付け?
「アイ、ミカエル様が呼んでいるから、執務室に行こうか」
と、ルカが呼びに来た。
「分かったわ。キニルさん、馬を触られてくれてありがとうございました。
あなたが、王都まで一緒に行ってくれる子で嬉しいわ」
と、柵の側で馬を撫でていた藍がルカに、返事をする。
アギルさんとナリスさんは、そのまま執事のニックさんに報告しに行った。アギルさんの上司になるアートムさんとナリスさんの上司になるノアさんにも、報告して回るそうだ。
藍は、キニルさんの許可が出た馬と、柵越しにふれあって遊んでいた。乗馬は出来るが……今日から…だらかやめておく。どんな悲惨なことになるか分からない。
「アイは、馬が好きかい?」
と、キニルさんに聞かれて、
「動物は皆好きですね。でもあまり触らせてもらえなくて」
と、藍が答える。
……ここでペットならオッケイなんて言っても通じないだろうし、動物にはそれぞれ固有の病気があるから保護者から、おさわり禁止令が出ていた。
「こいつはアイが好きみたいだぞ」
と、キニルさんが言ってくる。
「そっかぁ、馬さんにも好みがあるのね。あなたはとてもハンサムよ」
と、藍が言ったら急に柵の中を走り出した。
……ビックリした! 気の障ること言ったかなぁ??
「あの馬は普段は大人しいのに、どうしたんだろう? キニル、アイを連れていきますね」
と、ルカがキニルさんに声を掛けて、藍の側に行く。
「ルカ、お待たせ。急にあの子が走り出して驚いたわ」
と、藍がルカと一緒にお館の方に向かって行く。
「オイ、もういいぞノベル」
「もういいぞじゃないだろ! 俺だってアイと話したかったのに、若い奴を押さえるのにも大変だったぞ」
「俺だって急にナリスがアイを連れてくるとは、思わないだろうが」
と、キニルが奥で若い連中を押さえてくれていた、ノベルに言う。
「アギルが山小屋の事を言い出したから、俺も出ていこうとしたら、ナリスがアイを連れてきてるのが見えたから、焦って隠れたけど。
まあぁ、求婚なんて人様の前でするもんじゃないからな。一生話のネタにされるな」
と、ノベルが厩舎の奥で見ていた事を言う。
「それは同感だが、アギルが言っていたことが気になる。アイツは目端が利くんだ、無駄な事を聞きに来た訳じゃないはずだからな」
と、キニルが答える。
「お疲れ様です、ミカエル様。お呼びでしょうか?」
と、執務室に入った藍がミカエル様に聞く。
「色々、細かい話をしておこうかと思ってね」
「私に確認していただけるのは有りがたいです」
と、藍の向かいに座るミカエル様に言う。
「明日、メアリー、ダニー、ケビンが王都に帰る。アカデミーのことがあるから先に別邸に向かう。そして王宮からは、シアン陛下を迎えに馬車が出るそうだ。
こちらは、その馬車が付いた次の日にこちらを発つことになる。ダーニーズウッド辺境伯領土境の第5団隊地で1泊して、そこまではシアン陛下と御一緒するが、そこからはダーニーズウッド家から迎えの馬車が待機しているから、シアン陛下とアイは別行動になる」
と、ミカエル様が説明をしてくれる。
「領主のロビン様とは、王都の別邸でご挨拶すればいいですか?」
と、藍が聞けば、
「そうだな、シアン陛下が王宮で側近の閣下達の挨拶が済めば、領土に帰れるはずだから機会はあるだろう」
と、ミカエル様が仰る。
「王都の別邸では、ミカエル様が主となって手配していただけるのですか?」
「そうだな、アイの事を周知しているものは、僕とルカ、別邸の執事のルクールのみになる。
異母妹弟達にも知らせないし、シアン陛下の友人の孫として周りはアイの事を接してくる。それで構わないんだな」
と、ミカエル様が確認してくる。
「はい。私の身元は、シアン国王陛下にも危険性を解かれましたし、私も理解しました。
で、シアン国王陛下からの貸付の内容は、ミカエル様が管理されるのですか?」
と、藍は明細を知らないしどのように返済するのかも、まだ聞かされていない。
「あぁ、見たい?……用意はしてあるけど?」
と、ミカエル様が引きつった顔で聞いてくる。
「私が把握しないで、どうするのですか?
金銭的な事は信用していますが、こちらでお世話に成った経費を見れば、物価参考になりますよね。
王都の物価の比較は後ほどいたしますが、私にかかった費用は王都でも掛かるものです。何も知らないで物を購入したり、時間労働の計算もしたいので見せてもらえるならお願いします」
と、藍が言えば、
「時間労働?」
と、ミカエル様が聞いてきた。
「えっ? 経費の中についてないのですか?
でも、例えばルカはダーニーズウッド家の侍従で、私についてもらっていますが、年俸なのか月給、日給種類は沢山ありますが、この二月分は私がダーニーズウッド家に支払うべき経費の1つですよね。
今はシアン国王陛下が立て替えてのことで、私が返済分で間違いがないと思うのですが」
……だって月給で計算しないと、朝から寝るまでなんて、時給?プラス危険手当て?早朝、深夜細かく考えていたら沼になりそう……
「あはははぁ………そんなに細かく計算しなくても……」
と、ミカエル様が言うけれど、
「いえ、私は数字だけで良いですよ。計算はミカエル様ですよね。計上される分と増減の計算は」
と、藍が言えば、
「それってさ、月計算?」
「こちらの収支計算が、月毎なら月計算ですよね? 当分私は借金しかないですが、王宮勤めが出来るようになれば増減はあるはずですし」
と、藍が答える。
……何故か? ミカエル様が明後日の方角を見ているなぁ? 計算が苦手なのかなぁ?
「アイの国とここのやり方は違うだろう?アイのやり方をミカエル様に求めるの酷だよ。
ミカエル様は領土の事業の管理もされているから、計算や処理は何時もされている」
と、ルカが藍に言ってきた。
……それもそうか、給料計算の仕方も違うかもしれないね。契約上の事は私が分かるわけないしなぁ?
「すみません。ミカエル様のやり方?こちらのやり方でお願いします」
と、藍がミカエル様にお願いする。
「アイがちゃんとしている事は、分かったから信頼して管理を任せて欲しい。
私物で欲しいものはルカに言って手配するから。それからこれはダーニーズウッド家のやり方なんだけど一季節毎にお小遣い制になっているからね。アイのお小遣いは祖父のシアン陛下から出るけど、この金額は返済には入らない。勿論ルカもダーニーズウッド家から出ているし、僕もそうだから」
と、ミカエル様が説明してくれる。
……お小遣い制?給料以外で貰える? ボーナス?一季節毎……3ヶ月毎にボーナス……凄い!!
「ちなみに、アイが何かを購入する時は金銭のやり取りは殆ど無いと思うよ。サインで僕宛に来るようにするから」
「えっ? では、私が私用で買いたいものは?」
「そうだなぁ、アイが一人で行動することが無いと思うけど、その時はルカに言ってルカに補填がいくようにするから」
と、ミカエル様が言う。
「もしかして、私は付けで生活するのですか?」
「アイの国は、普段から金銭を持ち歩いているのかい?危なくないの?」
……あ! 決して犯罪が無いと言うわけではないなぁ。……男性も女性も事故や暴力、大人も子供も安全なようで安全でない。
平和ボケしてますね……
「ミカエル様の指摘通り、私の認識が緩かったです。すみません」
と、藍が素直に謝る。
「ねぇ、アイ。シアン陛下が治められている、カーディナル王国はまだ治安は良い方だと思う。そして父が領主のダーニーズウッド辺境伯領土も。
治安が良いとされている土地であっても、犯罪は起こるし、暗躍がないこともない。
僕も王都で気を付けるけど、アイ自身が自覚をもって欲しい。
いくらルカが優秀な護衛として側にいても、対象であるアイがその認識がない行動をすれば、アイ自身もルカも無傷で済まなくなることを、肝に銘じて欲しいなぁ」
と、ミカエル様が笑顔で言ってくる。…………怖い。
浅葱兄と要兄に、一緒になって注意してくる感じ




