56針目.続・私だって舞踏会に行きたい!
メイ・リサが戻らず一人でいるケイレブの元に、近付いて肩を叩いたのはこっそり遊びにきたアンドルーだった。
「なんでいるんだ?!」
「昨日、偶然ミレーネが女学校時代の友達に再会したんだよ!明日帰るとかで今日はその子の家に行ってるから抜け出してきた!」
「運のいい男だな・・・」
「天は俺の味方だ」
さっそく女性を物色し始めたアンドルー。
独自のレーダーをフル稼働させ、横流しの招待状で潜り込んだ一般人の女の子三人組を見つけ出すと早速ナンパ。
「みんなこういうトコは初めて?」
「そうですけど・・・え、おにいさん、言わないでください・・・!」
「言わないから安心して!あっちは行っちゃダメだよ、スケベジジイがウヨウヨしてて君らみたいな子を物色してるからね」
「えー!どうしよう・・・」
呼吸をするようにホラを吹き、別室のルーレット遊びに誘うが当然ケイレブがたしなめる。
「おい、そっちの方がマズいだろ・・・どう見ても地元の子じゃないか・・・」
一目見て分かる、母親か祖母が着ていたであろう時代遅れのドレスに、給仕係が付けている仮面。
貴族のパーティーに憧れる農村の少女達が、私だって舞踏会に行きたい!という一心で頑張った精一杯のおめかしだということは、ケイレブにでも見破れるものだった。
「大丈夫だよ、金は賭けさせないから」
「俺だってメイ・リサと来てるんだぞ・・・」
「そういえば後妻はどこだ?」
「ドレスに水が掛かったから染み抜きかなにかしてるよ」
「いいじゃねえか、裏があることくらい分かってんだろ?お前がいないって分かったら来るよ」
セクハラオヤジから女の子達を守る善良なジェントルを気取るアンドルーは、ケイレブも引き連れ意気揚々と別室へ移る。
そのころ、迎賓館のすぐ近くのレストランでは、ヘーゼルと食事するダイアナの姿があった。
「本当に素敵なレストランですね・・・バラのいい香り・・・」
咲き乱れるバラの垣根に囲われたテラス席は狙い通り空いており、ゆっくりと食事を楽しむことができた。
白身魚のクリームパイと鴨肉のソテーをそれぞれ堪能し、ようやっと大仕事を無事に終えた自分達を労い合っていると、ヘーゼルが突如申し訳なさそうな顔をする。
「ダイアナ様にはご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした・・・。公爵様がお怒りなのも全部ウチのシオンのせいなのに・・・」
予想外の謝罪にダイアナは慌てる。
「いえ、父が正解ですわ!私が楽しさにかまけて浮ついていたのがいけないんです!!」
「そんな・・・元はと言えば、こちらがダイアナ様のご厚意に甘えすぎてしまったことが原因で・・・」
「いいえ、いいえ!お二人の仕事を手伝えることは私にとって今一番の喜びなんです!そんな風に考えないでください!!」
緊張の糸が切れたのか、公爵家の人間を都合良く使っている自分達の厚かましさに気付いたヘーゼル。
ダイアナは必死になって説得し、自分がどれほど幸福を感じているかを伝えると、ヘーゼルの猛省も和らいでいった。
「だから、次は私が、自分のことをきちんとしないといけませんね・・・」
父に激怒された日から、ダイアナは考え続けていた。
公爵家の人間として、自分は、何を成せるだろうか。
「ダイアナ様は・・・ブランフィールドに戻ってからどうされるご予定ですか・・・?」
もう八月末、九月中にはスワンコートの季節も終わる。
答えに詰まるダイアナは、愚かだと思いながらも願っていた。
この時間が続けばいいのに・・・と。
* * * * *
「えー!赤?黒?」
「黒にしなよ!」
「じゃあ黒!!」
ゆったりと回転するルーレットに向かって球が投げられ、転がりこんだポケットは黒の八。
「きゃあーーー!!!」
ソフィー、アンヌ、ケイティが歓声を上げる。
「アンドルーさまあ!当たりましたあ!!」
「すごいな~初心者なのにツイてるんだな~」
「ケイレブ様は次どっちだと思いますか?!」
「そうだな、じゃあ次は黒の二十がいいんじゃないかな」
子ども向けに金を賭けないお遊びをしてやりながら、無邪気な少女達との遊びに耽るアンドルーとケイレブ。
都会っ子と違ってスれていない、ピュアな少女達との“交流”が思いの外居心地が良かった二人は、上機嫌で酒を飲みルーレットに没頭する。
「アンドルー様、私もお酒飲んでみたいです~!」
「こらこら、ちょっとだけだよ」
自分のブランデーグラスを渡すとアンヌが目を輝かせながら一口飲むが、すぐにその苦さに泣きっ面になる。
ソフィーとケイティもまったく同じ反応だ。
「うええ~苦い~・・・」
「ほら、ジュースで口直しして」
葡萄ジュースを三人揃って飲み干すその様子に、二人は
(あ、平和・・・・・)
と、妻やその周辺の連中から虐げられている(と、本人達は思っている)現実を忘れ去り、しばし極楽浄土を満喫。
裏会場では皆仮面を取り外し、密談をしたり賭け事をしたり、社交ではなくそれぞれの輪の中で過ごす時間を酒とともに楽しんでいる。
葉巻を吸う客もいたせいかだろうか、異変に気付くのに若干遅れた。
「・・・なんか焦げ臭い?」
客の一人がドアの向こうに消え、しかしすぐに戻ったと思うと
「おい火事だ!煙出てるぞ!!!」
そう叫ぶ。
「火事?」
「そんなわけないでしょ」
「誰かが絨毯でも焦がしたんだよ」
皆、自分は安全だと信じたい心理が働き楽観的な言葉を口にするが、飛び込んできた給仕係が叫ぶと今置かれた状況は悪夢だと知る。
「皆さん早く逃げて、火事です!!!」




