13針目.商魂逞しい
険しい山々の谷間に築かれた城塞都市エバーフル。
王都へ続く道の途中に位置するこの街は、過酷な自然環境を利用し他国の侵略から王都を守り続けてきた要塞だ。
切り裂くように空気は澄み、川の水は氷のように冷たく、動物も植物もブランフィールドのものとは違う。
「すごーい!山の上雪ですよ!」
「もう春なのに全然溶けてないわね!」
馬車の中でもおかまいなしにエリンとミレーネははしゃぐ。
「いいわね~こうやって仕事で遠出、一石二鳥ですわねダイアナ様!」
「ふふ、そうですね」
遊びでないのは承知しているが、どうしても気分は高揚する。
物々しい石造りの建物、ゴトゴトと馬車を揺らす石畳の道、錆びた鉄格子の門、大砲を設置していた壁の穴、セリファスとはあまりにも雰囲気が違う。
街中は道が狭く起伏が激しいため門番に早々に馬車から降ろされ、貸し出された荷運び用の馬とともに迷路のように入り組む街を進み、中心地に位置する大聖堂に到着する。
この大聖堂が今回のマーケット会場だ。
四人を先に行かせ、ダイアナは一人ミラベル伯爵邸に向かい伯爵夫人のイネスに挨拶する。
イネスは四十代だが、髪には白髪が混ざり目尻の皺も目立つため、より年上の貫禄を漂わせていた。
「まあ、お久しぶりですダイアナ様。この度はよくお越しくださいました」
「お久しぶりですイネス様。お変わりございませんか?」
イネスは、事前にダイアナからもらった手紙で事情を把握している。
「先日の大使館の件、聞いてましてよ。夫の妹夫婦が参加していたのです」
「そうだったんですね・・・」
「ええ、大層お美しいドレスだったと。それを作った方がいらしてるなんて感激ですわ」
「まあ、では是非ご紹介させてください」
それから少し情報交換をしてから、ダイアナはマーケットに出るためにイネスの屋敷を後にした。
ダイアナが駆け付けると、混み合う聖堂内でシオン達が出す店も人だかりが出来ている。
その中心で客を引き付けるのは、手伝いで同行したエリンとミレーネだった。
「このスカート、裾を持ち上げると可愛い裏地が見えるんですう!」
「このドレスは夫の浮気を止めるくらい殿方の目を引きましたのよ!!」
「普段仕事するときはこの髪飾りでカワイくしててえ~!!!」
「この髪飾りは特注でアンティークガラスを使ってて!!!!」
二人は息ぴったりに、これ以上ないテンションで服と髪飾りを宣伝する。
(しょ・・・商魂逞しい・・・!!)
しかし効果は絶大、ダイアナも加わることで髪飾りは飛ぶ様に売れ、シオンに仕立ててもらいたいと店のカードを貰っていく客も大勢いた。
夕方になり髪飾りは完売し、特注の髪飾りも数件の受注が入ったことで満足して片付けができた。
「ミレーネ様、そのドレス持ってきてらしたんですね」
「ええ、屋内マーケットだと聞きましたから」
「脱いで帰られますか?」
「そうですね・・・汚れても嫌だし・・・」
「それなら着替えるのを待っていただきたいのですが・・・」
ダイアナは再度、皆を連れイネスを訪問した。
イネスはドレスもスカートも髪飾りも何もかもを褒め、帰る前に少し時間をくれと言った。
「依頼させてほしいことがあるのよ・・・相談に乗ってくださる?」