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59針目.オーウェン警備隊長の名推理

 翌日の夕方、ダイアナ達に付き添い病院を訪れたエリンの手には、小さなカゴ。


 中には、馴染みのお菓子屋のアプリコットゼリーが入っていた。


 病室に入ると、あちこちに包帯やガーゼが巻かれる痛々しい様子のシオンが医者と話していた。


「喉の薬は飲み切るように。火傷が万一化膿したらすぐに見せに来なさい」


 医者が出て行くと、ダイアナ達を見てほっとした表情を見せる。


「具合は?喋れる?」


 ヘーゼルが着替えの服を渡すと、それを受け取り入院着から着替え始めた。


「・・・違和感あるけど問題ない」


 かすれた声で喋るシオンに、エリンがお菓子のカゴを渡す。


「お嬢ちゃんまで来てくれたのかよ」


 笑ってカゴを受け取ると、エリンは不満と不安をぶつけるように


「あんな蛇女助けるために無理するなんて何考えてるんですか!!!」


 と言って、ベッドの上のシオンに抱き着いて泣き始めた。


 飲みかけのミルクティーと一緒にゼリーを食べ、シオンは退院し馬車で別荘へ戻る。


 別荘にはすでに警備隊が来ており、アンドルーの事情聴取が終わりシオンの帰宅を待っていた警備隊長のオーウェンが、シオンに簡単な聞き取りをした後、これはウインチェスター商会を狙った暗殺事件だと皆に説明した。


「マスカレードパーティーに来る予定だったバーナライトとアルフレッドの手袋に、毒針が仕込まれていたのです!」


 ざわめく別荘の住人達を前に、幸い二人は応急処置が早かったし毒物耐性があるようで、現在も解毒薬を打ちまくっているが命に別状はないと付け加え


「パーティーでは娘のメイ・リサを二階の部屋に閉じ込め、そして放火して殺そうとした!」


 身振り手振りで昨夜の事件のあらましを披露する。


「倉庫には火が出るようなものは何もなく、もちろん厨房でも昨夜は火を使う調理は行っていませんでした・・・。しかしガス管の配管は倉庫にあり、そこで犯人は何かを燃やしガス爆発を引き起こしたのです!その後花瓶の花やカーテンや絨毯等、いたるところに点火しまくった!!!」


 熱弁を振るうオーウェン警備隊長。


 もはやミステリーの朗読会だ。


「マスカレードパーティーにはウインチェスター商会の幹部と娘が招待されていた!つまり悪評高い連中をこのパーティーでまとめて始末しようとしたのです!借金がある奴の仕業かもしれん!」


 オーウェン警備隊長の推理に、なるほど~・・・と皆納得し、昨夜の惨事の全貌を理解。


「しかし君の勇気ある行動で娘の命が救われた!スワンコート警備隊を代表して君に敬意を示すよ!!!」


 オーウェン警備隊長の握手を受けとり、シオンは自分が見た状況と今の説明を繋ぎ合わせていく。


 これからメイ・リサの事情聴取に行くというオーウェンに、様子が気になるからと頼み込んで一緒にホテルについて行くシオン。


(借金がある奴の犯行・・・)


 バーナライトとアルフレッドまで狙われていたのなら、そう考えるのは自然だが、しかしどうにも腑に落ちない。


 事情聴取を一緒に聞くことで、心の中に沸き起こる嫌な懸念を払拭しようとした。


(アイツもう大丈夫なのか・・・?)


 自分より先に意識を失ったメイ・リサが、昨日の今日で事情聴取を受けられるほど回復できているのか心配になったが、しかしそれは杞憂に終わる。


 薬をかがされ、背中は五針縫うほどに切れ、下着姿を見られ、手足に火傷を負い、自慢の黒髪が半分焦げたメイ・リサは、これ以上ない程に怒り狂っていた。


「さっさと捕まえなさいこのロクデナシ警備隊!!!犯人は女なのよ何手間取ってんのよ!!!!!」


 シオン同様かすれた声はオクターブ低く、それがさらにドスを効かせている。


「まあ待ちなさい・・・すぐ捕まえるために昨夜のことを・・・」


 オーウェンも若干たじろぎながら、メイ・リサに質問を重ねる。


「なるほど、眠らされている間に違うドレスを着せられたのか・・・。元のドレスは今朝、付近の植え込みから見つかったから届けようか?」

「いらないわよ!犯人の女は私を眠らせるためにボーイに水を掛けさせたの!そして私のドレスと仮面を奪って私に成りすまして逃げたのよ!!!」


 そういうことだったのか、と壁際で聞くシオン。


「ドレスなんかよりもとっととあの女を捕まえてきなさい!仮面付けてたけど顔も大体覚えてるわ、髪も私と同じ黒髪だった!ボーイの方も金を握らされているわよ!」


 ブチ殺してやる!!!と叫びまくり、医者とハーモンドに抑えられるメイ・リサ。


 まだ興奮状態だと判断したのか、今日はこれくらいにしようとオーウェンは事情聴取を切り上げる。


 帰り際、シオンはオーウェンにドレスをくれないかと頼み込んだ。


「俺がアイツに頼まれて仕立てたんです」

「そうなのかい?」

「はい、それで、生地の販売元も知り合いです。元は東洋の伝統衣装なんです」

「はあ、どうりで変わった柄だと」

「そうです、だから・・・」


 シオンは意を決する。


 この嫌な疑念が、間違いであることを証明するために。


「一品ものだから、誰に売ったか分かれば・・・!」

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