48針目. このゴシップ、利用させて貰おうぜ
『店は出すものじゃない、周りに出させるものだ』
バーナライトの言葉が頭から離れず、シオンは来る日も来る日も考え続けた。
王都の商業地区に店を出すためには、やはり上流階級の支持が必要であり、では上流階級にウケるものは何なのか、を考えまくる。
メイ・リサは、
『どこかに行くためのドレスじゃなくて、このドレスを着るためにどこかに行こうって思えるような』
と言っていた。
それが裕福な女性全員に通じる価値観なのかと、夕食後にダイアナとミレーネに聞いてみても二人の反応は何とも言えない。
「そういうこともあるんでしょうけど・・・」
「田舎じゃそもそも出掛ける場所が限られてるしねえ・・・」
やはり都会っ子と田園地帯のご婦人では意見が異なる。
「じゃあ王都に住んでいたらまた感じ方は違うのか?」
「どうかしらね、年取ると着飾って外出よりも家の中でのんびりおしゃべりする方が楽しくなって来るとも言うし」
「分かりますわ、おしゃれは楽しいけどエネルギーが必要ですもんね」
おいおいそっちじゃない、と思ったシオンが
「じゃあ二人は根本的にどういう服を着たいんだよ」
と、初心に戻った質問をしてみるも、なんと答えは二人して
「・・・分からない・・・」
だった。
「だって何が似合うのかとか、それがオシャレなのかとかって、判断つかないことってあるじゃない」
「そうですね、自分じゃ何が正解か分からない時ってありますね・・・褒められて初めて、これが正解なんだって思えるけど・・・」
開いた口がふさがらない。
シオンが自然と区別できるアリ・ナシが、判断できない人間が存在していたのだ。
(だからあのダサい服とか似合わないブリブリ着てたのか・・・)
謎が解けていくが、しかしそれだけでは何も閃かず、シオンは質問の仕方を変えた。
「じゃあ奥様と夫人は何があれば服を新調しようと思う?」
またも二人は顔を見合わせ、うーん・・・と考え込む。
「そんな考えることか?!」
「だって意識してないこと聞かれてるんだもん・・・」
「難しいですわね、仮に私が今王都に住んでいたとしても、手持ちのドレスが十分だったら何かお誘いがあってもその中から選ぶでしょうし」
うう~ん・・・と再び考え込む二人だったが、ミレーネが
「結局みんな大した理由なんて持ってないわよ、目的が達成できればいいんだから」
と言って、ハーブティーを一口飲む。
「目的って?」
「きれいって言われて嬉しくなったり、自分に自信が持てるようになるとか」
「モテて旦那の浮気を止められるだとか?」
「まあそれもあるわね」
「分かりますわ!私だってシオンのドレスを着るのは必ずみんなが褒めてくれて、それがすごく嬉しくて、その嬉しいって気持ちが自信に繋がるからだもの!」
突然のダイアナの力説。
(ヤベエ、好きだ、抱きたい、今すぐ結婚しよう)
健全な邪念に思考を占拠されそうになるのを押しとどめている間、ダイアナとミレーネはどんどん結論に達していく。
「自分が・・・というよりも、やっぱり周りの反応が一番な気がするわ」
「そう、周りの反応があってこそ自分って変われます!」
「そのための手段の一つが服でありおしゃれですわね」
「これを着ればきっと現実が変わるっていう魔法なんですね!」
「そこから自分がどう変わるか、だわ!」
盛り上がり始めた貴婦人達を見て、シオンは考える。
(自分軸なんて持ってんのは顔が出来上がった人間だけってことか・・・)
もしかしたらこれまでの自分の服作りはどこかズレていたのかもしれない、という考えに至り、ダイアナが喜んで自分の服を着ていたのもあくまでモデルとしてであって、これがただの客だったら、もしくは既に自尊心が満たされていたら、素通りされていたかもしれない可能性に気付く。
(これを着れば現実が変わる・・・)
自分は醜いと卑屈になっていたダイアナ。
浮気夫に見下されていたミレーネ。
身分に限らず、世の女性の悩みなんて案外共通かもしれないと、食堂の隅に目をやるとローテーブルの上に新聞紙が敷かれ、日中に天日干しされていたズッキーニを盛ったカゴがその上に置かれている。
よく見ると敷かれている新聞紙は自分とダイアナのゴシップ紙だった。
「ああ、そのムカつくゴシップ、少しは世のためになるように野菜干しで使ってるのよ」
「世のためになってんのかコレ・・・?」
ズッキーニをどかし、再度自分達に関するデマに目を通す。
『元夫人は離婚後、故郷の仕立て屋の青年A氏の店に通い、A氏の手業で身も心も染め上げられ垢抜けることに成功』
『今では毎日自分の側に侍らせ、朝にA氏にドレスを着させては夜に脱がせるという日々を送り、ウインチェスター商会のメイ・リサ嬢を選んだ夫に地団駄踏ませる日々を送っている』
突如、シオンは閃いた。
言う程間違ってはいない記事の内容にチャンスを見出し、恥ずかしそうにするダイアナに不敵な笑みを向ける。
「・・・奥様、このゴシップ、利用させて貰おうぜ」




