は7し「浮き立つ風船の心」
昼と夜の変幻を知らない黄昏の空模様が時間法則に拠らず気まま過ぎるので飽くまで体感でだが、現世での一週間程で空腹を連れて来る所の睡魔が限界まで来る。エネルギー喪失を加速させる流血のマイナス要素が無ければこれがいわゆる現世の忙しない一週間サイクルと言う言葉に置き換えられるだろうか。そのサイクルの終わるちょっと前にクリネが実を取りに行く。だが今回は青に沈んだ薄明とそのタイミングが初めて重なった機会で、クリネは下方で無数の蛍が発光しているかの様な川の天の川が如くの壮観さに圧倒された。川向こうの林は下流を辿っても何処までも点々と存在していたのだが、その林に成って居る果実の規模自体は辿り着いたカイナ・クイナの数を表しているのか段々と寂しくなっていた。そんな中二つの実と共に帰りその天上の光景についてを伝えるとやはりと言った感じで睡魔も予断を許さない筈のクイナはそれでも食い付いて来た。
「ねぇ、ひょっとするとクイナが危険過ぎない距離からその天の川を眺められるんじゃないかな? ちょっと近くに行ってみない?」
庭木で言う何度目かの左頬、右頬の緑の一線の剪定作業を経ていて心がやさぐれて来ていたクリネもそれに同意した。死ぬ前にこの世に二つと成し得ない絆の友との忘れ難い大切な時間を育むのも悪くない、それにいい夢を見るのはむしろ覚醒時のみの特権だ、と。果実を共に携えて川の見える範囲に行こうとする二人はまるでピクニックに向かうかの様に足取りが軽かった。
まずクリネが上空へ向かい、川の近くで丘になっている地形を探す事にした。少しでも近付かないで見られるに越した事は無いし景色もまた格別だろうと言う発想からだった。それを眺めながら一個しか無い果実でお手玉をするクイナ。重力が落下させるまで延々と風船の様に浮き上がるので一個しか無くても芸当としては力加減が難しかった。しかも果実のキャッチに失敗すれば地面に激突してしまい食事の機会を喪失するとあってクイナはクリネを気にして見ている分の集中力はそれ程割けなかった。それを何度か繰り返した後気付けばクリネは傍に降り立って来ていてそして羽根の先で丘の位置であろう方角を指し示している。満を持して二人の天の川観覧ツアーが始まった。
「割と空明るいとは言えないのによく丘の位置が分かったね? 天の川の光が助けになったの?」
とクイナは素朴な疑問をぶつける。<いや、こんなコトもあろうかとカエりにミツクロっておいたのをサイカクニンしただけだからね>と冗談めかして言うクリネ。つまりクイナのロマンティックな物に対する欲深さは見透かされていたと言う事だ。
「あっそう…また可愛いの道から遠のいたのかも知れないなぁ」
うーんと唸りながら風船果実を抱き締め50cm位の小浮上を繰り返して進むクイナを尻目にクリネは眠り姫の就寝前のいい夢を演出するべくエスコートを開始した。




