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Gronwidz Girl  作者: 白先綾
第一界「music無」

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3トーリー「花の寝顔」

 目の前の気持ちの悪い概念の集合体をある種の見えざる物を感知する魔眼で目にした彼は、吐いた。先ほどの補水した緑の液体、それを汚水だとして吐しゃ物として吐いた。汚水は消化も何もされないのが当たり前だとでも言う様に吐しゃ物をその緑色に彩っているのが確認出来た。体の一部、目の縁が緑になった事を指摘されるまで知らない彼をして、体の中にもその緑が取り込まれたのでは無いかと言う予見を抱かせるに十分な光景だった。あの時感じなかった敵意は敵意と言う形を取らない馨しさや旨さで擬態をしていただけでその実圧倒的に敵意自体は有ったのだ。彼が人であったなら歯噛みしただろう、現に彼は(くちばし)の上下を必要以上にカチンカチンと激しくぶつけている。

 あの川に戻って清める必要が出て来た。なんせこの嘴で木の実を(くわ)えて持って行く訳だから(けが)(ぶく)みの嘴などでそれを実行していい訳が無い。あの緑の水で清めになるのかと言う些末な疑いは有るが今はそう言うジンクス的な話で立ち止まる猶予の有る状況ではない、吐しゃ物交じりの嘴よりは幾分かは清められよう。彼は戻る、戻ると言う動作の中に果実を嘴と両の足で一つずつ持った時の予行演習を加えながら。これからの長丁場、彼女の事を第一に見据えるとは言え自分の不調なり不足なりを重視しなければとてもでは無いが渡り歩いては行けない。割と大振りな果実を二つ一遍にとは彼のあまり大きいとは言えない体躯(たいく)には似つかわしく無い分量かも知れないが、それは何分致し方のない事だった。

 程無く川辺に辿り着いた彼は嘴を洗っている。忌まわしい緑色の液体に緑の吐しゃ物を溶かし込んでいる。吐しゃ物とは言え元は自分の一部、それが彼から離れ何処へとも知れぬ先に流れ行くのを見送るのはあまり気持ちのいい光景では無かったし、いずれ自分が流れ着く先でもっと薄気味悪い物を見るかも知れないと言う前兆めいた物もそこに感じずには居られなかった。暫し立ち止まり流れの先を確認していたが、そうそうゆっくりもしていられまい、彼女の覚醒までにはどうにか間に合わせたい、として彼は然程距離が有るでも無い林を足早に再度訪れると、手際良く手近な木の実を二つ地面に落下させ、それらを嘴と両足で確保し重力による作りかけの蜘蛛の巣が所々張ってあるかの様な歪な常世の茜空へと舞い戻って行った。ここは微睡世界。昼と夜の間を彷徨い続ける朝焼けでありなおかつ夕焼けである物が常からあった、変幻を忘れたうっすらとした茜色がそこかしこに焼け付いている。

 彼が立ち去った林に再び絶対の静寂が訪れる。よくよく見れば林には何処にも実を宿す前段階としての花が無い、散り落ちた花(びら)すらも無い。(つぼみ)と葉、落ち葉、枝と幹、そして赤々とかつ白妙(しろたえ)に実る数々の実が有るのみ。花は今この時を生き抜こうと輝くカイナ・クイナそれ自体とでも言わんばかりだ。それでは鳥使徒の彼は花にとっての蜜蜂と言うべきだろうか、それともタンポポの綿毛を揺らす風に例えるべきだろうか。今代カイナ・クイナの結実を迎えるその時まで、その明確な回答は得られないのかも知れない。ただ彼に言えるのは、彼女の寝顔は花に値する和らぎを可憐さを兼ね備えていたという事だ。

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