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Gronwidz Girl  作者: 白先綾
最終「界泣」

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はな4「置いて行かないで」

 クイナは恐る恐る片足を橋の上に乗っけてみたがそれが橋に溶け込むかの様に消えてしまった時、思わず恐ろしさの余り後退しようとした。しかしその片足である右足は決して消えた訳ではなく有機物の橋に取り込まれてしまっただけなので後退は出来なかった。そしてその現象は重力発現と同期していた。クリネは確かに聞いた、<オいてイかないで>と言う橋の魂の声を。これだ、今まで我々を苦しめていた重力遮断の根源は。色々とその非日常性を楽しませて貰った部分は有るにしろ血生臭い思い出と共にも有るその現象は、この世界の胃腸とも言うべき構造物によって思うが(まま)に演出されている様だ。そして続く音遮断、この時は<オいてイかないで>と言うフレーズが響かない。つまり発語している彼ら自身聞きたく無い怨嗟の声だと言う事だ。彼らは一体の生命体ではない、が結び付けられている「体」相当の存在である。それが脳と呼べるかは不明だが意識、魂は分離しているのに「体」が切り離される事の無いストレスフルな状況が彼らを支配していて、かつそれが永遠に続く物だからもううんざりだとばかりに、重力遮断と言う置いて行かないで構ってくれと言う欲求と、音遮断と言うそんな他者の都合など知るか聞きたくないと言う欲求の(せめ)ぎ合いの中に閉じ込められた永久機関がこの橋の概要だ、とクリネは伽藍洞の心に響く亡霊が唱える声の助けを借りて結論付けた、つまりここまで到達した亡きカイナ・クイナも少数ながら居たと言う事だ。

 心配になってクリネはクイナの方に目をやったが、先程の度重なる失敗で一旦()り減った心の事が有るので大分弱気な顔をしている。この橋をどうにか踏み越えなくてはならないのか、と途方に暮れている様にも見える。<オいてイかないで>が聞こえていない筈の彼女からすれば全く事情が分からないだろう、だからと言ってクリネが考え付いた様な世界の狂気をそのまま明け渡す訳にも行かない。クリネは思案後、彼女に向けこう言う内容の事を伝えた。(クイナ、成長痛の事を覚えている? この世界を歩く事で君は一歩ずつ大人に近付いている、時の存在の仕方がきっとここは変わっているから。この試練も成長痛の一つだ、どうにか踏み越えて欲しい)そして言うだけじゃなく自身もやってみせねば、と言う事でクリネはクイナが捕まっている部位よりちょっと先の橋に乗っかる。だがクリネの場合の方が深刻だった。伽藍洞の心に吹き荒れる亡霊の声はもはや暴風レベルになる様だった、むしろこの世界との親和性が高いクリネの方が試練と言う意味ではその色合いが濃かったのだ。(置いて行かないで、置いて行くな、置いて行くんじゃない、置いて行くなど有り得ない)クリネはあまりの強烈さに嘴から涎を飛ばしてしまった、泣いた時クリネは同じく緑ではない透明な液体を目から流しているがそれに匹敵する位ショッキングな出来事だった。だがクリネは今回泣かなかった、涙は恐らくクイナに伝播する、その事態だけは避けなければならない。たとえ自分のこの橋の上での苦しみがクイナの感じるそれより大きな物だったとしてもそれに対峙し凌駕して見せねば彼女にも自分の覚悟が、熱意が伝わらないし、こちらの思う様に動いて試練を乗り越えようとはしてくれないだろう。

 クリネはふと左頬に温かな物を感じた。いつの間にか右足の呪縛を逃れたクイナがしゃがみ込んでクリネを撫でてくれている、左足を今度は捕らえられたまま。ああ、彼女は強いな、と思う、世界の構造を自分の呪いの声による解説の様にちゃんと把握する事が出来なくても、それを相棒から伝えて貰う手段がなくともこうして相手に思いやりを抱いて前に進もうとしている。自分の場合は今両足が捕らえられている。きっと羽ばたくのに疲れてここに舞い戻る時毎度この地獄が待っているのだろうが、彼女と歩調を合わせ絶対に乗り越えてみせるとその温かさに包まれながら彼は思った。

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