身の上話
「それは、いずれするつもりなんだが、問題はアイだ」
と、カール様が言う。
「えーと、私は被害者だと思うのですが、巻き込まれただけですよね」
と、カール様とシアン国王陛下に訴えた。
「そうなんだが、その前にお茶にしよう」
と、カール様がベルに手をかけた。
「お茶でしたら、私がお入れします」
と、ソファーから腰を上げる。ティーセットが置いてあるワゴンに行き、3客分セットする。
カップにお湯を入れ、ポットに茶葉を人数分入れお湯を注ぐ。カップのお湯を、ボールに捨て茶漉しをセットしてポットからお茶を注ぐ。
テーブルにシアン国王陛下、カール様と置いていき、自分の分は、手前に置きワゴンを元に戻す。
「アイは自分でお茶を入れるのか?」
と、シアン国王陛下が聞いてくる。
「私は普通の平民です。自分のことは自分でいたします。只私は体調次第の事がありますが」
と、普通なら出来ると言いたい。
「アイ、なかなか美味しいぞ」
と、カール様が仰り、
「いつもしているというのは、本当だな」
と、シアン国王陛下も仰る。
「ありがとうございます」
と、自分のカップに口を付ける。
「さて、アイが問題だと言ったのは、そなたの立場だ」
と、カール様が言ってシアン国王陛下を見る。
「あのな、アイ。確認したいことがある。答えてくれるか?」
と、今度はシアン国王陛下が聞いてくる。頷いて返事をすれば、
「アイの家族のことが知りたい。それから、周りで親しくしておった者と聞いても良いか?」
と、シアン陛下は遠慮がちに問われる。
「はい、構いません。私の家族は父と母だけです。兄妹はいません」
「祖父母は、健在か?」
「父方の祖父母は、父が母と結婚する前に他界しています。母方の祖母は健在です」
……碧お祖父ちゃまは、何て答えたらいいんだ?
「アイの母方の祖父は、他界されたのか?」
と、カール様が聞いてくる。
「いえ、お墓はあるんです。あるので他界になるのですが中身がないので、不明です」
……中身の無いお墓だよね。名前は彫ってあったが、日付けがなかった!
芙巳曾祖母さんは、名前も日付けもあったけど曾祖父さんは、居なかったの? あれ?
「不明? 何処か遠くで亡くなったのか?」
と、シアン国王陛下が聞いてくる。
「そういう場合も有りますが、私の国では、生まれた時、死亡し時の日付けを明記するのです。法律?国の決まり事です。
必ずすることです。
生まれた事をお役所で、父が誰で母は誰でと明確に届けられます。それをしないとその子は無いものとして扱われます。受けれる恩恵も資格も義務も無いのです。今度は亡くなった時に届けを出し、受けていた恩恵や資格それから義務から外されます。
私の祖父の場合は、どうやら不明となってから七年後で死亡として扱われているみたいなので、世間一般では亡くなっていることになりますね」
と、藍は説明をしたが、国が違うのだ法も違うだろう。
「それは、どこかで生きていてもそうなるのか?」
と、シアン陛下が聞いてくる。
……正しく、うちの碧お祖父ちゃまがそうです。
「はい。私の国の法に則れば、私の母方の祖母以外は健在していないことになります」
と、答えた。
「アイのその祖父が生きていれば、年は幾つになる?」
……いくつ? と、いっても
「祖母の古稀のお祝いをしたので、同い年と聞いてますから、70歳71歳でしょうか?」
と、藍は答えた。
「そうか……」
と、シアン陛下が呟かれたが、
「アイの両親には兄妹はいないのか?」
と、カール様が聞いてきた。
「私の両親は、父も母も上に兄姉がいますね。父には兄が私の伯父がいますし、母には姉が伯母います。それぞれに従兄がいますので、私の兄みたいなものです」
と、説明をした。
「なるほどな」
と、カール様がシアン陛下に視線を送る。
「先日に言っておった話なのだがな」
と、カール様がメリアーナ様との会合のことを仰る。
「あっ! すみません私の考えが浅はかで、色々考えなければいけないことが有るようです」
と、藍が謝れば、
「こちらも説明不足だったと思ってな、アイの気持ちも分からぬでも無い。現領主のロビンが居らぬのに一方的に決めることでないが、先に説明を私からするぞ」
と、カール様が仰る。
「今、アイの庇護者と言えるのは、シアン国王陛下で、庇護地と言えるのは、ダーニーズウッド家となる。現領主ロビンが不在のため前領主である私と、次期領主ミカエルがその責に当たる。アイが気にしておったアイに掛かる費用等は、シアン国王陛下が担っておられる。そしてアイの安全を担っているのが、ダーニーズウッド家になる。ここまでは、理解したか?」
と、カール様が聞いてくる。
「はい」
と、よーく分かる説明です。
「この先、私はアイをダーニーズウッド家で、預かり生活していきたいと思っておる」
「カール、それはアイの気持ちを聞いてからだと、言ったでないか!」
と、シアン国王陛下が困惑気味に仰る。
「実はな、私はカールにアイを王都に連れていきたいと言っておるのだが、カールがこの前から言うのを止められておったのだ。
それもアイが館から出ると言うから話が逸れてしまってな」
と、シアン国王陛下が仰るが、
……わたしを?他人のわたしを? 何故?
「日本語が話せることから分かると思うが、私は日本を知っているし、少なからず親しい人もいた。アイを見た時に驚いた。何故日本人がこの世界におるのだと、私の縁有るものなら側に置きたいと、カールとミカエルに指示してアイを保護してもらった。
アイが余りにも虚弱故に、家族や親しい者の話は身体に障ると思って聞かずにいたが、私も何時もより長くこの地に滞在しておる。帰らねばならぬが、そのまま帰れぬ。一緒に来ぬか?」
「シアン陛下、アイの気持ちを聞いてからだと仰ったではないですか!」
と、今度はカール様が、反論する。
「あの、私の気持ちをお伝えして、どうにかなるのですか? 私はこちらで生活する伝が無いのですが、当てが無いわけでもございません。それにシアン国王陛下と王都に行った場合は、私は何と言われる立場でしょうか?
何となくですが、下衆の勘繰りをされる予感しかないのですが、周りにはどうお伝えされるのでしょう?」
と、言ってみた。
「シアン陛下、アイでもこの様な心配をしているのです。王都には無理な判断だと思いますよ」
と、カール様が珍しく諌めて仰る。
「アイ、当てとは先日も言っておったが、ディービスのことか?」
と、シアン国王陛下に問われた。
「とんでもないです。ディービス先生にも、ロッティナさんにも言っておりませんし、相談もしておりません」
「では、他に何の当てがあるのだ?」
と、カール様までが聞いてきた。
「………………」
……何て説明すればいいのよ!
シアン国王陛下もカール様も、わたしを見つめたまま答えるのを待っているけど、
「当てと言っても、これから探すのですが……」
と、答えてみるが、
「それは、無いのと同じでないか?」
と、シアン国王陛下が仰る。カール様も頷かれる。
「いえ、居るのです。わたしのお祖父様が!」
「………………」
「どこに?」
と、カール様
「多分、こちらに」
「さっき言っておった、母方のか?」
と、シアン国王陛下
「探したいのですが、私は地理は苦手です」
「この館から出ておらぬからな」
と、カール様
「どこの国か分かるか? カーディナル王国に隣接している国でも3国あるが」
と、シアン国王陛下
「私は、祖父 お祖父様の名前しか知りません」
「それで、どうやって探すつもりだ。名だけか? 家名は分かっておるのか?」
と、シアン国王陛下
「アイが、70歳か71歳と言っていたが、我々より少し上だとしたら、探すとしても時間がないぞ」
と、カール様
「こちらの平均点寿命って、何歳位何ですか?」
「統計を取っておるだろうが、70歳位か」
と、シアン国王陛下
「えーと、時間無いですね……本当に」




