方針
「カール、やっとアイが一緒に王都行きを認めてくれたぞ」
と、シアン国王陛下がソファーで背もたれに体を預けて脱力している。
「陛下、お話を聞いてますと認めたと言うよりも、強制脅迫に近くないですか?」
と、カール様が答える。
「そうですよ。確かにアイ様の身の回りの物からノーマン医院の医療費は金額にすれば嵩みますが、元々メリアーナ様の往診や、使用人の病気怪我は領主様の管轄です。それまでも計算上算出しなくてもよろしかったのでは?」
と、ニックが言う。
「いや、アイを甘く見てはいけない。ニック出来る限りの経費の計上を細かくあげてくれ。今日は追及しなかっただけで、気が変われば言ってくるかも知れないからな」
と、シアン国王陛下が仰る。
「それ程、細かくしなくても大方でもよろしいでしょう。此方の物も価値も違うでしょうし」
と、ミカエル様が言う。
「多分、アイは計算も早いがこちらの謀を読むのも早い。口頭で言ったことを忘れず後で追及してくる性質だと思う。妻や上の娘がそれに近い。
下手な事を言うと辻褄が合わなくて、怒られるのだ」
と、シアン国王陛下が答える。
「怒られるのですか?」
と、アートムさんが言えば、
「アイと話していて、言葉の選び方、切返しの速さ、対処の確認、言質の取り方等、生前の異母兄上サイニーみたいだったぞ。
アイが此方の物の価値が分かっていないから、およその数字を出して、アイの知っている物価価値で計算は頭の中でしていると思う。
そのうち此方の価値が分かれば、自分で計算をし直して追及されそうでな」
と、シアン国王陛下が想像を仰る。
「アイ様を守銭奴みたいに仰いますが、しっかりしていると仰ればよろしいのに、シアン陛下の希望通りに文官として素質がおありそうですね」
と、ニックが言う。
「身体の弱さに目隠しされているが、アイが好きに動ける身体を持っていたなら、私には制御出来るとは思えぬ。情に訴えて頼み込むしかない」
と、シアン国王陛下が仰る。
「シアン陛下、アイは自分の事なのに除け者にされていると感じています」
と、急にルカが言ってきた。
「どういうことだ?」
と、カール様が聞いてくる。
「アイは何時も自分の感情を押さえているのです」
と、ルカが言う。
「いつものアイは、私達に取り繕っていると」
と、ミカエル様が聞いてくる。
「アイが部屋を朝早く抜け出して散歩をすることは有りましたが、私が心配するからと伝えたら、最近は抜け出すことは有りませんでした。
しかし、昨日の朝様子を見に行くと就寝した形跡が無くて、ニックにも手伝ってもらいお館と、散歩に行くところを捜索しました。
結局はクルナの部屋で寝ていたのですが、夜中に抜け出して散歩をして、クルナとアイルの相手をしていたと分かったのです。
アイに心配しているのにと伝えたら、心配するようなことが起こっているのか?と、自分の事なのに何も知らせない。だったら好きにしていいのよねと、言われました」
と、ルカが答えた。
「アイに関することで、色々してくれているルカは、言えぬことも有るな」
と、シアン国王陛下が言ってくれる。
「アイの自由の準備をしていると、大まかに伝えたところ、準備が必要なことなのか? 自分を除け者にしてどんな準備なのか? 準備されている過程で自分の意見は必要ないのか? 言われた通りに動く人形じゃない。
心配してくれているのは体であって、気持ちや心でないなら、自由にもなれないと、アイには言われました」
と、ルカが報告する。
「そうか、悪かったなルカ。アイの不満や苛立ちを一人で受けさせてしまったな」
と、シアン国王陛下が仰る。
「いえ、シアン陛下。アイを不安にさせたのは私の説明不足に他に有りません。
アイは優しいです。心配していると言えば直ぐに改めてくれる。本当ならここで理由を聞いてくるのが、アイは先に自分の気持ちを押し込めて理由を聞かなくても我慢の行動に行きます。周りにいる人の行動を優先にするのです。それに甘えていた私が軽慮でした」
と、ルカが言う。
「僕も、アイがお世話になっているから、どうやって返していけば良いかと相談された時、余りにもお人好し過ぎて、こんな考えに至る生き物を見たこと無くて、アイが可愛いやら愛しいやらで、究極に笑ってしまいました。どうしょうも無いくらいに愛らしいですよ」
と、ミカエル様が言えばカール様が、
「ミカエル、それはどういう意味で言ってる?」
「どういう意味?………………あぁ、ニックにも聞かれましたが、恋情じゃないですよ。ケビンと一緒にしないで下さい。
うぅ~ん、メアリーに対しての感情に似ていて、それと、アイの側はとても気持ちが良いのです。何でしょうね、落ち着く和む?」
と、ミカエル様が答える。
「それは分かります。アイ様が側にいらっしゃるだけで、イライラとした気持ちが落ち着くというか、考えが纏まるというか、不思議な方ですね」
と、ニックは言う。
「聞いているだけで、頭が痛いぞ。ここに居るものは私の信頼と信用で成り立って居るが、それ以外の者が同じようにアイに対してその思いを持つことが、何とも複雑だ」
と、シアン国王陛下が仰る。
「陛下、それは単に焼きもちなのでは?」
と、アートムが指摘する。
「私もアイ様が可愛くてしかたありません。館に居ります者が同じように思っていても可笑しいとは思いませんよ。関わった者は老若男女といったところでしょう」
と、ニックが説明をする。
「このまま王都に連れていって大丈夫だろうか?」
と、シアン国王陛下が仰れば、
「やはり、アイはダーニーズウッド領でお預かりしましょう」
と、カール様が仰る。
「いや、やっとこじつけて私の側に居ると言ったのだ。守りを固めたいが」
と、シアン国王陛下がカール様を見る。
「アイのアカデミー編入は、私共が手配すれば良いのですか?」
「アイを王都のダーニーズウッド別邸で預かってくれるか?」
「王宮じゃなくてよろしいのですか?」
「王宮では、アイは休めぬ。王宮で文官として働き慣れれば部屋を用意するで話を持っていく。それもアイに聞いてやらねば、アイの気持ちを無視することなんだろう」
と、シアン国王陛下がルカを見る。
「確認はアイと一緒に取って下さい。疎外感を持っていますので」
と、ルカが言えば、
「王都には、ルカが来てくれるのか?」
と、シアン国王陛下が聞く。
「そのつもりで、アギルを引き込みました。
ルカより戦闘力は劣りますが、年の功色々経験則をあげてきていますので、ルカの抜ける分は補えるでしょう。どうやら、嫁も決まりそうですし」
と、アートムが報告する。
「そうなのか?」
と、ミカエルさまが聞いてくる。
「多分、近々そうなるかと」
と、アートムが言う。
「ルカは一般で騎士科に行ったのか?」
と、シアン国王陛下が聞いてきた。
「いいえ、教育科で文官の資格を取りました」
と、ルカが答える。
「どうする? 護衛騎士としてアイに付けるつもりだったが」
と、シアン国王陛下が仰る。
「侍従として必要でしたので、教育科を取らせました。騎士科でなくても技術は教えられましたから」
と、アートムが説明する。
「アイ様は、教育科で文官の資格を取る為に編入されるのは、歳が少し召されておりますが」
と、ニックが尤もなことを言う。
「一般で入れるのは、14歳から20歳までですよ。医師を志をしているものでも、22歳までと決められております」
と、ミカエル様が言う。
「アイの為だけに律を変える訳にもいかないな」
と、シアン国王陛下が言えば、
「それに、ウチの孫達がアカデミーに居りますから、誤魔化す事も出来ません」
と、カール様がダメ出しをする。
「シアン陛下、それこそアイと一緒に相談されませんか? アイの希望とアイの国での知識で違う方法があるかも知れません。アイを巻き込む方がアイの性格上逃げは無くなります」
と、ルカが提案する。
「陛下、僕もその方が良いと思います。アイは自分で提案したことは逃げたりしません。アイに決めさせてそれに協力する体制の方が良いと思います」
と、ミカエル様が賛成と指示を出す。
「ここで全部決めたことに、アイが納得しなければアイが我慢することになるな」
と、シアン国王陛下は賛同されて、
「明日のお昼から、集まれるか? 午前中はその様に段取りを頼むな」
と、カール様が確認されて、解散となった。
「アイの歳のことを、忘れておったわ」
と、シアン国王陛下がカール様に言えば、
「そうですな、貴族なら遅い方ですな。領民ならそうとは言いませんが、ルカが言っているようにアイと一緒に擦り合わせていかないことには、どこで揚げ足を取られるか分かりません」
と、カール様が答える。




