調書
「後はご存知の事だと思いますが、ラルトさんが研究をしたくてここにいます。アギルは始めから嫌がっていましたし、僕は手伝いに呼ばれただけです。
さっきもラルトの旦那に帰ろうと説得してたとこですよ」
と、オークが説明をキニルする。
「なかなか、上手く出来た説明だな」
と、キニルが言ってくる。
「上手くないですよ、本当のことを言ってるだけですから、きっとアギルもラルトの旦那も同じ話をしてますよ。細かいか大雑把かは、分かりませんが」
と、オークが言ってくる。
「そうだろうな、あの二人は本当に知らないと思うぞ、お前が本当の偵察をしていたとはな」
「はぁ? 何を言ってるんですか? 僕はアギルに後から頼まれて一緒に来たんですよ。アギルに聞いてくださいよ。僕は遠くから館を見てくるだけでいいと言われて、アギルも無理はするなって言ってましたし」
「で、ラルトさんアギルとあの坊やが帰ろうと言っているのに、何故帰らないんです?」
「ヤーナは言ったんです。ヨハンさんの依頼は、ミカエル様の結婚相手の素性と容姿が分かれば、仕事の交渉が出し抜けるから、調べて来て欲しいと。でも、僕は偵察や探りを入れたりするのは、不得意だから器用なアギルとオークに任せておきなさいって。
僕はロカ商会の人間だから、身元保証は大丈夫だし、ダーニーズウッド領に行ったら、研究の材料を探せばいいと、だから探しに来たんですよ。この山岳に」
と、ラルトは言う。
「ラルトさんは、領主邸には行っていないのですか?」
と、ノベルが聞く。
「僕はミカエル様の結婚相手に興味もないですし、ヤーナとの約束だけはしましたが」
「約束とは?」
「えっと、街の中で噂を聞いてくることですね。何も聞けませんでしたが、仕方が無いので街の店を回ったり、金物屋に行ったり少しても鉱石のことを知りたくて、ノベルさん昔はダーニーズウッド領でも鉱石を採掘してたと聞きました。そこはどこにあるのですか?」
と、ラルトがノベルに聞いてくる。
「クックックックッ……なるほど、あなたの奥さんは策士ですね」
「いえ、普通の奥さんですよ。僕に好きな研究をさせてくれますし、今回も依頼だと言って研究材料の捜索をさせてくれてます」
「ラルトさんが山に来て三日間は何をしてましたか?」
「勿論、鉱石を探して山の中と、川の支流に行きました。山の中は危ないからとアギルが付いてきてくれましたよ」
「じゃラルトさんとアギルが山に入っている時は、あの坊やは、何をしてたんでしょうな」
「オークですか? アギルに山小屋の馬の世話を頼まれていましたよ。夜は獣が出るから昼間に餌を食べさせてくれと」
と、ノベルに説明する。
「ラルトさん、肝心なことを忘れていませんか?
あなたが街で噂を聞いたり、お店を回ったりするのは問題ではありません。何処の商会でもしてることです。ですが山岳地においては、領主の許可がいります。領民でもです。ラルトさん商会の一員であるあなたが手続きをしなくてはいけないのですが?されてませんよね?」
「僕がですか? アギルがしてませんか?」
「アギルはする必要がないんです。領境の第四団隊の通過の手続きは、ラルトさんですよね。サインのされた書類は手元に有りますよ。あなたのサインが有りますよ。シーガネ川、山岳地の入地は領主若しくは領主代理の許可申請が必要」
「そんなの知りませんよ? それにアギルは知っていたのに教えてくれなかった?」
「アギルは申請をしてますよ。アギルの家は猟師です。小さい時からこの山に入っています。父親がアギルが帰ってきても良いように、何時も名前を入れて申請されています」
「では、同行人の僕は大丈夫でしょ?」
「あなたは、商会として来ているのです。個人ではありません。ましてや狩猟でなく鉱石目当てに、自分でそう言ったでしょ?」
「あの、僕はどうなりますか?」
「まだ、分かりませんが調書は取りますよ。それにラルトさん、あなたが悪気が無いのは話していても分かります。でも、大人として、商会の人として余りにも無知すぎますね。これがあなたの奥さんの策略なら、やはり策士だと思いますよ。
アギルが正直に話せと言った意味は分かります」
「さて、どこから話してくれる?」
「何処からでも、どうぞ」
「アギルは、どう思った?」
「ミカエル様の結婚話ですか? 正直街では、メアリー様の婚約がそろそろじゃないかと、噂があってミカエル様も焦って結婚するのかなぁと、思ったりしましたね。
俺の恩人ロカ商会のヤーナさんが、ザイガール商会からダーニーズウッド領で、ミカエル様の結婚相手が居るから、探ってきて欲しいと言われて、何故飛び付いたのかわからなっかった。
恩を売りたい、後の商売の為も有るでしょうが、ラルトの旦那を連れて行けと言われた時に、正直違和感はありました。
あの旦那は、いい年をして世間知らずなんですよ。研究熱心で、人を疑わない端から見れば良いカモです。そんな人を連れて探れるわけないですし、でも、ヤーナさんの言い分は、ダーニーズウッドから出てきた俺は居心地が悪いだろうから、表裏の無いラルトさんがいれば、噂が入りやすくなると。
実際には、オークが誘導して聞き出したり、相手も油断して話してくれたりで、流石だと思いましたね」
「アギルは、ラルト氏のことをどう思った?」
「正直で素直で仕事熱心な、只の間抜けですかね」
「じゃぁ、オークのことは?」
「初めてオークと会ったのは、採掘場で仕事をさせて貰って一年過ぎた頃ですね。オークが15歳だと思いますよ。俺も仕事に慣れたのと、こっちの弟のことを思い出して、可愛いと思いました。
まさか、今回のことを予測は無理でしょうが、いつか俺の使い道が有ると思っていたなら、気の長い思惑で恐れ入りました」
「いつ? 気が付いた」
「ヤーナさんにゴリ押しとはいえ、誘導された感がありました。事務所に呼ばれ内密の話に、俺の事情を知っているヤーナさんに断っても駄目でしたね。
ラルトの旦那と俺にヤーナさんしか知らない話でもオークは聞いてこなかった。俺の指示通りに動くオークに違和感がありました。
二人だけの時にも疑問がないんです。始めから知ってたみたいに。
それに俺はオークの前では、今回のことを断ったとは言ってません。引き受けたことの愚痴になりますし、嫌な仕事に付き合わせるオークのことを思って、事務所ではむきになるほど断りましたがね」
と、アギルが説明する。
「なるほど、その事務所に居たと」
「そう思い付くと色々出てきますよ。今までなら気が付かない小さいことでもね。
俺がオークに指示して領主邸に行かせたのは二回です。それも近付きすぎるなと注意しましたよ。俺は知ってますからね、アートムさんたちの事。
だから、オークが二回目の時見つかったかもと言われて帰るように促しました。まさか、ラルトさんが反対するとは思わなかったけど、それも計算の内だったんでしょうね。ラルトさんの性格を知っていれば」
「研究熱心な男に、研究材料をぶら下げたらな」
「商会の長だけありますよ。自分の亭主も駒にして」
「で、分かってて山に籠っていたのは?」
「アートムさんが来るのは分かってましたが、ラルトさんは、本当に研究熱心で放置すると何をするか分からないので付いて回ってましたね。何も無いとこに誘導して、
あっ、川の支流に行ったときは、石を動かしたので水が濁ったと思います。すみません止めれなくて」
と、アギルは報告する。
「アートムさん、俺は聞かないことにしますね。オークが何を探っていたのか、ヤーナさんも自分の息子を使って何してるんでしょうね」
「…………」
「それから、俺の気のせいなら良いんですが、俺たち以外で入って来たやついます?
俺たちは二回です、敷地に入ったのは。アートムさん、俺が二回って言った時、疑ったでしょう。
二回以上有るなら、俺たちじゃないですよ」
「…………」
「ミカエル様、本当に結婚するんですか! 俺と一つしか変わらないのに」
と、アギルが喚く。




