14針目.働き甲斐
応接間のテーブルに人数分のティーカップを置いて退出したメイドの髪には見覚えのある髪飾りが着けられている。
「彼女だけじゃなく何人もがあなた方の髪飾りを買ったのよ」
「まあ・・・ありがとうございます」
ヘーゼルが礼を言うと、
「こちらのセリフよ。仕事中に抜け出してどこへ行ったのかと思ったら髪飾りを着けて戻ってきて、周りに見せながら楽しそうに仕事しているの・・・」
イネスは優しい笑みを浮かべながら、メイド達の様子を語る。
「普段会話しない相手にも褒めてもらったみたいでね。それで思ったの。女性にとっておしゃれは重要だから、屋敷の女性達の仕事着を素敵なものにしてあげたいって・・・」
「わあ~!いいお考えです!」
声を上げるエリンにミレーネが「しっ!」と指を立てるが、イネスはまた嬉しそうにする。
「やっぱり仕事着がいいものだと働き甲斐があるかしら?」
「もちろんです!可愛いのなら嬉しいですし、何よりご主人様がそう思ってくださるなんてそれだけで感激です!!」
イネスは目尻に刻まれた皺をさらに深くさせる。
「そう、なら是非お願いすべきね」
「かしこまりました、では細かい条件をお伺いできますでしょうか?」
イネスとヘーゼルの打ち合わせの内容を、シオンは黙って聞き続ける。
小一時間程度商談した後、イネスに見送られ帰路に就き、エリンは馬車の中でひたすらイネスを称え続けた。
「ダイアナ様が一番だって思ってたけど、あんなお優しい御夫人もいるんですね~」
「そう言って自分の仕事着も新しくしてもらう算段なんじゃないの?」
「ちょっ!ミレーネ様!私そこまで厚かましくないですよ!」
二人のやりとりを見ながら、ダイアナは遠征の成果があったことを喜んでいた。
早速翌日からシオンとヘーゼルはスタンと共に、受注の入った髪飾りの制作とイネスの依頼の女性用仕事着のデザインを考えるために忙しくしていた。
ダイアナも父の仕事の手伝いがあり、次に店に行けたのは一週間後だったが、シオンとヘーゼルは煮詰まっていた。
「どの年齢の方が着ても精が出る仕事着というのはなかなかの難題ですよ・・・」
ヘーゼルは頭を抱えていた。
「確かにそうですよね・・・動きやすさも大事だし、でも華美ならいい訳でもなさそうですし・・・」
ダイアナが壁際のシオンを見ると、黙って作業をしている。
恐らく考え事をしているだろうから、話しかけずスタンの作業の手伝いをしながら店番をすることにしたが、夕方になり帰ろうとした時、シオンに頼まれた。
「奥様さ、もっかい伯爵夫人に会わせてくれないか?」