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2針目.私がもっと、きれいだったら・・・

 故郷であるブランフィールドは変わらず優しく、静かな時間を過ごさせてくれた。


 その配慮があったから、ダイアナは寝室に籠り泣き続けることができ、そうして三ヶ月が経とうとしていた。


 冬の寒さが少し和らいだような気がしたある日の午後、空腹を感じたダイアナが厨房に行こうと部屋を出た時だった。


 「ダイアナ様!」


 廊下で壁の埃取りをしていたエリンが駆け寄り、ダイアナの顔を間近で見てぎょっとした表情を浮かべる。


 「どうされました?!何か欲しいものがあれば私がお運びいたしますよ!」

 「お腹が空いてしまって・・・」

 「ではお部屋でお待ちください!お茶も一緒にお持ちしますから!」


 エリンは急いでダイアナを部屋に戻してから、ツインテールの髪を跳ねらせ小走りに去って行く。


 (あんなに慌てなくても・・・)


 エリンの行動を不思議に思う。


 自分が厨房に行った方が彼女自身の仕事が楽だし、何よりもダイアナは厨房の使用人達と話をして気を紛らわしたかった。


 「病気でもないのに・・・」


 そうつぶやき久しぶりにカーテンを開けると、眩しい光が部屋中を巡り奥に置かれた大きなドレッサーに反射した。


 鏡が放つ光に吸い寄せられるようにドレッサーに近付き、椅子に腰かけた瞬間、そこに映った自分の顔を見てダイアナは愕然とする。


 げっそりと瘦せこけた頬、腫れぼったい瞼、色白の肌に浮かぶ黒いクマ、カサついた肌に艶を失った髪・・・。


 エリンが慌てて自分を部屋に押しとどめた理由を理解した。


 こんな顔で歩き回ったら、間違いなく屋敷中の使用人に気まずい想いをさせてしまう。


 エリンの気遣いに感謝すると同時に、また新たな涙が頬を伝い落ちる。


 「うっ・・・、うぅ・・・!」


 ドレッサーに突っ伏してダイアナは再び泣き始め、脳裏では夫を奪ったあの美しい少女の姿が絶え間なく浮かび続ける。


 (私がもっと、きれいだったら・・・こんな顔じゃなければ・・・)


 嗚咽を上げながら泣いていると、ドアが開きエリンが走り寄って来る気配を感じた。


 「ダイアナ様、大丈夫ですか、どこか苦しいですか?!」

 「いえ・・・大丈夫よ・・・」


 エリンに支えられソファに座り、食事が用意される間にタオルで顔を拭く。


 「ダイアナ様、お茶は紅茶とハーブティーどちらがよろしいですか?」

 「そうね・・・ハーブティーを・・・」


 二つ用意されたポットの片方がカップに向けて傾けられ、澄んだ黄金色の液体が注がれると同時に優しいハーブの香りが立ち上る。


 エリンが両手で差し出したティーカップを受け取り、香りを十分に嗅いでから一口飲むとハーブの香りに気持ちが和らいでいくのを感じた。


 「美味しいわ、ありがとうエリン」


 久しぶりに笑顔を浮かべたダイアナに、エリンは大喜びで用意した食事のメニューを説明する。


 「ラズベリーマフィンと紅茶のスコーンはちょうどホントン夫人が焼き上げたものを貰ってきちゃいました!ブルーベリージャムとクリームも厨房の手作りで、あとこのキャラメルは王都の有名なお店のものだそうです!」


 甘いものが大好きなエリンのチョイスらしいスイーツばかりの食事だが、今はこんな彼女らしさに心が救われる思いだった。


 スコーンにジャムとクリームを付けて口にすると、結婚前にケイレブと王都で一番高級なティーサロンに行った時の記憶がよみがえる。


 あらかじめ店に頼んでいた彼は、スイーツが盛られた皿の上にリボンが結ばれたバラの花を一輪添えさせ、驚くダイアナに笑顔でそれを手渡してくれた。


 当時のケイレブは、あの手この手でダイアナを喜ばせようとした。


 それが全て、宮廷仕えをしていた父親の失職で地位を失いかけていたバーネット公爵家がブラン公爵家との縁談を成功させ体面を保つためだと知ったのは、ケイレブがメイ・リサを囲い始めた後だった。


 スコーンを一口食べただけで皿に置いてしまったダイアナを、エリンは再び不安げな面持ちで見つめる。


 「・・・美味しくないですか?甘さ足りないですか?」

 「いえ・・・」


 どうしても食事をする手を進められないダイアナの痛々しさに、エリンは決心した。


 「ダイアナ様!お出掛けしましょう!」

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