父親似
「カリーナ様が言われ無き差別を受けた事情は、理解しました。
シアン国王陛下の事情も、ダーニーズウッド家を大事にされていることも、おそらくカール様とカール様のお父上が差別無くシアン国王陛下に接されていたと言うことですね」
と、藍が理解を示した。
「そうですね。そんな父親と祖父を見てきたロビンも偏見無く人を観る性質と思います。
カリーナがロビンを慕う気持ちも分かりましたし、同情が無かったとは思いませんが、思いは真っ直ぐでしたからロビンも絆されたのかも知れないですが」
と、メリアーナ様が答える。
「アイ様は、直ぐには国に帰れない。帰る策をこれからだと仰いましたね。それならご希望は言われたのですか?」
と、アートムさんが聞いてくる。
「希望はお伝えしましたが、カール様とシアン国王陛下に却下されたのです。アートムさんはお聞きでないのですか?」
と、反対に自分の情報はそっちの方が先にあると言いたい。
「私が聞いているのは、アイ様が館を出て街に住みたいと聞きました」
と、アートムさんが答える。
「それは無理ですよ」
と、メリアーナ様が仰る。
「身体が弱くても、出来る仕事はあると思うのですが」
と、藍も言ってみる。
「アイ様が出来る出来ないと言っているのではなくて、夜通し誰かが警護に就くようになるのをお望みですか?」
と、メリアーナ様が言ってアートムさんを見る。
「……???」
「アイ様がどんな手段で街に出られても、私共が警護をしないということはありません」
と、アートムさんが言う。
「態々、私を警護しなくても戸締まりをちゃんとすれば良いことですよね」
と、藍が答える。
「意識が無い時も、戸締まりが出来るのですか?」
と、アートムさんが尤もなことを言う。
「それは、そうですが少しは元気になってきたので、あまり倒れることもなくなるかと思います」
と、藍が抵抗してみるが、
「ここ季節1つで、6回寝込んだと思ったのですが、これは少ないのですか?」
と、アートムさんが聞いてくる。
「……少ないです」
と、正直に答えると、メリアーナ様が、
「まぁっ!」
と、口に手をやって驚いている。
「尚更、街に出ることを私もお勧めできません。カール様とシアン陛下の過保護だと言える話ではないですよ。
それに、アイ様はご自分の容姿に無頓着だと申し上げますわ」
と、メリアーナ様が言ってくる。
「極普通ですよ。メリアーナ様、私の容姿は」
と、藍が答える。
「では、お聞きしますね。アイ様のお母様シアン陛下の娘様の容姿はどう評価されていますか?
アイ様 娘の評価と周りの評価が一致していることを、教えてください」
と、メリアーナ様が言ってくる。
「母ですか? 伯母 翠に比べて小柄ですが均整の取れた体型で、一般的に可愛らしいと思います。48歳ですが40代には見えません」
と、藍が答えると、
「48歳ですか」
と、アートムさんがポツンと呟いた。
「では、アイ様のお父様の容姿はどうですか?」
「父は、対して普段運動をしているとは思いませんが、伯父と若い時に剣道という剣術をしていたせいでしょうか、姿勢は綺麗です。
立っている時よりも座っている時の背中が私は好きです。母と違って髪に癖があってほっておくと暴髪しています。
母から父に思いを告げたらしいので、それなりに見栄えする方だと思います」
と、藍が答える。
「では、アイ様のお祖母様、シアン陛下の奥様はどうですか?」
「お祖母ちゃまは70歳ですが、とても綺麗な人です。若い時なら尚更綺麗だと思います」
た、藍は答えた。
「アイ様から見た、お身内の方が器量が良いと言うのなら、アイ様が器量良しで間違いないですね。
どう思いますか? アートムはどんな綺麗な女性からも靡きもせずにいた殿方から見て、アイ様は?」
と、メリアーナ様がアートムさんに振ってくる。
「メリアーナ様、私にも美醜の良し悪しは分かりますよ」
と、アートムさんが珍しく愚痴る。
「カール様が指摘された黒髪が艶があって触りたくなりますね。それにこめかみからの赤髪が肌の白さを際立てます。ハッキリした眉が切れ長の目を形良く見せ長い睫が影をつくり、少し低い鼻筋が愛らしく、色が映える唇が小さく膨らみ、頬の高さも額の広さも整っていると思いますが」
と、一気にアートムさんに評価されたのは、誰の事を言っているのだろうか?
「今のが、アートムの評価なら私が今まで聞いたことがない褒め言葉だわね」
と、メリアーナ様が仰る。
「メリアーナ様、私は褒め言葉など口に致しません。思ってもいないことを告げることは、私の中にはありませんが」
と、アートムさんが反論する。
「…………アートムさんの評価は誰の事ですか?」
「勿論、アイ様ですが」
と、アートムさんが答えた。
……こっちの世界なら私は、美人さん? 別嬪さん?
「私の好みで言うなれば、アイ様はお化粧をされていない今のままが好みでもありますね」
と、アートムさんが言ってきた。
「まぁっ! アイ様は何も付けていらっしゃらないの?」
と、今度はメリアーナ様が聞いてくる。
「はい。いつ倒れるかわからない状態では、お化粧は邪魔になるので、私の周りでは顔色を常に見られる様にしていたので、この年でも化粧気がないのが子供だと言われていましたね」
と、藍が告げる。
体調不良を誤魔化すためにしたとこはあるけど、お化粧をした方が体調不良に見えるのは何故? 私が下手くそだからかなぁ?
「確かにアイ様の顔色を常に見てしまいますね」
と、アートムさんが理解してくれる。
「それなら尚更でしょう、このままで優雅で端麗さなら護衛が付いて当たり前でしょう。お認めになりますね」
と、メリアーナ様が言ってくる。
「私はお世辞は言いません。アイ様の美貌は危険だと認識して欲しいと思います」
と、アートムさんが言ってくる。
「分かりました。ありがたい評価に戸惑っていますが、私の容姿が此方では好みの範疇だと認識すれば良いのですね」
と、藍が言えば
「好みのだという生易しい判断でなくて、危険だと理解して下さい」
と、アートムさんが言ってくる。
「今のところ、ケビン様だけですし、他の方には言い寄られたりしていませんよ」
と、藍が言えば
「ルカとニックが制御していただけです」
と、言われた。
……えぇぇぇー?
「ニックが大変だと嘆いてましたよ。アイ様を見た使用人が使い物にならならいと、だからアイ様の周りには制御出来る者しか居ないのですよ。ご存知無かったんですね」
と、メリアーナ様に言われ、
「はい」とだけ答えた。
……セイ様に注意されたのは、わたしの加護の出入りだけじゃなかったのね。
「では、アイ様に理解して頂けたので問題は、ケビンだけじゃなくそれ以外の男性に気を付けて貰いたいのと身の守りを強化致します。
我が孫ですが、先に申しましたように思い込みでアイ様に恋情を持っているケビンは母親譲りで諦めが悪いのです。
他にもアイ様を狙っているとの情報が入っているのです」
と、メリアーナ様が注意する。
「カール様とシアン陛下がアイ様にどんなに説明しても分かってくれないと、メリアーナ様に託されたのです」
と、アートムさんが説明する。
「この時間は私の認識を改める為の時間なんですか?」
と、藍が聞けば
「いいえ、それだけではありません。率直にお伝えしたくても、今のアイ様に聞いてもらえないとシアン陛下が気に病んでおられる事と、私がアイ様ともっとお話がしたからです」
と、メリアーナ様が微笑みながら言ってこられる。
「それにしても、メアリー様が母親のカリーナ様に似ていらっしゃるのなら、ダニー様はロビン様に似ていらっしゃるのですか? ケビン様は、外見はカール様に似ていらっしゃるし」
と、聞けば
「ダニーは、ロビンの兄 ダートルの方に似ていると思います」
と、メリアーナ様が言えば、アートムさんが頷く。
「ルカは、アートムさんに似ているので年を取れば素敵なおじさまに、なりそうですね」
と、藍が言う。
「確かにルカは、若い時のアートムによく似ているわ。小さい時はミリーに似ていると思ったけど」
と、メリアーナ様が言う。
「そうでしょうか。今もミリーに似ていると思っておりました」
と、アートムさんが言って、
「アイ様は、ご両親のどちらに似てらっしゃるのかしら?」
と、メリアーナ様に聞かれ
「私は、父似だと言われてました。従兄達に」
と、藍が答える。
「それで、シアン陛下も気付けなかったのかも知れないですね」
と、アートムさんが言う。
「シアン国王陛下とカール様は従兄弟ですよね。仲が良いのはよく分かりますが、私にはアートムさんがシアン国王陛下に似たところが有るように感じます。側にいらっしゃると似てくるのでしょうか?」
と、藍が言ったら、
「凄く光栄ですね。アイ様にそう言ってもらえると」
と、アートムさんが笑顔で答えてくれた。




