憤り
「シアン陛下!……今さら私を除け者にして、どういうおつもりですか?」
と、カール様がドスのきいた声で言ってくる。
「……………………」
……わたしは、どうすればいいのかしら? お祖父ちゃまが、見つかりました。国王様でした……
「すまんカール。怒るな。怒るか?
アイは私の孫娘だ。今分かったとこだ、許せ」
と、シアン国王陛下? 碧お祖父ちゃま?が、カール様に告げた。
「……な……ん……で……すと?」
「アイ、体調は大丈夫か?
まだ、話したいことが沢山あるんだ。翠はどうしている? 千種は元気にしているか?
朱里が結婚できたのだな。アイとは結び付かなくて、何で初めから孫だと言わなかったのだ。そうすれば、もっともっと一緒に居たのに。遠慮するでなかった」
と、カール様を置いて話しかけられるが、落ち着いて欲しい。私もビックリしてるのだから。
「………………カール様、話の続きは明日でもよろしいですか? 予定はルカに伝えてください」
と、ソファーから立ち上がる。
「それと、この話少し内密にお願いします」
と、カール様とシアン国王陛下にお辞儀をして、部屋を出ようとした。
「アイ、待て。どうしたのだ?」
と、シアン国王陛下に呼び止められたが、
「(シアン国王陛下、少し頭を冷やして下さい)」
と、藍は部屋を出た。隣の執務室からルカが出てきた。
「アイ、陛下との話は終わったのかい……どうした?」
と、ルカが近寄ってくるが、
「今日は動きすぎました。部屋で休みます。食事も要りません。
ルカにお願いが有ります、私が休んでいる時に誰も入れないでください」
と、出来るだけ早歩きして廊下を進む。
「ちょっとアイ、どうしたんだ?」
と、追い付いたルカに腕を取られそうになったが、
今、私は機嫌が悪い。出された手を躱す。反撃しないだけで伝わるはずだ。ルカなら
ビックリした顔のルカをおいて、部屋に向かう。
……落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け……
無性に怒りが混みあがってくる。部屋に着いて普段鍵を掛けないが、施錠する。
窓側に行けばもう少しで夕刻だが、カーテンを閉める。真っ暗になりようがない、厚手だが遮光でないカーテンの隙間から斜めに光が入る。
部屋のソファーに腰を下ろし、隠しから携帯を出す。
「セイ様」
『アイ、そなたねつをおびておるぞ』
「セイ様は、知っていたのですよね」
『なにをじゃ』
「シアン陛下が、わたしのお祖父ちゃまだと」
『なにをいっておる? われははじめからいっておったぞ、われのおちどだと』
「私が聞けば教えてもらえたの」
『あおいと、みこがよんでおった』
「シアンとは」 ガッタン! えっ?!!
「ねぇ! 部屋を暗くして何を話してるの?」
と、誰かが声を掛けてきた。
「誰?」
と、藍が閉めたカーテンを引き開ける。急に部屋に光が入り藍を逆光に影を作る。
「あなたどこから来たのよ? さっきの言葉は何て言ってたの」
と、メアリー様が眩しそうな顔をして聞いてくる。
「アイが留守だったから入って待ってたんだ」
と、ダニー様も居る。
「用事が済んだら、ちょっと話をしょうよ」
と、ケビン様もいる。続き部屋の扉が開いていることから、わたしが部屋を空けている時に入って待っていたようだ。
「勝手に入ったのは悪かったわ。この前の事を謝りたくて」
と、メアリー様が仰る。
「姉上を止められなくて、ごめん」
と、ダニー様が謝る。
「謝罪は受けます。先ほどカール様から事情をお聞きしました。
ケビン様が態とメアリー様に誤解される様に仕向けたと、それを分かってて止めなかったダニー様。弟二人に言いようにされたメアリー様ですよね」
と、藍は事情を聞いた時に思ったことを口にする。
「そんな言い方しなくても、私が悪かったと理解してる。でも、ダニーとケビンは私に付いてきただけだから、悪いように取らないで!」
と、メアリー様が二人を庇う。
「そうでしょうか? 元々何か思惑があったのか、ケビン様の行動は目に余ります。
それを分かっているダニー様は問題を大きくしていることに気づいていないのですか? 二人の弟を意味もなく庇うのは姉として正しいのですか?」
と、藍が言えば、
「ややこしくしてるのはアイでしょ。アイがダーニーズウッド領内に来たから、僕達が怒られることになったんだから、アイが謝ることだと思うけど」
と、ケビン様が言う。
……ケビン様が言うことも一理ある。わたしは好きでここに来た訳じゃない。ないがセイ様が悪いとも言えない。わたしを助けるために理に背いて側にいてくれている。
「ケビンそれは違うぞ、今回はアイの件で私達は叱責されたが、違う事柄であっても同じ行動をしていたと思う。それなら私達が間違っているんだ。だからお祖父様を落胆させたことに、気付くべきだ」
と、ダニー様が言う。
確かにカール様は孫達の行動に、落胆と言うより失望に近い気がする。
……わたしは、どうなんだろう? わたしが失望したと思ったんだ。訳も聞かずに。事情を聞くべきだと思う、思うけど……
――「お母さん今日ね学校の宿題に、自分の名前の由来を聞いて出さないといけないの。
お母さんでも、お父さんでも、おばあさんでも、おじいさんでもいいんだって。
藍の名前は誰が付けてくれたの?」
「あいの名前は、お母さんが付けたのよ。漢字はお父さんが、沢山の漢字からあいに合う文字を選んだのよ」
「藍の字は難しいよ。何でお父さんはこの字にしたの?」
「お母さんにも、色の名前があるからよ。
藍も色の名前なのよ。藍のお祖父ちゃまは、碧この字もアイと呼ぶのよ。色はあおみどり」
「碧お祖父ちゃまは、お墓に居ないよ。翠伯母ちゃまが言ってた。じゃーねお父さんの名前は………………」
……お母さんがこの時、どんな顔をしていたか……
不思議に思った。何でそんなに悲しそうなの?
忘れられない。碧お祖父ちゃまは、何をしたの?――
「もう謝罪は受けました。反省は三人でしてください。
ダニー様が始めからその考えに至っていたら、この様な騒動にならなかったと思いますよ。もう少し自分の考えを主張されるべきではないですか。
メアリー様は弟の話をちゃんと聞くべきです。真っ直ぐに進むだけでは、壁に阻まれますよ」
と、三人に背を向ける。
部屋に光を入れていたものが、沈み辺りを暗くしていく。わたしが背を向けたことでダニー様は理解し、
「姉上、ケビン失礼するよ」
と、二人を促す。
「話をしに来たのに、話せてないよ」
と、ケビン様が訴えるが、
「約束もなく勝手に来たのだから、お邪魔よ」
と、メアリー様がケビン様を伴う。
施錠から開錠して、部屋を出ようとしたら外から声が聞こえる。
「お前達、何故この部屋に居るんだ」
と、ミカエル様の声がする。
「お異母兄さま、すみません。アイに謝りたくて部屋で待っていました」
と、メアリー様が答えている。
「それで謝れたのか?」
「いいえ、謝罪は受けてもらいましたが、僕達の行動に問題がありました。謝罪にはなりませんでした」
と、ダニー様が答えた。
「分かった話を聞く、執務室に来なさい」
と、三人を連れて部屋から離れていく。
開いたままのドアを、誰かがそっと閉めてくれた。
壁際の机にランブが置いてある。
ランプに火を灯してソファーの所に運べば、携帯ケースのヒヨコが並んでいるのが見えた。インディゴ色は周りの色と区別が付かないが、黄色のヒヨコは少しの光でも浮いて見える。
『アイやすまぬのか? そのいろはいかりか?
われにいかりをもつか?』
「怒りも悲しみもよく、分かりません。
シアン陛下がお祖父ちゃまと分かった時、嬉しくなかったのです。私は 23歳でホームシックにかかっています。直ぐに帰れないと、セイ様に言われ納得していても里心に苦しいのです。幼かった母 朱里は母親と姉が居てても寂しかったと思います。
だから、全く知らない人が祖父だったら良かったのに、母と伯母と祖母の恨み言を言いたかった」
『いえば、よかろう。あおいもアイのおもいをうけとめたいだろうしな、うらみごとでも』
「セイ様にも、言いたい」
『やはり、アイはしずににておる。おこるとこわいの』




