侵入者の報告
「カール様、ミカエル様一体何があったのですか?」
と、ニックがソファーに座るカール様と執務机に座るミカエル様に問う。
夜の執務室には、シアン国王陛下と、カール様、ミカエル様にアートムとルカが揃っている。
シアン陛下は項垂れてカール様の向かいに、座っておられる。
「アートムの報告があると伺いましたが」
と、ニックは再度問う。
「ニック、アートムの報告はあるんだが、他にも色々なあってな」
と、ミカエル様が答える。
「順番からいえば、アートムの報告からだが」
と、ミカエル様がアートムに促す。
「私からは、この前から目撃されていた商人の確保と尋問の報告ですね。ルッツが見かけた商人は、ブーゲンビート領のロカ商会でした。
ロカ商会の三人の中にアギルがいました。覚えておられますか?」
と、アートムが聞いてくる。
「アギル?」
と、ミカエル様は記憶に無さそうだが、
「確か 王都のヌーベル商会に騙された青年だったか?」
と、カール様が答えると、
「そうです。本人は騙されたことに責任を感じてダーニーズウッド領から自主的に出ておりました。10年前の話です。ミカエル様とルカは当時関わっていなかったので知らなくても仕方ありません」
と、アートムが説明する。
「何だ、また騙されたのか?」
と、カール様が聞いてくる。
「騙されたのは、王都のサイガール商会とロカ商会の方だと言えますね。
ケビン様の戯れ言を真に受けて、サイガール商会に依頼したのは、やはりオリゾーラル公爵令嬢のようです。
そのサイガール商会から依頼されたのがアギルが身を寄せている、ロカ商会でした」
と、アートムがいえば、
「ケビンには教育を改めないといけないな」
と、カール様が言えば、
「ケビンのことで、追加の報告が有ります」
と、ミカエルが言う。
「アギルは依頼を断り続けたみたいですが、商会で世話になっている手前、商会の長の亭主と弟分を連れてダーニーズウッド領に帰ってきたそうです。
目的は次期領主ミカエル様の結婚相手の偵察でした。素性と容姿の確認がアギル達に命じられた内容ですが、ロカ商会の跡継ぎ長がなかなかのやり手のようです。
アギルが受けさせられた内容とは別に、旦那にダーニーズウッド領地の鉱山の調査、アギル曰く長の息子に別の調査をさせていたらしいです」
と、アートムが報告する。
「アギルってあの猟師の息子でしたか?」
と、ニックが確認してきた。
「そうです。今回は騙されたのはのでなくて、ロカ商会に諦めさすために、順服していたらしいです」
と、アートムが言う。
「アートムに捕まると分かってて領土に戻ったと」
と、カール様が問う。
「その様です。確かに私の印象でも、10年前のアギルに拙さ有りましたが、無知ではありませんでした」
と、アートムが答える。
「態と捕まるようなことは、しておらぬがぬけぬけと情報を持ち帰ることもあったと言うことか」
と、カール様が言う。
「その点でも考えが有ったようです。先ず商会の長の旦那には、街での情報は探らせていたらしいのですが、そちらの能力が低いと好きにさせていたら、人当たりと人の良さが分かるのが、街の住民が気軽に何でも話していたらしく、内心驚いたとアギルが言っていました。
ノーマン医院の看護婦達の噂話を集めていたとアギルが教えてくれました。
その旦那に帰るように促しても帰らなかったのは、商会の長妻にダーニーズウッド領の鉱石を好きに調べても良いと、言われたそうです。
アギルも領主の許可なく出来ない事を、妻の許可で出来ると思っている旦那に呆れても、野放しに出来ずついて回っていたと言ってました」
と、アギルの行動を説明する。
「なるほど、商会には成果無しで帰るようにアギルが誘導していたと?」
と、ミカエル様が言う。
「アギルの魂胆はそうでしたが、もう一つ誤算が弟分の事です」
と、アートムが言う。
「さっきは長の息子と言わなかったですか?」
と、ニックが聞く。
「アギルは今まで気付かなかったと言ってましたが、旦那の子でないのでしょう。どの様に扱っていたかは分かりませんが、アギルと仲良く態としたのか、仲良くなったから使う気になったのか、直で命じているようですよ」
と、アートムが調書の内容を言う。
「ミカエルの結婚相手をか?」
と、カール様が聞いてくる。
「本人は、口を割ってはおりませんが、アギルは館に近づくなと周囲の散策とミカエル様の結婚相手の容姿が分かれば、それで良いと言い聞かせていたらしいです。
しかし、ルッツの証言で館の中庭園まで近付いていますし、足跡から館の周辺を念入りに探っていた感がします。
アギルの思惑通りに行かず、今朝に至っておりますね」
と、アートムが報告した。
「それで、アイの情報は漏れたのか?」
と、黙って聞いていたシアン陛下が、アートムに聞く。
「……まだ、確認出来ていないので報告するかどうか思案しておりましたが、シアン陛下のご様子を見るに、ご報告することが有ります。
先程のロカ商会以外に、同時期に目的は分かりませんが、館を探っていたものがいます」
と、アートムが言う。
「どういうこどだ?」
と、カール様が言う。
「アギルの情報と、キニルとノベルのそれぞれの調書を見比べても、ロカ商会が偵察してきたのは2回です。
しかし、私やルカそれに第一団隊員の調査、キニルやルッツの報告を見るに、ロカ商会以外に1回侵入されたかもしれません」
と、アートムが報告する。
「で、アイの情報は漏れたのか?」
と、シアン陛下が再度聞く。
「……ロカ商会だけでしたら、アイの事はメアリー様との混同で定かな情報は得られていませんが、ロカ商会を隠れ蓑にしてもう一組いれば、アイの容姿は漏れたと推察します」
と、アートムがシアン陛下に答える。
「シアン陛下、アイの事は隠し通すのは難しいと思います。
アイが自分から閉じ籠っても良いと言うなら良いのですが、そうでないのなら公にするのも手ではないでしょうか?」
と、ニックが言う。
「それは、隠すから探られると言う意味か?」
と、ミカエル様が言う。
「アイは聡明です。目立つ事を好みませんが、自分がどれだけ注目される容姿かを認識していないと思います」
と、ニックが言えば、
「それはアイに説明したぞ。無自覚のままでは危険と判断をして伝えた」
と、カール様が答える。
「シアン陛下、アイの国ではアイの形貌は極普通なのですか?」
と、ミカエル様が問う。
「本人が無自覚であるから分からぬが、私が知っているその国でも上位であると思うぞ。あそこまで無頓着でおれる意味が分からぬ」
と、シアン陛下が答える。
「それで、どうでしたか?」
と、ニックがシアン陛下に問う。
「シアン陛下、私も良く分からないのです。陛下の答えとアイのあの態度は、一致しません」
と、カール様が促す。
「……アイは、私の孫娘で間違いない」
と、シアン陛下は口にしたが、
「それは良かったです。
しかし、それにしては陛下が落ち込んでいるように見受けられます」
と、アートムが言ってカール様を見る。
「何故か分からぬが、最低限の礼を取ってアイが談話室から出ていってしまってな。
陛下帰りがけにアイに何か言われてましたね。何と言ったのですか」
と、カール様がシアン陛下に問う。
「陛下のご家族にご不幸が有ったのですか?」
と、ニックが尤も有りそうなことを聞いてくる。
「………………」
「あの、談話室でどの様な話が有ったか分かりませんが、アイは本気で戦えば私とも互角に戦えます。但し、アイの体力が何時まで持つかに依りますが」
と、ルカが急に言ってきた。
「ルカと互角?」
と、アートムが聞いて、周りが驚いている。
「アイが談話室から出るのが分かって、何時ものように添うつもりで側に行けば、今日は動きすぎたから部屋で休むと、食事も要らないと、そしてお願いをされたのですが、アイが部屋で休んでいる時に誰も入れないでくれと、言われました。
ビックリしてアイに何か有ったのかと、話を聞くつもりで腕を取りに行ったのですが、すんでんのところで躱され、反撃こそ有りませんでしたが、油断していた私は敵なら殺られていたと思います」
と、ルカが報告する。
「アイが凄く怒っているんだ」
と、シアン陛下が項垂れながら言えば、
「それなら火に油を注ぐようなことをしているな、あいつらは」
と、ミカエルが言う。
「あいつらとは?」
と、ニックが聞いてくる。
「アイが怒っているところが、僕には想像出来ませんが、アイが部屋を留守にしているところへメアリーと、ダニー、ケビンが部屋で待っていたそうです。
一様この前の謝罪をしに、ですがダニーの話ではケビンがアイがダーニーズウッド家に来たから自分達が我々に怒られたと言ったそうです。
謝罪をしに行ったのに、謝罪にならなかったとダニーは言っていました。
メアリーが失礼な態度を取った前回は感じなかった、嫌悪さを今回はアイから受けたようです」
と、ミカエルが報告する。
「私には、アイのその様な態度は想像出来ませんが、夕食を取らなかったのでね。身体が心配です」
と、ニックが呟く。




