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Gronwidz Girl  作者: 白先綾
最終「界泣」

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8なし5「君が好き」

 複雑怪奇なW軌道の半円描きが有った後、クイナは川の反対側に見事着地した。滝の小さなさざめきが少数オーディエンスの拍手かの様に静かに響いている。

「の、ジャンプ!」

 と叫んだ後クイナは一目散にクリネの方に走って行き一度抱き枕にした時より激しく、痛覚に作用するレベルで彼を抱き締めた。大量の脂汗を掻いている、むしろ高度飛翔の最初のトライアルの時よりも酷い。事の最中は落ち着いていた様に見えてそれだけ彼女なりに消耗したと言う事だ。

「ハアハア……一世一代の見せ場での絶唱(シャウト)、あれが”き”の答えだよ……次はクリネの番だからね。とりあえず”……’いい’”女にはなったよね、クリネの沈黙部分に期待しているよ……ハアハア」

 飽くまでストレートにはやらなかった事が彼女らしい、それでもクリネとしても文句の付け所も無い。……いい、に関しクリネにはクリネなりのやり方を考えてはあった。だが今のクイナの美しい高度飛翔に比肩する自分の大一番はまだ来ていないと感じていたので急いで動く事は無いと判断していた。勿論命を落としては元も子も無いのだが、まだやれる、と言う意味でも自身の試練へ向かう動機の火付け役として沈黙部分にはまだ謎めいていて貰う事にしよう。<マカせておいてくれいいオンナ『人類代表』>よしよしと抱き締め返すには小さな翼で彼女を撫で続けながらそうクリネは思いを新たにしつつ返事をした。


「あはは、葉っぱだけで花が無い。なんだか不思議な果樹園だね、果実の為だけに有るみたい。時間が止まっていると言うか…下が嚙み切れない堅い皮なのは落下時のショック軽減に特化か、割と重量有る実だからなあ。一個お手玉の時にガードの強い部分が下に来る様意識するのは暗かったから無理だったけど」

 すっかり落ち着きを取り戻したクイナと共に川向こうに鎮座していた果樹園に辿り着く。果実の数は決して少なくは無い、逆に崖に程近いここにしかもはや果樹園自体が無いのかも知れない。最後、をひしひしと感じさせる光景にクリネは目が覚める思いだ。何が危険なのか、は正直今以って分かる話では無い。元々翠の声は核心に触れる様な事は言わずヒント段階に留まる答えをよこす事が多いがそれが朧気で遠い今となってはよりその傾向が顕著だ。

 警戒はしていた、だが14歳世界同様に事を成したイコール果実を一つ落とした今となってはクリネにはその覚悟が足りていたのか分からない。クイナの言う祝福は実際そうなのかも知れない、恐らく重力や音遮断は平常時比較すれば柔和なバランスに留まっている。だが「体」と並ぶ「技」のそれとしての負の存在感に当たる要素はこの15歳世界でやっと姿を現した。凝縮された怨嗟がこの果実に詰まっている、心無しか模様に白妙より赤黒さが増している様に見えるこの果実に。クリネは怨嗟の檻に閉じ込められるまでの死の宣告に囚われた。果実を落とした事で発生したのは平たく言えば死の瞬間の怨嗟だ、マンドラゴラと言う幻想の植物が有るがそれが抜かれた瞬間抜いた生命を死に至らしめると言う悲鳴に性質が近いと言えそうな趣がそこにはあった。私達だけでは無い、お前も連れて行く。かつては二人同様何かの高みを志していたかも知れない先達(せんだつ)の名残としての「技」である15歳世界の果実は、何の罪かただただ存在し続けると言う長き月日の間にその味わいと言う部分以前に腐敗し切っていたのだった。

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