はな4「意志決定機関」
泣くと言う消費行動の為に亜神の彼女は眠ってしまっていたのだがこの夢そのものである世界での眠りでは基本的に大変な浪費が発生する、寝る時にこの夢世界を支えるエネルギー源だと言わんばかりに空腹が加速しカロリーを根こそぎ持って行かれる。起きるイコール心地良い寝覚めとは言い難い苦痛が伴うケースが大半である、ある種邪魔されずこの世界での十分量を取った場合の証左とも言えるが基本そう言った展開が待っている。
彼女も苦痛の予兆で一回半分だけ起きた。その時目の前に使徒の置いて行った羽根が二、三枚有ったのでそれを確認すると彼女はそれを握り締め再び安眠とは程遠い筈の悪夢交じりの世界へ落ちて行った。このお守り代わりの羽根は鳥使徒の機転によるファインプレーであったと言える。ここで彼女が周りに誰も、安心出来るアイテムも何も無い状況に陥ってる事に恐怖を覚え世界を彷徨い歩いてしまったら再び会うまでの道のりが永く険しい物となって居た可能性が有る。カイナ獏の試練は常に牙を剥いていて次の亜神を取り込む用意、どう追い詰めようかと言う支度を欠かさずに居る。彼女のまだあどけなさの見える安らかな寝顔はそれを幾分かだけでも乗り越えた証としてそこに確かに在った。赤子がお腹空いたとばかり彼女が元気な声を上げるまでの安寧の時間、それはまだ彼女の使徒が見つけた川の流れの様にゆったりと経過する事をこの狂気世界にて一応の約束事として取り付けていたのだった。
整合性の無さは現実と夢の物理法則混濁が担保するとして、その他方の後付け描画と言う概念の根幹はここ、鳥使徒の辿り着いた川向うにあった。彼女に与える為の食事が屍で構成されている、緑掛かった死の一線の入った目の鳥はそれを直感的に理解する事となった。初回位はのんびり目の前にたわわに実る赤と白とその間のカラーリングのグラデーションからなる斑模様の木の実を持って帰って平和に過ごす未来が有ったのかも知れないが彼が興味本位で川に降り立ち補水欲求を満たした事でそれも消失した。要は前に並び立つ者の無い初代のカイナ・クイナはただ死んで餌と化す為に生まれたのだと言う事実がまず厳然と在り、そしてそこから派生するやはり死ぬ以外に何も出来なかったその兄弟姉妹としてのカイナ・クイナ達もまた幾重にも幾百幾千にも歴史の上に連なった。そんな不本意な死を遂げた彼らの墓場と呼ぶにはのほほんとし過ぎている緑の葉と果実の生い茂るこの林の様な一帯は多分、森を目指しているのだ、枯れ木が有る事から全てがこの林サイド有利と言う訳でも無さそうだが、少なくともこれがカイナ・クイナvsカイナ獏の現時点までの結果の一部としての一目瞭然たる光景ではありそうだった。
下手すれば5秒に一回死ぬ繰り返しの世界で何かを使役してその死体の片付けをさせるなどしていたら純然たる「繰り返し」が成立しようがない、カイナ・クイナの死はここにどうやってか自動的に瞬時に集約されている。それはそうである筈の世界と言うより微睡世界カイナがそうであって欲しいと言う状態の世界への後付けでの描画が成されているに等しい。肉体と言う軛の無い者をすら神と呼んでいいとするなら、カイナ・クイナを超える上位意志決定者は確実に居る。それは誰かが作り上げた構築された流れを実践し続けているだけだとしてもだ、その誰かの用意した機械的な反復的な意志決定機関は現に働きを呼び掛け続けている。




