ス2ーリー「質疑応答と朱の空」
「ねぇねぇなんて言おうとしたんですかー? 黙秘権発動? カイナクイナとクリネの仲ってそんなもんだったのかなぁー?」
クリネの心は今左頬の毛先並に乱れていた。<そのカわりジョウケンがある。『一人称』にクイナをツカってホしい>と言う提案をした。その後が問題で何故と聞いて来たカイナ・クイナ少女に対し<そのホウが……いい>と答えてしまったのだ。クリネは軽々しく沈黙部分は音遮断が有ったと嘘を付こうとしていたのだがこの世界は脳伝達能力持ちの使徒側には優しく出来て居なかった、沈黙部分であっけらかんとした陽気な伴奏を嘘を付いていると言う滑稽な自分の状況演出で彼女の方に無意識に流してしまっていたのだ。つまり、表現上の何かを隠しましたと言っている様な物でそれを彼女は目敏く追及し始めたと言う事だ。クリネは脂汗をかきながら左頬の毛先をニヤニヤしている少女に指先で弄られている。今彼の顔左半分は穏やかな顔と言うよりは右半分に引けを取らないワイルドな風貌に成り下がろうとしている。
「カッコいい? 女の子に向かってそう言う種類の要求をしました?」
否、意義有りと言う事で先程の鳴くか脳内ハミングバードをするかの選択肢通り鳴いて応じる。
「じゃあ都合がいい? そう言う女の子を手玉に取って遊ぶ様な価値観はお母さん好きじゃないなー」
いや手玉に取ってるのはそっちの方だし大体女の子連呼し過ぎだろ元男の子と思ったがそれを脳伝達したら鶏ばりに首をキュッとやられて鳥としての人生が閉じ兼ねないのでそこはグッとこらえて無考えに伴奏の続きを流した。
「ん? 肯定しました?」
意義有りで答える。
「じゃあ何なの? か、可愛いでいいのやっぱり?」
少女は赤面して尋ねた。やっぱり本命はそこか…と考えるがクリネも一度はっきり言うのを躊躇ったワードである、そう簡単には渡したくない。クイナの字形、それは決してそれだけ取ってみれば悪い物ではない。無19、逆さから取れば何も無き所から入口を見つけそして無事出口に導かれる、と言うそれだけの事だ。ただカイナが前に居ると違う、そう言う意味込みでカイナクイナ連呼は禍々しさが過ぎる。赤子が生まれ現世を14歳と言う出口まで生きそしてようこそ地獄の竈に煮込まれる世界へ、と言う事になってしまう。だがそうだとしてもナ側から見れば少しは希望の見える字形で、反逆の表れとして無駄の無い構成の並びとは言えるが。
結論として実際の所可愛さ半分カッコよさ半分と言った所であった。<うん、ヒビきが>と彼は中途半端な返しに落ち着けた。
「うーん響きが、かぁ…なんか腑に落ちないけど可愛らしい神主として…。でもさっきの可愛らしいはやっぱりおなかの虫の事、かな? クイナよ求めよ、さらば与えられん、かなぁ。可愛いは男の子な女の子の試練の道だねぇ…」
やれやれと言った感じで肩をすくめて彼の2m程の脳伝達半径から離れていくクイナ。なんだかんだ乗ってくれる辺りやはり優しい相方は可愛さ演出の為か気まぐれに女性ボーカルの歌をハミングし始めたがあまり前世で歌い込んで居なかったので音痴だった。顛末はどうあれ彼は彼女の連呼する呪いの名からカイナを退けた。名付けのハーモニーは、亜神から鳥使徒の元へと渡りそして別楽章へと辿り着いたのだろう。黄昏の空も癒し手の朱にいつもよりは染まっている様に彼には心無しか思えたのだった。




