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46針目.ダイアナ様との結婚をお認め頂けるなら・・・

 急いで身支度を整え向かう先は、宮廷内の図書室。


 ドアを開けると、すでにアデラインは椅子の上に立ち、机の上で開いた大きな図鑑を見ていた。


「シオン!今日も私の勝ちよ!!」

「ええ・・・、ずるいよ、皿洗い言いつけられたんだよ・・・勉強があるって言ってんのに・・・」


 勝ち誇った顔に、ふくれっ面で返す。


 母が仕立てた若草色のドレスを身にまとった、波打つ金髪が美しい第三王女のアデラインは、物心ついた時から一緒にいる家族も同然の幼馴染みだ。


 ウィリザヘラ国王には子が四人。


 第一王女メルナスティラ。


 第二王女サリニーナ。


 第三王女アデライン。


 第一王子ラサエル。


 国王夫妻の信頼が厚い両親のおかげでシオンは、王子・王女の遊び相手として宮廷内を自由に動けるだけでなく、家庭教師からの授業も一緒に受けさせてもらえた。


「・・・ねえシオン・・・、厨房からザクロ取ってこれない・・・?」


 アデラインの深い海の底を思わせる青い目に見つめられると、必死に覚えた詩があっという間に飛んでいく。


「いいけど、何すんの・・・?」


 教師が末の王子のラサエルに単語の綴りを教えている隙に、小声で会話する二人。


「ゆうべね、デザートに出たんだけど、私ちっとも食べれなかったの・・・ねえさま達にとられちゃって・・・」

「ああ、いいよ・・・いっこくらいなら」

「ほんと?ありがとう!」


 満面の笑みに、小さな心臓が大きく跳ね、思わず半ズボンの裾を握る。


 幼いながらも、自分の立場は理解していた。


 自分は平民。


 アデラインは王族。


 しかしこうして一緒に勉強を受け続け、自分も父のように国王陛下に認められるようになれば、いつか”夢”は叶うのではないかと淡い期待を抱く。


 そんな希望も全て焼き尽くしてくれたのがあの革命だった。


 末の王子は国王の実子ではないという噂。


 国は無駄な文化・教養ばかり保護して国防に予算を当てないという不満。


 農民の貧困の無視への怒り。


 そんな理由から宰相は反逆を企てた。


 王族は全員火刑に処され、両親を含め忠誠を誓っていた家臣も残らず殺され、宮廷しか世界を知らなかった自分は突如として、残虐な世界に一人孤独なまま放り込まれた。


「・・・確かに俺は宮廷育ちで、王族と同じ教育を受けていました。ですが平民であることには変わりませんし、今更宮廷育ちを主張してどうこうしようとは思いません」


 シオンの告白を受け再度ローティスは黙ったが、口を開いて出た


「・・・別にお前がダイアナを望むなら私は反対しない」


 という発言に、シオンは一瞬我が耳を疑う。


「・・・え・・・?」


 思わず漏れた言葉に、ローティスは口の端で薄い笑みを浮かべる。


「なんだ、意外か?」

「え、あ、はい・・・」


 不意を突かれた表情が年齢相応のもので、ローティスも表情を和らげた。


「お前はケイレブよりは人間的に成熟していそうだからな。むしろダイアナには勿体ないかもしれん」


 思わぬ光が見え始め、シオンの胸が高鳴り始めたが、しかしその様子さえも見逃さないローティスは条件を付けて釘を刺す。


「しかし私が結婚を許すのはお前達がそれぞれに独立し、経済的基盤を整えていることだ。貴族の娘を平民に嫁がせるなら公爵家の財産支援は一切認めるわけにはいかない。分かるだろう」

「はい」

「それからダイアナが産んだ子に公爵家の後を継がせることが条件だ」


 急速に開ける未来に浮足立つ。


 再度床に跪き、頭を下げた。


「ダイアナ様との結婚をお認め頂けるなら・・・必ず公爵様のご期待に沿ってみせます・・・!」

「なら急げ。私が望むことは跡取りと領民の利益だ。もし今その二つが叶う再婚の話が持ち上がれば、私はそちらを選ぶからな」


 足早にホテルを後にし、覚悟を決めたシオンは走り出す。



 はやる気持ちを抑えられない。



 もう身分などに囚われる必要がない。



 愛する人と、添い遂げられる可能性を掴むために、利用できるものはなんでも利用してやる。



 数日前に訪れたホテルに駆け込み、面会の意を伝えしばらく待つと支配人に入館を許可される。


 階段を駆け上がり、廊下を曲がると、ネグリジェにガウンを羽織った姿で王都一の美女は自分を待っていた。


「・・・あんたの辞書に礼儀とか常識って言葉はなさそうね」

「お前も似たようなモンだろ」


 挨拶代わりの嫌味を言い合い、一呼吸置いてからシオンは切り出す。


「・・・お前の自立の手助けしてやる・・・代わりに俺を王都で成功させろ!!!」


 * * * * *


 深夜近く、スワンコートの入り口ゲートで四台の馬車が停まった。


 警備員の元へ、先頭の馬車から降りた一人が近付き、荷物チェックを受ける準備を始める。


「ウチの優秀な従業員たちは今年もタレ込んでくれちゃったみたいですよ~」


 暫くは動かない馬車の中では、暇つぶしに釣れた魚を一つ一つ挙げていく男が二人。


「宮廷財務担当は収賄、ベルン伯爵のドラ息子が売春宿を闇経営、グランデール大学の法学部長が裏口入学接待・・・、あとそうだ、これは偶然ですけど、ブラン公爵のダイアナ嬢とシオンがデキてるとかも書かれてましたよ」


 荷物チェックを受ける馬車の様子を眺めていた目が反応する。


「・・・シオンが来ているのか」

「みたいですねえ、仕事しに来ているんだったら大したモノですよ」

「ワキの甘さはまだ子どもだな」

「いいじゃないですか、若者なんだからハジけなきゃ」


 その時、外からトントンと扉を叩く音がし、


「バーナライト様、アルフレッド様、申し訳ありません荷物チェックです!」


 と、声を掛けられる。


「はいはーい、今降りるよ」


 陽気に答え、アルフレッドが先に、次にバーナライトが馬車を降りると警備員が頭を下げる。


「すいませんね、夜間の出入りは必ずやんなきゃいけない決まりで・・・」

「いーよいーよ、そういう季節だもんねえ~」


 馬車に寄りかかりながらアルフレッドは楽しそうにつぶやく。


「タイミング、フィーリング、ハプニング、これが揃わなきゃスワンコートじゃないっしょ!!!」

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