予定です。
7月8日(火)公開予定!