6のがたり「二人の片翼」
カイナ・クイナは常に供給され続ける。5秒で死のうが一分で死のうが一時間で死のうが容赦なく現実世界でもその間隔で男女認識の誤りの元生まれた子供が転生者として選出され微睡世界カイナに送り込まれる。
この世界はそもそも危険だ、なんせなんとなく夢の世界然としていて空を飛べてしまう。ただ不意に風が止む、と言った気まぐれさで現実世界の物理法則がふらっと顔を出すので例えば2m浮上したら既に命が危うい。5秒の例は決して比喩ではない、実際カイナに到着して自殺の意図無く遊び心や慣れない体への不適応から浮遊してそこからの即時死刑執行を食らったカイナ・クイナも数人ではない勢いで居る。
今代カイナ・クイナが今も細々と命を繋いでいるのには運も有った。使徒が鳥だったのだが彼女はこの地に発現後その愛くるしい存在が空に飛ぼうとした時、同様に追いかけて5m位浮上した。だが使徒は賢かったので人間が突如浮いたと言う不穏さしかない光景を捉えた時に彼女を止めようと舞い戻り<トばないで>を脳に直接伝達した。彼女は驚き2m位に下がった所で重力が彼女を殺しにやって来て落下し足が折れた。それでもこの世界が夢世界然としている部分は乱れた重力現出法の他にも有り絶命に至らなければ勝手に体は修復されるし美しい彼女の巫女服の血も直ぐに乾いた、乾く様な質の液体では血は勿論決してないのだがカイナと言う獏はそれを貪欲に啜り上げた。そして彼女がショックでしゃがみ込み啜り泣いている間この鳥使徒はずっと寄り添って<イタいのイタいのトんでいけ>を伝達し続けた、肉体の痛みらしい痛みはかなり感覚麻痺に近くなっていて親の夢見麻薬が吹き飛ばしてしまうのだが心の衝撃はそうはいかない、この場合の痛みとは大部分心の痛みの事だ。そこで行くとエコー前の時代のカイナ・クイナは割とメンタルの強さと言う意味合い込みでの心の機微も弱かったのだが、この極限世界で人間に近いのは果たしてどちらなのか、死者と言うゴールから抜け出たサンプルがまだ居ない以上そこにまだ答えは出ていない。ただ希望の忌み子と言うふわっとした解ならぬ解が微睡世界と言う落とし穴に落下した彼女を遥か上空で俯瞰しているに過ぎない。
声質で異性かどうかが判別可能なのと同様、脳への直接伝達が発生すると言う特殊状況でも鳥使徒が男性なのが彼女には分かった。カイナ・クイナ化人の生前仲良かった生涯の友と言うのは14歳と言う微妙な年齢からカップル成立の方のケースがある。使徒は基本動物転生で転生の具合を消費し尽している物なので性別までは変わらない、だから今代の二者と違い同性同士だったりそれプラスアルファの異性や同性と言うケースに収まるのだがそれが好転するのかどうかはそれぞれである。但し繰り返すようだが好転要素が有るにせよカイナ下での延命程度の成果しか今のところは目に見えた効果は確認されていない。
泣き疲れて彼女が眠るまで、鳥使徒は寄り添っていた。次にすべき事が彼には分かっていたので眠り顔に安堵すると彼は一旦離れた。彼女がもし起きていたら驚いたであろう程に、遠く、力強く、性別と言う片翼を違えた天使の為に人間と言う片翼をどこかに落とした筈の鳥は飛んで行った。




