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52針目.過去との邂逅

「申し訳ありません・・・お客様をご訪問中でして・・・」

「まあ、そうですか」


 今日もスカーフで首元まで隠す女性。


 何も持っていないところを見ると、おそらく何か仕立ての相談だろうと思ったダイアナが


「戻るかもしれないのでお待ちになりますか?お時間があれば・・・」


 そう案内すると、


「では待たせてもらえますか?」


 と言って、入り口そばの椅子に腰掛けた。


「地元の方ですか?」


 ダイアナの問いに、女性は


「いえ、出稼ぎですわ」


 柔らかく微笑んで答える。


 姿勢の良さ、足の揃え方、物腰。


 そのどれもが、とてもではないが本人の言う”出稼ぎ”にそぐわず、一体何の仕事をしているのか気になって仕方がないダイアナだが、アレコレ聞くのはマナー違反だと自分に言い聞かせていると、向こうから話しかけてくる。


「相変わらずお忙しそうですね」

「ええ、マスカレードパーティーも近いですしね」

「パーティーにはご参加されるのですか?」

「私は行きませんわ、あまり得意でないので・・・」

「まあ、勿体ない・・・、華やかなドレスが似合いそうですのに。お店の他の方々も行かれないんですか?」

「ええ、なるべく人の多いところは控えようと・・・」


 会話が続き、ダイアナは思い切って聞いてみる。


「あなたはどちらからお越しですか?」

「私ですか?グランデールです」

「まあ、私も以前住んでいました!どの辺りですか?」

「レイモンド地区と言ってお分かりになりますか?中心部からは東寄りですが・・・」


 王都の話題で時間は過ぎるが、しかしシオンが帰る気配は一向にない。


「・・・あんまり長居してもお仕事の邪魔ですね」

「申し訳ありません、二度も来ていただいたのに・・・」

「いえ、繁忙期ですもの。お気になさらないで」


 ドアが閉まり、一人店内に残されたダイアナ。


 作業を再開しながらも、


(やっぱり不思議な方だわ・・・)


 と、女性のことを考えてしまう。


(室内でスカーフを取らないということは、頭部に怪我か何かがある・・・?それか外では顔を隠していて・・・王都から来た労働者と言ってもそんな感じには見えないし・・・)


 そこで閃く。


(・・・まさか駆け落ちした貴族のご令嬢?!)


 逃亡がてら仕事のあるスワンコートに来たのかと想像していると、ドアが開きヘーゼルが姿を現した。


「ダイアナ様、申し訳ありません、お一人で店番させてしまって・・・」

「いえ、シオンがまだ戻ってないですから」

「あの子今しがた別荘に戻ってきましたわ、てっきりダイアナ様も帰っていると思ったみたいで」

「あら、そうでしたか」


 それならもう帰ろう、と二人で店を閉める。


「別荘に帰っていたんですね、シオンにお客様が来ていたのに」

「まあ、そうでしたか」

「ええ、二度目です。でもきっとまた近いうちに来てくださいますわ」


 別荘までの道を歩きながら、そういえばヘーゼルはパーティーの夜はどうするのかと尋ねると特に決めていないという返事だった。


「どこかに食事にでも行きませんか?ヘーゼルさん、別荘とお店の往復しかしてないじゃないですか」

「そう言われてみればそうですね・・・」

「この前シオンと一緒に行ったレストランが、テラス席はお花で埋め尽くされていて素敵でしたよ」

「本当ですか?パーティーの最中なら空いていそうですね」


 別荘に戻り各々のパーティー当日の予定を聞くと、エリンとモリーはサーカスを見に行くと言い、アンドルーとミレーネは近郊の植物園に日帰りで行き、シオンは何があるか分からないからとりあえず店で待機すると言う。


「じゃあ私達だけで行きましょうか」


 そう約束して、二人は当日を楽しみに仕事に励むことにした。


 * * * * *


 翌日、シオンは一人で遅くまで集中していた。


 この夏のうちに、貴族がスワンコートにいるうちに、少しでも多くの客を掴んでおきたい。


 呼び出されればいつでも営業に行けるように、夜のうちに進められる作業を進めておこうとひたすら手を動かす。



 あまりに集中していたからだろうか。



 最初は、ドアが開いたことに気付かなかった。



 自分が立てるものとは違う物音がしたような気はした。



 しかし気にも留めずに作業をしていると、床を踏み鳴らす足音が聞こえた。



 ヘーゼルが来たのかと思い顔を上げると、見知らぬ女が立っている。



「あ、すみません、もう閉店してるんですけど・・・」



 頭からスカーフを被り、男物のシャツとズボンを着た女。



 そういえばそんな客が来ていたとダイアナが言っていたのを思い出した瞬間、



「・・・久しぶり」



 という言葉が女の口からこぼれる。



「え?」



 知り合いかと顔を見つめるが分からない。



「・・・忘れちゃった?」



 スカーフが解かれる。



 波打つ金色の髪が現れる。



 深い海の底を思わせる青い目が自分を見つめ、記憶が逆流し始める。



(・・・嘘だ・・・)



 そんなはずはない。



 あの時確かに自分は見た。



 遺体の山の中に、彼女の足を。



 いや、正確には、自分が作って贈った”靴”を。



「・・・アデライン!!!」



 名前を呼ばれ微笑むのは、



 ウィリザヘラ王国第三王女



 アデライン・ド・ミュルンゲール・セオデニカ

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