教育
「異母兄様、先に王都に向かいます。お父様とお母様にお手紙をお渡しすれば宜しいのですね?」
と、メアリー様がミカエル様に問う。
「メアリー、気を付けてお帰り。ルクールには、ニックからの業務報告が届くはずだから、異母上に叱られるのは覚悟するしかないね。
まぁメアリーだけじゃないが」
と、異母妹弟達を見てミカエル様が答える。
「分かっております。あれ程お祖父様に叱られたことなんて有りませんもの。
私の軽率な行動で、異母兄様にもご迷惑をお掛けいたしました。で、アイはどうしたのですか? まだ、許してもらえないのでしょうか?」
と、メアリー様が辺りを見回す。
「姉上、アイは体調を崩して寝込んでいるそうですよ」
「僕も挨拶しに、部屋に行ったらノアに止められました」
と、ダニー様とケビン様がそれぞれに言う。
「大丈夫なんですか? 王都に来てからもその様な調子で」
と、メアリー様が正直な感想を言う。
「いや、大丈夫じゃないよ。メアリー、ダニー、ケビンだからアイの事はなるべく気に掛けて欲しいと言っているだろ?
本当に身体が弱いんだ。ほっておくと無理をしかねない。このダーニーズウッド家みたいに周りを固めて守ってやれないからな」
と、ミカエル様が言うと、
「アカデミーでは、僕も側にいるようにするよ。同じ教育科に進むのなら」
と、ダニー様が言う。
「ダニー兄上、狡いです。僕もアイを守りますよ。騎士科から教育科に変更します」
と、ケビン様が言う。
「ケビン、今さら無理なことを言ってないで、アカデミーでは、私とダニーとで気にかけるようにするしかないのよ。ケビンは他の事で気を付けてあげるべきでしょう。
悪いけど騎士科の生徒達が教育科に乗り込んで来ないように、ケビンが押さえるのね。ルカだけに負担が掛かりそうだもの」
と、メアリー様が腕を組んでケビンを否める。
「うむぅっ! 確かに、でもそれじゃ年上の先輩達はどうしようか」
と、ケビン様もあることに気が付いた。
「そうそう、ケビンの立場以上の騎士がいないだろう。辺境伯子息で騎士科には?」
と、ミカエル様が言えば、
「異母兄上はご存知ないでしょうが、四大側近の子息達はいませんが、同じ辺境伯子息なら居ますよ。同学年も年上も」
と、ケビン様が憮然として答える。
ミカエル様と、ニックや侍従や侍女達に見送られながらメアリー様達は王都に向かって行った。
見送った中には、アギルとナリスの姿があったが、これからナリスの家とアギルの家と挨拶に向かう。
ナリスの実家に挨拶しに行けば、両親と義弟妹夫婦にも会わせてもらい、ナリスの結婚に大いに喜ばれた。実の弟と妹は優秀な姉が嫁ぐことを拒否していた事を心配していたし、両親は事情を知った上で認めてくれた。
元々ナリスは侍女をする予定ではなくて、弟が後を継ぐまでの、繋ぎで家業を手伝っていた。そこへ領主様のお館に侍女依頼が父親の所に来たが、下手な人を紹介するわけにいかずナリスが担う形になったのだ。
その頃に領主様の後ろ楯を目的に、ナリスの結婚話が来ていたが、父親がナリスに取次せずに黙していた。ナリスが仕事に慣れ結婚話も落ち着いてきたときに、シアン国王陛下の暗殺事件に捲き込まれた。
失意のナリスが実家や家族とも距離をとり、お館の侍女に専念しすぎて10年がたった。弟が家業を継ぎ、それぞれ伴侶を選びナリスの結婚を諦めかけた家族に、今回の喜びの報告が来た。
「母ちゃん、俺の嫁さんを紹介しに来たよ」
と、アギルが実家に顔を出す。家の扉の奥から
「今、何て言った?」
と、母親のネネと、義妹になるモカが顔を出す。アギルがナリスを二人の前に出して、
「俺の嫁さんのナリスだ」
「あの、ナリスです。宜しくお願いします」
と、アギルとナリスが二人に挨拶をする。
「ちょっと、アギル凄いじゃない。ナリスさんってカーマン家のナリスさ」バッシッ!!
「お帰りアギル。そしてお帰りナリス。私の娘が増えて嬉しいわ」
と、ネネがモカの背中を勢いよく叩いて、返事をする。
「モカ。あんたの義姉さんになるんだよ。挨拶が先だろう。言葉使いソルトに言いつけるよ」
と、母親のネネがモカをたしなめる。
「あっ! ごめんなさい。モカです」
と、少し大きくなったお腹に手を当てて挨拶をする。
「アギルの母親のネネだよ。アギルの弟ソルトの嫁さんモカだけど。良い年をしてまだ教育途中でごめんね。アギル、外に父さんとソルトがいるはずだよ」
と、アギルを使う。
「仕事中なら後でもいいけど」
「いいえ、呼んできな。ゆっくりで良いから、お昼までに」
と、ネネがアギルを外に出す。
「あの、挨拶をしたら失礼しますが」
と、ナリスが言うと、
「急ぎかい? なら先にモカ!」
「お義母さん!あ、あの……ナリス義姉さん! ごめんなさい!」
と、ネネに急かされて急に謝ってくる。
「あの~、なんの事でしょうか?」
「アギル……アギル義兄さんとナリスさんをうちの家族、私と兄が捲き込んでしまって、ごめんなさい」
と、モカが再度謝る。
「ナリスは馬鹿息子から聞いてないのかい?」
「…………もしかして」
「言ってないんだね。身内になるからどっちに気を使ったかは分からないけど、こっちが加害者。こっちが被害者の関係だけど、出来れば仲良くしてやっておくれ」
と、ネネが簡単に説明する。
「馬鹿な娘だけど私の娘になったんだ。二人とも良く私の息子を選んでくれたね」
と、ネネは笑顔で答える。
「馬鹿な娘って?」
「あんたしかいないだろう? モカ、自覚がないのかい」
と、ネネがモカに言う。
「父ちゃん! ソルト! あれ! 兄ちゃん!」
と、家業の飼育用の柵を直している、父親のムルカと、兄ダット、弟ソルトにアギルが声をかける。
「お帰り! アギル兄」
と、ソルトが声をかけてくる。
「挨拶に家に顔を出してきた」
「そうか、良く帰ってきたな。母さんから聞いていた。うちにも寄るか?」
と、兄も聞いてくる。
「あぁ、義姉さんにも甥っ子に会いたいしな」
と、アギルが言う。母さんから聞いといて良かったよ。驚かないで済むし、要らないことを言わなくてもいい。
「それで、母さんは?」
と、父が聞いてくる。
「外に父ちゃんとソルトがいるから呼んでこいと。ゆっくりでいいからって、俺だけ外に出された」
「アギルだけ?」
と、兄が聞いてくる。
「あぁ、嫁さんを家に置いてきた。母さんが話が有りそうだったから」
「それ母さんが、じゃないよ」
と、ソルトが言う。
「それじゃ、あの娘か」
と、父が言う。
「10年掛かったけど、謝罪と説明はして、許してもらえた。さっきは向こうにも挨拶をしに行っていたし、俺と一緒になってくれる」
「そうか」
と、父が言う。
「アギルのことは、第一団隊舎に申請しに行った時に聞いた。今の隊長イムッテさんが教えてくれた」
と、兄が説明してくれる。
「山小屋のことがあったからな。うちだけじゃなく他でも同じ説明をされると聞いたが」
と、父が付け加える。
「俺は、領主様のお館で働くことになったんだ。今回もキニルさんとノベルさんにはお世話になった。それにアートムさんが俺の上司になる」
「アートムさんなら厳しいが、良い指導をしてくれるだろう」
と、父が言うと、
「アギル兄が、帰ってきてくれて母ちゃんが喜ぶよ。ずっと心配してたんだから」
と、ソルトが言えば、父と兄も頷く。
「本当に親不孝と兄弟不孝して悪かった。でも前回の事が有ったから良い勉強が出来たと思うよ。あのまま許してもらってここで暮らしていても苦しくなっていたと思う。ナリスとも上手くいかなかっただろうし、他所を見てこれたことは、心配かけたけど結果は良かったと言えるように頑張るよ」
と、アギルが伝える。
「そうか、じゃ家に入るか」
と、父が促す。
「俺は、一旦家に帰って家族で行くよ」
と、兄が向こう隣へと駆けていく。
「ソルト!」
と、アギルが弟を呼び止める。父はそのまま家と入っていったが、
「どうしてモカなんだ?」
「どうして?」
「悪い、ソルトの好みと違う気がして、兄ちゃんのベリーも驚いたけど、ベリーは納得がいくんだ。
でもソルトはモカを嫌っていただろう?」
「アギル兄は、モカの兄貴とは仲が良かったじゃないか」
「あいつは、モズは良いやつだけど五人兄妹の真ん中でウマがあったからで」
「だからって家族ぐるみでアギル兄を捲き込んで良いわけないよな。全部押し付けて。
だから、俺が教育し直しているんだよ。宿の経営も俺が管理してるし、モカの我が儘も家族が悪いことが分かったから」
と、ソルトが言う。




