1.女心が分かれば苦労しない
僕はしがない男爵だ。
もっと高い爵位、もっと恵まれた容姿なら……と何度思っただろう。
そんな風に思うのは、何もかも手にしているケビン・シェロー伯爵が親友だからかもしれない。
「ごめんなさい……ルイ様は私のタイプじゃないの」
今回もこっぴどく振られた。
社交界では、お喋りでうざったいと令息たちからは敬遠されているレナ・ジュラン子爵令嬢。
でも僕は、彼女は底抜けに明るくて、お喋りなのも相手を楽しませるためだと知っている。
だって、いつも相手を傷付けたくないと思っている僕と少し似ているから。
そう思って密かに慕っていたのだけど……。
◇
レナ嬢をイメージして明るい色のチューリップの花束を準備した。
少しでもカッコいい紳士と思って欲しくて、ケビンと同じブティックで衣装も誂えた。
「ケビン、どうかな? 様になってる?」
「ハァー、ルイ、本気でレナ嬢に告白する気か?」
僕はケビンに何度も告白することを止められていた。
「僕を止めることはできないよ。運命の人だってビビッと来たんだ!」
「ルイ、そのセリフ何回目だよ。毎回一目惚れしては振られているだろ」
「今までの相手は僕を知らなかったけど、ルナ嬢とはちゃんと接点があるんだから……」
「ハイ、ハイ、もう勝手にしろ。接点って……図書館で少し会話しただけだろ」
「フンッ、気のない相手に自分の本を貸してくれたりしないだろ」
きっとケビンみたいに、数えきれないほど令嬢たちから告白される人には分からないんだ。
僕たちの純粋で控えめな恋心を……。
(ケビンだって平民の女にいれあげて、報われない恋愛をしているくせに)
普段は絶対口にしない悪態を心の中で呟いて、レナ嬢に告白するために図書館へ向かった。
◇
図書館に着くと、レナ嬢がいつものソファで本を読んでいた。
(あっ、いた!)
花束を後ろ手に持って、そーっとレナ嬢に近づく。
「や、やあ、レナ嬢! 今日も恋愛小説を読んでいるの?」
「えっ? あっ、ルイ様、こんにちは」
レナ嬢は目ざとくチューリップの花束を見つけて指さした。
「わぁ、綺麗なチューリップ! どなたに? 恋愛小説はそのためのお勉強だったの?」
屈託のない笑顔で、僕の腕をレナ嬢は揶揄うように肘でつついて来る。
「レナ嬢が貸してくれた本が参考になったのかも……」
「あら! それは良かったわ」
「ほら、君、端を折っていたページ……レディをイメージした花束を贈って、ナイトが告白するシーン」
「私、その場面が大好きなの! 憧れるわ……」
突然、チューリップの花束をレナ嬢の目の前に突き出した。
「えっ……?」
閉じてしまった目をゆっくり開けてレナ嬢の表情を窺うと、そこには僕が期待していた笑顔は無かった。
この作品は、「それぞれの恋」シリーズの一編です。 以下の順で読むと、登場人物たちの心情やすれ違いをより深く味わえます。
・ミケット・ラキーユ伯爵令嬢の不条理な初恋
・ケビン・シェロー伯爵の気まぐれな恋
・ルイ・ワイス男爵のほろ苦い恋
※各話は独立していますが、順番に読むと余韻が深まります。
※ 2025年7月には、レナ・ジュラン子爵令嬢の視点から描かれる物語も公開予定です。
7月8日(火)公開予定!