37針目.魔界
―デイ・デイ!
「特集です。エリスニア一の人気を誇る避暑地・スワンコートが街開きを迎えました!」
夏至―
夏の到来を迎える今日、スワンコートも例年同様賑やかに街開きを迎えました。
「ご覧ください、参加者の方々皆様、白いお衣装を着られています!とても華やかです!」
夏のスワンコートには、毎年国内外から多くの観光客が訪れます。
―どちらからいらしたんですか?
「ラネルの王都です~!レイフェア地区から来ました!」
―滞在の目的は?
「湖でボートに乗りながらあ、白鳥にエサあげたいなーって思って~!」
今年も多くの観光客が来る見込みのスワンコート、地元の方のアピールは・・・
「今年は気温が高いせいか、果物や野菜の出来がとてもいいんです。スワンコートの農作物は甘いのがウリなのでぜひたくさん食べてほしいですね!」
こちらの農家が経営するレストラン、すでに行列ができています。
「えーすっごく美味しいです。野菜の甘みを感じます」
「野菜嫌いの息子がちゃんと食べているからびっくりですね」
夏の滞在先として人気のスワンコート、しかし、楽しいだけではありません。
「ここ数年、ちょっとモラルの低下が見られるというか・・・昔からそういうトコはありましたけど・・・最近はヒドいですね・・・」
オープニング一日目から、さっそく警備隊が出動です。
「全員動くな!!」
「違う違う!これはただのタバコ!」
「おい、なんでお巡りがいんだよ!!」
ホテルの通報で駆け付けると、部屋の中に充満している煙は、なんと大麻―
「大麻の吸引や密売の取り締まり件数は多いですね」
違法製造酒も出回っています。
「王立農園のぶどうを悪用した基準値越えのワインが酒問屋の卸しルートに紛れ込んでいます。アヤシイ酒は絶対に飲まないでいただきたいですね」
他にも、住民や観光客とのトラブルも―
「あちらです!民家のバーベキューに泥酔客が乱入して揉めています!女性同士のトラブルのようですが、あ!見てください!もうお尻丸出しです!!!」
酔った観光客の女性二人が、バーベキューをしていた集団に絡み、その中の一人に馬乗りになっています。
「やめてえええええ!!!!!」
「ちょっとお~~~!大人しくしにゃしゃいよお~~~!!!」
「にゃははははは!!!!!」
酔った女性二人は、パトロール中の警備隊に連行されました。
それ以外にも、至る所でトラブルの嵐―
「そこ!喧嘩はやめなさい!」
「うるせー殴らせろ!!」
「テメエ人の女房に手え出しやがって!!!」
「スワンコート警備隊だ!服を着ろ!!ノーパンしゃぶしゃぶは違法だ!!!」
「違うんだ俺は呼ばれただけなんだよおおお!!!」
「指定業者以外のギャンブル営業は取り締まり対象だ!」
「はあ?!聞いてねーぞ!」
「おいお前俺らのことハメやがったな!!!」
街開きの一晩で、警備隊による連行者は実に百人を超えました。
「スワンコートは王立の由緒ある避暑地であり、王族の皆様もご静養になられる場所です。ご来訪の方々には、節度のある行動で滞在を楽しんでいただければと思います!!!」
* * * * *
「・・・とまあ、こんなことがありまして・・・」
ダイアナとシオンは絶句した。
まさか自分たちとはぐれたミレーネとエリンがパンツ丸出しでヘーゼルに飛び掛かり、現行犯で連行されていたとは。
「まあ、犯歴もつかない厳重注意で済みましたから・・・」
ヘーゼルが力なくフォローするが、尻と恥を晒した二人は項垂れたままだ。
「ミレーネ様・・・エリン・・・お酒の酔いは?もう抜けています?」
「ええ・・・体調は問題ありませんけど・・・」
「・・・ダイアナ様っ・・・申し訳ありません!公爵家の名に泥を塗るような真似を!!!」
「大丈夫よ、セリファスでも王都でもないんだし、警備隊の方々も慣れているわ」
エリンの隣に座ったダイアナはその頭を優しく撫で、エリンはすかさずダイアナの胸に飛び込んできた。
「しっかし恐ろしい場所だな・・・毎年こうなんですか?」
「いやいや、本当にここ数年の話ですよ!ミレーネ様がまだお小さくて毎年来ていた時期なんてほとんどトラブルなんてなかったんです!」
「私もうっかりしてましたわ・・・何分、久しぶりでしたから・・・」
ようやっと顔を上げたミレーネは苦虫を噛み潰した顔だ。
「まったく・・・とんだ魔界に成り果てたものね・・・。みんな!気を引き締めるわよ!ブラン公爵家は王家に並ぶ国内最古の歴史を有する家門よ!これ以上の醜態は晒さないわ!!!」
自分に言い聞かせるようにミレーネは叫び、ふと目が合うと思い出したようにシオンににじり寄る。
「・・・それであんたは何もトラブル起こしてないわよねえ?」
「起こしてねーよ、そっちほどは」
「朝帰りなのに?」
「ミレーネ様っ・・・!」
ダイアナが立ち上がりすかさずシオンのフォローに回った。
「本当に何もありませんわ、私が酔って動けなくなってしまって・・・親切な民宿の方が泊めてくださったんです、それだけですわ」
「・・・!ま~あ、そうでしたの!それならダイアナ様お腹が空いてますでしょ?モリー!ダイアナ様を食堂へお連れして!」
モリーが慌ててダイアナの元へ駆け寄り、ダイアナを連れ出すとジャン夫婦も一緒に出て行く。
部屋の中に残ったのはミレーネ、ヘーゼル、エリン、そしてシオン。
突如物々しい空気に包まれる。
「な、なんだよ・・・」
「怒らないから正直におっしゃい・・・あんたダイアナ様と変なことになってないでしょうねえ?!」
「ハア?!別にやましいことなんて何もしてねえよ!」
まあちょっと髪や首筋は触ったり口付けたりしたけどと思いつつ、しかし理性を保った自分のためにここはしてないと言い張るシオン。
「本当ですか?!一晩一緒にいて何もないは逆に不自然ですよ?!」
「なんだよお嬢ちゃん、何かした方が良かったのかよ」
「んなことあるか!!」
「シオン、冗談では済まされないのよ・・・状況的に勘ぐる人達が出てきてもおかしくないわ、泊まったんでしょう?」
「ただの民宿だぞ?」
「ベッドの数は?!」
「あー・・・一つだったけど」
「連れ込み宿じゃない!!何が民宿よ!!民宿なら人数分のベッドの部屋に案内するわよ!!!」
パニックになる三人を見て、さすがのシオンも内心で焦る。
「あんたダイアナ様の素性話したりしてないわよねえ?!親切を装ってそういうところがゴシップ記者に情報を売ったりすんのよ!!」
「何も話してねえよ・・・」
その時、ドアノッカーを叩く音が鳴り、モリーがドアを開ける。
「おはようございますー!ワインのお届けですー!!」
「ミレーネ様~!ワインです~!」
曰くつきのワインが届き、
「キー!!!捨ててやる!!!」
ミレーネは応接間を飛び出していった。
「シオン・・・とにかく気を付けましょう。ここにはあなたの仕事のために来ているんだからね」
「・・・大丈夫だよ、ヘマはしねえから」
そう言うと、シオンはそのまま二階の自室に戻って行った。
初っ端から出だしくじかれた一同ではあったが、店は無事に開店し客足も上々だった。
途切れることなく女性客が訪れ、既成のドレスも髪飾りも売れ、オーダーもバンバン入りヘーゼルは採寸でてんてこ舞い、良かった良かった・・・
と安心していると、しかし時々妙な光景に出くわす。
エリンが朝、ダイアナの部屋に行くと、
「後ろ苦しくないか?」
「大丈夫よ、それくらいで結んでちょうだい」
ダイアナのドレスのバックストラップを結んでいるシオン。
店でふとした瞬間、
「奥様、髪乱れてる」
「あ・・・さっき引っかけたと思ったら・・・」
「こっち来て、全部やり直すから」
忙しいというのにダイアナの髪をイチから整えるシオン。
二人で遅めの夕飯を食堂で食べている時は
「このサンドイッチすごく美味しいわ、食べた?」
「まだ、それちょーだい」
「・・・もうっ!指まで食べないで~!」
ダイアナの指を舐めまわすシオン。
ダイアナもまんざらでもない様子で、二人は完全に自分達の世界に没頭している。
(おいおいおい・・・いつになく距離が近いじゃねえか・・・・・)
もちろんこんな姿を見せつけられ、黙っている三人ではない。
屋根裏部屋で、緊急会議が開かれた。




