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12針目.特注髪飾り

 月に一回開かれるマーケットはブラン領民の娯楽の場でもある。


 食品の屋台、雑貨の出店、音楽の演奏。


 まるで祭りの様な賑やかさだ。


 ダイアナ達は酒屋に貸してもらったワイン樽を三つ並べ、その上に値段ごとに髪飾りを置く。


 一番安いものは一ルラン、子どもでも買える値段である。


 「奥様はこれな」


 シオンが手にしているのは、藍色と水色、白の絹糸のロープに金の飾りボタン、大小様々なガラスビーズをふんだんにあしらった豪華な髪飾りだった。


 「綺麗・・・!これも売るの?」

 「これは展示用。髪整えるからちょっと座って」


 椅子に腰掛けシオンに髪を梳かされる。


 あっという間に髪を結い上げ、耳の上に髪飾りを固定すると、顔周りまで華やかになった。


 「素敵・・・こうやって横に持ってくるのもいいわね・・・」

 「ダイアナ様お似合いですわ。もしかしたらそれがいいって方もいるかもしれないですね」

 「そういう客がいたら特注で二十って言っていい。まあさすがにいないと思うけどな」


 しかしシオンの予想に反し、髪飾りを買う客の誰もがダイアナが着けている髪飾りを欲しがった。


 「二十ルラン・・・やっぱりね、とても素敵だもの」

 「ダイアナ様が着けていらっしゃると欲しくなるわねえ」


 皆口々に髪飾りを褒め、値段が分かると少し高いと諦めるが、ある若い夫婦は諦めない。


 絶対欲しいと言う妻のために、誕生日プレゼントでと言って注文を入れて帰った。


 「マジか・・・」


 まさか注文が入るとは思わなかったシオンは驚きを隠さない。


 「ダイアナ様効果ですね。やっぱりあなた様にモデルをお願いして正解でしたわ」

 「そんな、いいものはみんな買いたいと思うんですよ」


 ダイアナとヘーゼルは顔を見合わせて笑顔になる。


 その後はエリンが友達を連れて来たり、ミレーネが来たり、パン屋の一家が来たりと忙しく、夕方の終了時刻を迎える頃には用意した百個の髪飾りの七割が売れていた。


 片付けて店に戻ると店番をしていたスタンに迎えられ、夕食を食べながらその日の様子を報告した。


 「二十ルランの特注髪飾りに注文が入るとは、さすがダイアナ様ですな」

 「シオンのデザインの力ですわ。私だって欲しいくらいですもの」


 今も耳の上に着けたままの髪飾りのガラスビーズが、頭を揺らすたびに立てる微かな音に心が躍る。


 「今日くらい売れるなら、髪飾りも悪くはないわ。でもセリファスだけだといずれ売れなくなるわね」

 「これで上客がつくとも思えないしな」


 帳簿と睨めっこをしていたヘーゼルとシオンが呟き合い、うーんと考えながら皆が黙る中、スタンが提案した。


 「どこか別の街のマーケットに出してみるかい?」

 「・・・そうね、人が来るのを待つより出て行った方が効率的だわ。上手くいけばものを置いてくれる店が見つかるかもしれないし」


 しかしどこに行けばいいのかという話になった時、ダイアナは思い付いた。


 「お隣のミラベル伯爵領のエバーフルはどうでしょうか?ここからなら近いですし・・・」

 「ダイアナ様は行かれたことがおありですかな?」

 「ええ、ミラベル伯爵夫人に招かれたことがあります。治安も良くて人も親切でいい街ですよ」

 「ならいいじゃん。行ってみようぜ」


 エバーフルのマーケットの日程と出店条件をダイアナが調べることにして、一同はその日の仕事を終えた。


 「奥様、帰るだろ。迎えの馬車は?」

 「あ、頼んでない・・・」


 髪飾りを作ることに忙しく、帰りの時間さえ告げずに出てきてしまった。


 「大丈夫よ、歩いて帰れるわ」

 「じゃあ送ってくよ。親方、ちょっと出て来る」


 ヘーゼルの外套をフードまで被せられ、ダイアナはシオンと、店が閉まり夜を迎え始めた街中を歩き始めた。


 「あの・・・前から気になっていたのだけど・・・」

 「何が?」

 「どうして“親方”なの?」


 シオンがスタンを“親方”と呼ぶことが不思議だったダイアナは訳を尋ねる。


 「ああ、俺、養子なんだよ」

 「え?!」


 思いがけない回答にダイアナは驚きの声を上げてしまい、慌てて口を抑える。


 「別に大した事じゃないけどな。内乱で両親亡くして、それで親方一家が引き取ってくれて」

 「内乱・・・?あなた、エリスニアの人ではないの?」

 「そう。出身はウィリザヘラ。昔、革命があっただろ、その時巻き込まれたんだよ」


 ウィリザヘラ革命。


 謀反を起こした宰相軍に国王軍が敗北し、共和制の新政権が樹立したという出来事はダイアナも知っている。


 革命が起こる前は、芸術と文化の最先端と言われる華やかな国だった。


 「隣のラネル王国に住んでた親方の子どもになって、それで去年エリスニアに来たんだよ。元々親方はエリスニア人だったから」

 「そうだったの・・・ごめんなさい、辛いことを・・・」


 余計な質問だったと後悔するダイアナに


 「別に今は問題ないし。奥様のおかげで順調だから」


 シオンは明るく答えて笑い、ダイアナはその言葉に心が救われる。


 お互いについての会話を繰り返している内に、あっという間に屋敷に着いた。


 「あ、この髪飾りも返さなきゃ・・・」


 脱いだ外套を返すと同時に慌てて髪飾りを外そうとすると、


 「いいよ、やる」


 そう言って、シオンは飾りを外そうとするダイアナの手を止める。


 「でもこれ・・・高いものでしょう?」

 「夫人から金貰ったじゃん。試しに作ったやつだからさ」


 崩れた髪型を整え、傾いた髪飾りが正面を向くように着け直す。


 「・・・似合ってて良かった」


 そう言ってシオンは帰り、ダイアナも屋敷へ入る。


 入浴し、寝間着に着替え、ベッドに入り考え事をしてからランプの灯を消す。


 枕元には、シオンが作った髪飾りが置かれていた。


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