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第二回/全三回

挿絵(By みてみん)

3回に分けて投稿します。


1章_聖霊樹の花畑 (老年期)

2章_放蕩の孤城  (中年期)

3章_魔王城    (壮年期)

-----

4章_時空の裂け目 (青年期)←■今ココ

5章_出逢いの酒場 (少年期)

6章_国王の城   (幼年期)

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7章_始まりの地  (乳児期)

8章_現実     (老年期)

終章_再び聖霊樹  (老年期)

■4章_時空の裂け目(青年期)


挿絵(By みてみん)


魔王の城を後にする頃、壮年期の男だった体は若返り青年になっていた。

そして次なるコンパスの示す方向へと歩を進めていると雷鳴が鳴り響いた。

晴れているのに前触れもなく唐突にだ。

(いかづち)は目前に落ち幸いにも青年に直撃することはなかった。

尻餅をついてたまげていると焦げて煙っている落雷地点の空間が歪んだ。


にゅわんっ…ばきばきっ…ががーーっ!


落雷の時のような眩い閃光に続いて空間が裂けモヤモヤする空間が覗き見えた。

何だか判らないが、正直言って怖い。

今回の旅は怪物もなく敵意を向けられることもなく平和を満喫しながら進んできた。

ピンチと言えるような状況はお花畑で泥団子を食べさせられそうになった時ぐらいだ。


一応剣とか持ってるし構えた方がいいのか?


空間から何か飛び出して来た。

青年は昔取った杵柄のおかげか鋭く体が反応しこれに斬りかかった。


それは手のひらサイズの妖精だった。

「…ぶねぇっ!何しやんがんだい、こんちきしょーっ」

勇者の剣をギリギリかわした妖精は鱗粉を撒き散らせながら叫んだ。



妖精は悪者ではなかった。

また咄嗟のことで柄悪い言葉が出たが本来そんな人格ではないそうだ。

妖精は言った。

「驚かせてごめんなさい。時間があればもっと感じいい出会い方もできたはずですが…」


話によると、この空間のモヤモヤはワープポータルというらしい。

噛み砕いて言うと「時空の裂け目」だそうで別の空間、別の時間への扉だそうだ。

噛み砕かれても、ちんぷんかんぷんだ。


妖精は矢継ぎ早に聞きなれない言葉を繰り出してくる。

「言うなればチート行為です。事情を端的に説明すると容体急変です。ICUです」

チートって何だ?急変ってどういうことだ?アイ…何だって?

???が頭を渦巻き体が動かない。


「あーん、もうっ」

妖精はあたふた…いや、イライラしている。

「事情も知らせず強引に連れ去るシーンを観てて、ああはなるまいといつも思ってました」

青年の手を掴んだ妖精は、その小さな体からは想像もつかない力で裂け目に引っ張り込んだ。

「でも…ごめんなさいっ」


にゅわんっ


時空の裂け目が音を立てて閉じた。



手のひらサイズの妖精は青年と手を繋ぎながら羽ばたき、すごいスピードで飛翔している。

走馬灯…冒険譚の色んな場面がモヤモヤ空間に次々と映し出されては流れていく。


勇者が剣を掲げると虹が現れ、天空の城が現れる場面。

挿絵(By みてみん)



死者の集会に参加して焚火を囲んで語り合う場面。

挿絵(By みてみん)



翼竜の背中で戦う勇者を仲間達が心配そうに見守る場面。

挿絵(By みてみん)


「これらは本来じっくりと旅して廻って冒険の証言者から聴くべきエピソードなんですけどね」

映し出される場面を横目に妖精は言う。

「あなたの旅は省略されました。想定外の容体急変により筋書きを端折(はしょ)る必要性が生じました」

目の前で羽ばたく妖精からの鱗粉が青年に降りかかる。

「起承転結で言う ”承” のエピソードがまるまま省略されます」



青年の体に異変があり、若くなり背丈もだいぶ縮んだ。

「さあ、もうすぐです。冒険譚の ”起” に到着しますよ。残りの旅路はわずかです。急いで」

妖精は繋いでいない方の手を振りかざし(いかづち)を放った。


にゅわんっ…ばきばきっ…ががーーっ!


(いかづち)が作った裂け目に少年を投げ入れる。

「そして時間ないですけど、最後の選択肢はしっかり考えるのですよーーーっ」

時空の狭間に吸い込まれる青年。

「あっ、神様にっ。神様に会ったら私の活躍ぶりを…何卒なにとぞお伝えください~~~」


しゅぽんっっ



■5章_出逢いの酒場(少年期)


挿絵(By みてみん)


少年は夢を見た。

真っ暗な空間にこれまでの登場人物が浮かんでは消える。


「あれぇ?そうじゃないでしょ。真似じゃダメでしょ。ちゃんと食べて」

「あなた様は紛れもなく英雄。でも使命を全うし寂しそうでした」

「再び必要とされて復活…なんて展開を期待してなかったと言えば嘘になりますね」

「平和な世に…そしてあんた…いや、勇者様に感謝すべきさね」

(ほの)めかしておいてすっぽかすのはこの上なく格好悪い」


急に視界がぐらぐら揺れ始めた。けたたましくて不安感を煽る音が鳴り響く。

「ピーピーピー。バイタル低下。血圧40」


たしかにエンドロール後にクリフハンガー観せといて続編なしは格好悪い…

「ピピピピピピッ。バイタル停止っ」


でも、発売告知後の制作中止発表のが無様ブザマだよね。

「AED起動、離れて!…ガッ。………もう一度!…ガッ。………ピ…ピ…ピ…」


何とかこの旅を…突然の強制中止じゃなく…自分の意思で終わらせてあげたい。

「…バイタル戻った。ふぅ、一旦は切り抜けたか。でも………」



少年は賑やかな音楽や歓談の声で目を覚ました。

「ぼうず、気つけに一杯どうだい?」

活気溢れるその場所は酒場のようだった。


「ぼうず呼ばわりは失礼か」

男が差し出した木杯の中身は酒ではなかった。木苺のジュースだ。

「でもあの鼻っ垂れぼうずが世界を救ったなんて未だ信じられやしない」

親しみをにじませた憎まれ口の後、男はニカーっと歯を見せて笑った。


どうやらこの男は自分のことを知っているようだ。

こちらがきょとんとしていると男は笑顔一転、しょんぼりして言った。

「やっぱオレのこと分かんないか。聖霊樹のお嬢さんの言ったことは本当なんだな」

定番のやり取りだ。お花畑の女の子はとても顔が広いらしい。


「にしても到着早すぎないか。聞いてた予定だと…ん?そう言うことか」

男が何かに気づいたようだ。こっちは何のことだか分からない。

「なるほどねー。時間無いか」


意味が分からず困っていると男が言った。

「あれ」

男が指差した酒場の天井には穴が空いていた。

「入り口から入って来ずに天井からとは驚いたが、不可抗力だったってことか」


到着が早かった件と天井の穴の因果関係、何となく自分でも分かってきた。

「その穴こしらえて食卓の酒と肴をぶちまけちまって、そんで気を失ったんだ、ぼうずは」

やはりそうか。

「あのせっかちないかづち聖霊の仕業だな。奴にぶん投げられた。だろ?」

そうだ、思い出した。

「入るときゃいいが、出るときゃデタラメなんだよ奴は」



男は酒場の経営者にしてギルドマスター。

ギルドでは冒険者への任務の斡旋の他、お役立ち情報や戦いのコツなんかも教えてくれる。

まだ少年だった自分がさんざんお世話になったそうだ。

ちなみに木苺のジュースが好物だったらしい。

まあ全部この男からの伝聞で自分は覚えてないのだけれど。


「いやー、懐かしいなぁ!」

ギルドマスターはバンバンと気安く肩を叩いてくる。

「あのぼうずが世界を救った勇者様とはねぇ。しみじみするなぁ………」

マスターは何気に宙を見上げ、ふと視界に入った天井の穴を見やりながら言った。

「そう言えば、いいっけ?こんなにゆっくりしてて…」


そう言えば時間が無いんだった。

わりとじっくり丁寧にギルドマスターの思い出話につき合ってしまった。

「裂け目通ってすっ飛んできたってことは切羽つまってたんじゃねえのか?ぼうず」

急がなきゃのはずが気絶して半日ほど、思い出話で小一時間ほど無駄にしてしまったようだ。


マスターから散々ぼうずと子供扱いされたからだろうか、少年はさらに若返った気がした。



■6章_国王の城(幼年期)


挿絵(By みてみん)


出逢いの酒場を出た少年の体は幼児の体となった。

肉体的には3~4歳といったところか。

若返ると言ってもここまで若いとちょっと不安というか不便になってきた感じがする。

勇者の服は魔法が宿っているのか、この体に合わせてあつらえ直したようにピッタリだ。

それでも剣や防具は重すぎるので捨てた。


無駄にした時間を取り戻すため全力疾走でコンパスが示す方角へと進む。

…が、こけた。

軽い体に比べ頭が重すぎる。重心が安定しないこの体で全力疾走は危険だ。


うんしょ…うんしょ…

何でこんなことしてるんだっけ?


思い出せない。体だけではなく頭脳も幼児同等になってしまったようだ。

思考と感情と本能がごっちゃになる。


いしょげ!


何でそう思う?何でかは分からない。不安感が募るから?危機を察知したから?


いしょげ!


こけない程度の()()疾走の末、とても立派な城にたどり着いた。


城門を護る兵士が幼児の姿を見つけると大声で城の方を向いて叫んだ。

「到着~。勇者様が到着されました~。城門、開け~」


門をくぐる時、段差につまずいて、またこけた。

「勇者様、ご無事ですか?国王陛下がお待ちです。さあ、謁見の間へお進みくださいっ」

抱き起こされて背中を押してくれた。



とっても大きな扉が開き部屋に入ると両脇にずらっとおじちゃん達が並んでいた。

その奥には立派な椅子に座る立派な白髭を生やしたおじいちゃんがいた。


「おおっ。何もかも聞いておるぞ。一刻を争う容体…いや、事態だそうじゃな」

ボクを見るなりそのおじいちゃんが駆け寄ってきて言った。


「積もる話も…ちょっとした相談事もあったのじゃが…」

近くで見るとますます立派なお髭だ。引っ張ってみたい。


「ここはもうよい。さあ次。次へ急ぐのじゃ。!! おっとっ!」

かわされた。お髭にぶら下がりたかったのに。。


「それっ勇者殿を入り口までお連れするのじゃ。丁重にな…」

並んでたおじちゃんの一人がボクを優しく抱き上げ小走りして部屋を出た。


「魔王討伐ご苦労であった。世界を救ってくれて本当にありがとう。貴殿に幸運を…」

背後から髭のおじいちゃんの声がする。

ボクを抱きかかえたおじちゃんの頑丈な腕に守られ、ボクはさらに若返った気がした。


(第三回/最終回につづく)

第三回/最終回は明日投稿予定ですー

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