表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/99

ルカの証言

ここはカーディナル王国の西側を領土とした、ダーニーズウッド辺境伯領地だ。


昨日から現カーディナル国王陛下が、前ダーニーズウッド辺境伯領主であるカール様の館に滞在されている。

国王陛下シアン様が前々国王陛下の第5王子の時から、従兄弟であるカール様との、恒例行事だとお聞きしている。


早朝、父であるアートムから礼拝堂の清掃を言い付けられた。

常日頃から掃除は、ルカの仕事の一環であるが、シアン陛下が滞在なさる時は念入りに行っていた。


が、今年は何時もより少し早く領内においでになり、後手になってしまったのだ。


館から林に入り直ぐ近くに礼拝堂はある。


普段から手入れをしている分、中の掃除を念入りにする程度だ。

窓枠を外し上から埃を払い床を磨いて、後は窓枠を嵌めたら、何時来ていただいても大丈夫だ。


掃除道具をまとめ窓枠を嵌めようと、振り向いたら女性が変な姿勢で立っていた。


……気が付かなった? えっ?


女性は姿勢を維持したまま、辺りを見回している。


が、ルカと目が合った瞬間出していた右足を後ろに引いた。


……賊か?

……戦いなれている?


と、思ったが、両手は小さい板を持ったまま目線を、その板に向けた?

戦い慣れていると思ったのに、目線を外しておまけに両手を塞ぐなら違うか?


「君は、何処からきたんだ?」

と、聞いてみたが反応がない。


隣国のジャスパード語で、再び目が合った時に、同じ意味で問うてみたが全く反応がない。


理解していないだろうが、ルカはカーディナル語とジャスパード語しか話せない。

怪しいが兎に角父アートムに、相談しょうと踏み台の木箱を持って女性に近付く。


無防備にも程があるだろう。


ベルトを外して、上衣の下防刃用と拘束用の縄をほどき、板を持ったままの女性の両手を拘束した。

ベルトも使って木箱に座らせ、下肢と木箱纏めて拘束して、直ぐには逃げられない程度にした。


無抵抗なため、難なく拘束出来たが父アートムを呼びに行って間、暴れられても困る。

意識を奪うかと後ろにまわり手刀を構えたが、拘束されても身じろぐこともない様子に、そのまま父を呼びに行く。


領主本館で侍従の仕事をしている父を見つけた。

礼拝堂に不信な女性が現れたこと、自国語と隣国語にも無反応であること、容姿が黒髪と赤髪で、黒目であること。

薄手だが、上等なドレスを着ていること。

今は、簡易的に拘束しているので、指示が欲しいと報告した。



父 アートムは執事のニックにルカの報告をして、様子を見に行くと伝える。

現領主のロビン様がお留守の為、次期領主ミカエル様に報告をお願いした。


林を抜けて父と礼拝堂に入ると、女性は身動きひとつせずに考え込んでいる。

父とルカを見比べて身内かと、思っていることが表情でまるわかりだ。


父が一通り女性を見て、ミカエル様に相談すると戻って行った。


ルカは出入口の扉を閉め、そのまま女性を観察することにした。

掃除道具はそのままだが、目を離すわけには行かない。

と、思っていたら女性の顔色が、悪いことに気がついた。


……鈍くないか?今頃恐怖を感じたのだろう。


……子供でも、知らない大人や男性と二人きりになったら、警戒するのが当たり前だ。


……まして、言葉も通じないのに、耳が聞こえないのか?


微かに、女性の歯が鳴る音がする。


時間と共に、女性の身体全体が震えだした。


……泣き出したか?

と、様子を見に行くと女性は、目を合わせてきて睨みながら


「サ、ム、イ」と、言ってきた!

……驚いた!喋れないわけではないんだ。

女性は、両側の壁に視線を交互に向け、ルカに戻す。


そして両足を動ける分だけ上にあげ、身体を丸めるような姿勢にした。


……あぁ! 寒いと訴えてるのか?……確かに礼拝堂の中は冷える。外の方が日が当たり暖かいが……

震えている女性が気の毒になり、途中にしていた窓枠を嵌めることにした。


……当分ロビン様は、領内を留守にされる。

ミカエル様がカール様に相談されるにしても、まだ時間はかかりそうだ。

益々、顔色が悪くなる女性を、ルカは心配し始めていた。



バーン!!


背後の扉が勢い良く開いた。 ゴトン!!


……あっ! ビックリしすぎだろ。


女性が木箱ごと跳び跳ねてあるが、

……カール様とシアン様まで来られた。


………そうか。一番外国語をご存知なのは、シアン様だ。


「シアン様、カール様、態々私の不手際にお力添え、申し訳ございません」

と、ルカが片膝を付いて挨拶をした。


「ルカ、僕もカーディナル語とジャスパード語しか話せない。それ以外となると、お祖父様にお願いしたら、一緒に居られた陛下も行くと仰ってな」

と、ミカエル様が言う。


「僕が確認するでいいですね。お祖父様」

と、カール様に問われた。


「そうだな。ミカエルで言葉が通じないなら、私が試そう」

と、カール様が言う。


「アートム、一緒に来てくれ」

と、父に促すので、ルカは


「ミカエル様、あの女性はこの状態でも、臆せず狼狽えもしない豪胆さがあります。

私の感なのですが、戦い慣れているような気がします。油断なさらないようお願いします」

と、言うと


「じゃぁ ルカも来て」

と、三人で女性に近付く。


ミカエル様が、女性の様子を確認されたのち、

「何て聞いたんだ? 同じ言葉で問うたほうがいいだろう」と、「君は、何処から来たんだ?」とジャスパード語で同じ言葉の二種類です。と、伝えると


うん。と、頷かれた。

そのまま女性に同じことを試されたが、全く反応がない。どちらの言葉も認識していないのだろう。


ミカエル様が後ろを振り返り

「お祖父様、やはり通じていません。お願い出来ますか?」

と、カール様に仰り、カール様とシアン様が、こちらに動かれた。


お二人が女性に近付くにつれ、女性は、瞠目している。


……何に、驚いているのだろう?


ミカエル様と父とで、お二人に場を譲ると、カール様が、

「何と聞いた?」

と、問われ同じ説明をした。


「では、私は違う言葉を試してみよう」

と、ミカエル様より女性に近付き、片膝を付いて女性と目を合わせられた。

ゆっくりな口調で

「◇◇◇ ◇◇◇◇◇◇◇」


「☆☆☆ ☆☆☆☆☆☆☆」

違う言語だと、分かっているだろうが意味が、理解出来ていない表情だ。

女性が凄く落ち込んだ顔に変わった。


「キミハドコカラキタンダ」

と、シアン様が口にした。


女性は、項垂れていた顔を上げて驚いている。


カール様は、それを見てシアン様に場所を開けられた。

シアン様が、カール様と同じように片膝を付けて

「キミハ、ドコカラキタンダ?」

と、同じ言葉を言った瞬間、一瞬でシアン様の膝に置いた手を掴んだ。


油断していたわけではないが、ルカ、父、ミカエル様、カール様が、シアン様を守る為に女性に詰め寄るが


「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆」

と、一気に喚いた。


父、ミカエル様、カール様は、女性が言葉が通じた陛下に、急することを訴えていると思っているだろうが、ルカは、女性を観察していたことも有り、女性の真剣な目力は、窓枠を嵌めさせたことで、二度目だ。



「クッ…クックックッ……」

と、シアン様が肩を震わせて笑ってらっしゃるが、一頻り笑い終えられて女性に、


「オテアライトハ ベンジョノコトダッタカ?」

と、言ったら女性が頭ごと上下している。


「アートム、ルカ、状況は理解したから、縄を解いてくれ」

「ミカエル、アートム悪いがこの娘を館で保護してくれ」

カール様とは、こちらに来るまでに予想を立てられていたのだろう、説明されない。


指示された通り縄を解こうと、屈みかけたら、

「ヤメテ!!」

と、女性が叫ぶ。


シアン様とカール様が、話されている途中でも、驚いてこっちを見た。

何も不埒なこともしていない言い掛かりなことに、手を振って否定した。


シアン様が女性に安心させるように、話しかけ答えを聞いて、不思議そうに教えてもらたっが、


「縄を上から時間をかけて、解いて欲しいそうだ」

と、

……なるほど、拘束した手足が痛いからゆっくりして欲しいか。確かに肌の色が冷えて変わっている。


肌の色が戻るようゆっくり縄を解いて、終わりをシアン様に告げた。


その間、女性は目を閉じて動こうとしない。

「ドウシタ?」

と、シアン様が問うと、ゆっくり目を開けて


「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆」

シアン様に話しかけ立ち上がったが、動かない。



「手洗いに行きたいそうだか、間に合わなかったか?」

「拘束した手足が冷えていました、痛いのでは」

「動けないほど切羽詰まっているなのか?」


思い思い、感想を言っていたら、女性が歩きだした。

頭を下げ謝っているいるのだろう。

ゆっくりだが、出入口までシアン様に連れられて歩く。


外に出ると眩しそうに驚いている。


……何に驚いているんだ?掃除中に外から入ってきたはずなのに、明るいから? 何時から礼拝堂にいた?


女性が何気に足元を見る。


……あっ縄をかける時、解く時に視界に入ったが、白い靴下か? 布製で靴ではなかったな。


外を歩いた形跡は無かったが。


ルカが、シアン様に女性の履き物が靴でないと、報告すれば、横に立っている女性のドレスの裾を躊躇なく捲り上げた。

女性の手と足が一瞬動きかけたが、踏みとどまったように見えた。


シアン様が女性に何か話しかけ後ろに回り、ひざ裏と腰の位置に手を置こうとなさるので、カール様とでお止めした。

「陛下何をなさるのです?」

と、カール様が問うと


「いや、靴でないから抱いて館に行こうかと」

「いえいえ、それなら私がいたします」

と、カール様が代わると仰るので、


「お二人が為さることでは無いと存じます。私がお連れしますので」

「護衛のルカの手が塞がるではないか」

と、カール様が通じない言葉をかけて、女性を小脇に荷物のようにして歩き出された。


……靴下裏は全く汚れていない? 本当に何処からきたんだ?


館に着いて父が、用事がある時は呼ぶので休めと伝えてきた。

後は、ミカエル様たちが判断されるだろうと、館の奥、使用人の食堂に向かっていると、侍女長のノアが悲壮な顔で走ってきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ