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49針目.若い燕もメロメロ!!

 数日後。


 高級レストランのテラス席ど真ん中。


 そこには、このうえなく上品なネイビーのサマードレスを着たダイアナとシオン。


 料理を待つ間、シオンは一目もはばからずテーブルの上に置かれたダイアナの手を握り、


「ダイアナ様、今日も綺麗だね。俺との時間、作ってくれて嬉しい・・・」


 と、甘くささやく。


 ダイアナは大人の余裕で


「ふふっ、誰にでも言っているくせに・・・」


 と、やんわりかわすがシオンの口説きは止まらない。


「なんで、他の女なんてもう眼中にないよ」

「本当かしら?」

「ダイアナ様しか目に入らない、俺にとっては月の女神の生まれ変わりだよ」


 周囲が鳥肌を立てながら絶句するもお構いなし。


 運ばれてきた料理をスプーンですくい、


「はい、あーんして」


 と、キラッキラな笑顔でダイアナにスプーンを向ける。


 ゴシップから着想を得たシオンの作戦は、


 ”若い燕もメロメロにする貴婦人の上品さ大作戦”。


 酸いも甘いも経験したバツイチ三十歳のダイアナの魅力にお熱を上げ、グイグイ押しまくる若造の図を演出するが、もちろん上流階級を顧客にする策略の一環である。


 今日ダイアナが着ているのは、これまでのシオンのテイストからは一風変わった、何の飾りもないドレス。


 レースさえ付かず、流行も追わない、ネイビーの生地で作ったウエストを強調するマーメイドラインのデザインで、アクセントは生地の端の白いパイピングのみ。


 髪も一つにまとめ上げられ、メイクは切れ長アイラインと赤の口紅。


 ともすれば女性をより年上に見せる装いだが、しかし一周回って目新しく、ダイアナの上品さをひたすらに引き立て、レストランの男性客も目の前の妻そっちのけで横目でチラチラ見続ける。


 ダイアナが会計のためにバッグに手を掛けようとすると


「いいよ、俺が払うから」

「でも・・・」

「これでも稼いでるからさ、カッコつけさせてよ」


 と、メイ・リサから貰った小切手を換金した金で代金を払い、立ち上がったダイアナの腰を抱き寄せエスコート。


 噴水広場のベンチではジェラートを食べさせ合い、靴屋では跪いてダイアナの足に靴を履かせ、もちろんそれもプレゼント。


「ねえ、悪いわ・・・」

「なんで?」

「だって・・・、あなたのお金はあなた自身に使うべきよ・・・」

「俺はダイアナ様の気を引きたいだけだよ?いつになったら俺のこと本気で考えてくれるの?」


 他の客達もいる中で、三流メロ芝居でしかお目にかからないセリフを乱れ打つシオン。


 もちろんダイアナも「こういう戦略」と言われているので、言われたとおりに”はんなり感”を醸し出す。


「嬉しいのよ・・・でも、いつか現実に帰らなきゃいけないって思うと・・・」

「そしたら俺の腕の中でずっと眠ればいいよ・・・」


 客で混み合う昼下がりのセール中の靴屋で、抱き合ってドラマを演じる二人。


 もちろん居合わせた貴族達は眉をひそめるものの、しかし、季節と場所の魔力が相成り、貴婦人方の間に


(ああいう服装ならデブでジジイの旦那じゃなくて若い子に好かれる!!!)


 という勘違いが大発生。


 店に続々と執事達が送り込まれ別荘訪問のアポを入れていき、マダム達の”若い男とのアバンチュール願望”に付け込んだ作戦は功を奏す。


(こ・・・こっ・・・小賢しいいいいい!!!自分の願望と実益叶える方法!!!)


 執事達にアツアツっぷりを見せつけるていで、店の中でもダイアナにぴったり寄り添うシオンの小賢しさに、エリンはついに顎が外れた。


 小賢シオンはマダム達の別荘でも積極的に営業を仕掛けまくり、御友人方も芋ヅル式に顧客に取り組むことに成功。


 そして隙あらば、


「お美しいですよ、俺のダイアナ様の次くらいには」


 と、マダムを褒めつつ、あくまで自分はダイアナに首ったけであることをアピールし、


「俺を導く月の光」


 と、ダイアナがいかに魅力的かを語る。


 マダム達はシオンの一途さを褒め称えあげ、「若い仕立て屋にカモられてみっともないぞ!」と自分らを叱る旦那の悪口で盛り上がり・・・


「ウチのクズもアタシを一番星の生まれ変わりくらいに言ってみて欲しいもんよ!」

「アタシなんてさそり座の女だとか言われたわ」

「んまあ~失礼ね!刺し殺してやりなさい!」

「でも生命保険に入ってないのよ~用心深くてねえ~」

「じゃあ生かしておいて脳髄の一滴まで搾り取るしかないわね・・・!」


 ・・・マダム達の怒りと共に、小切手と紙幣が桜の花のように舞い散った。


 おかげでシオンの店では、中流階級女性や貴族令嬢には既成で流行りのサマードレス、上流階級マダムにはオーダーのクラシカルドレスがバカウケし、それに加えてマスカレードパーティー用のドレスの依頼が殺到。


 シオンとヘーゼルは寝る間を惜しんで作業に没頭する日々を送った。


 そんなある日の夕暮れー


 夕立が止み、西日が眩しく店内に差し込む中でダイアナが一人店番していると、ふいにドアが開き、頭に大判のスカーフを巻いた女性が来店した。


「いらっしゃいませ」


 いつも通り笑顔で迎えると、女性客は


「こんばんは・・・、シオンはいますか?」


 と、問いかける。


「申し訳ございません、今外出中で・・・」

「まあ、そうですか、スカートのお直しを頼みたかったのですが・・・」


 手には布の包みがある。


「私でよろしければすぐに直せますがいかがいたしますか?」


 ダイアナの提案に女性客は、ではそうして欲しいと言って包みを渡し、壁際の椅子に腰かけた。


 包みを開くと花柄のスカートが現れ、裾に触れると確かにほつれている。


(この程度なら私でも大丈夫ね)


 早速作業に取り掛かるダイアナに、女性客は声を掛けてきた。


「お疲れじゃありませんか?とても繁盛していますよね?」


 顔を上げると、カウンターの所に立って自分の作業する様子を見つめる女性。


 大判のスカーフのせいで正確に判別はできないが、自分と同い年かもう少し年下の、美しい人だとダイアナは思った。


「ええ・・・でも、大変なのは私だけではないので・・・」

「そんなことありませんでしょう?遅くまでお店にいらっしゃるじゃありませんか」


 ダイアナが作業を進める間も、店に関する質問を重ねる。


「じゃあそのマスカレードパーティーまでは頑張り時ということなんですね・・・」

「ええ、でも充実していますわ」


 スカートの直しが完了し、女性は確認してからダイアナに代金を払う。


「ありがとうございます、助かりました」

「いえ、また何かあればお越しくださいませ」


 店を去る女性の後姿を見て、その時初めて彼女がヘーゼル同様男物のズボンを履いていることに気付く。


(同業なのかしら・・・でもそしたら、あの程度のお直しはご自分で出来そうだけど・・・)


 ダイアナは女性の素性が気になったが、しかし翌日には忘れてしまっていた。

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