独り言
ディービス先生の診察後は、明日まではそのままベットで休んで、翌朝の体調判断はわたしに任してもらえることになった。
今回は発熱で体力消耗がないぶん、回復が早かった。筋肉痛で一部は熱を持っているが、消炎剤が効いているのか激痛程ではない。
「声が元に戻りつつあるね」
と、ルカが言ってくる。頷いて返事にした。声は出なくはないが温存しておく。
ルカも分かってくれているようで、答えを待つような仕草はしない。
「ルッツとクルナがアイに会いたいと言っていた。体調が戻れば会ってやってくれ」
と、言ってくる。これには、思わず
「赤ちゃん見れる?!」
と、聞いてしまったが、ルカが声を出さずに頷いて返事をくれる。
「今日無理をすると、会えるのが延びるよ。話しかけない方がいいな」
と、ルカが部屋を出て行った。たまに部屋を覗きに来るだけで、直ぐに出ていく。意識がない時もそうしてくれていたのが、分かる。
帳が降りる時間になって、天蓋の中にも耳の良い藍が音を拾えなくなった。
「セイ様、私の加護が無くなったのですか?」
と、聞いてみた。
『なぜ、そうおもったのじゃ』
と、セイ様は聞いてきた。
「何となくですが、母 朱里がどうやって浅葱兄に加護を渡したのかと、初めにセイ様から聞いた時に思っていたので」
と、不思議に思ったことを伝えた。
『たしかにアイのカゴは、おおきくうごいてしまったな』
と、セイ様が答えてくれた。
「やはりあの感覚は、加護が動いた感覚だったんだ」
『アイのカゴがいどうしたが、なくなったりはせぬぞ。アイのからだをわれがまもっておるからな』
と、携帯の中を游ぎながら言ってくる。
『しかしなアイ、そなたがきょうせいにうつしたのではいぞ、むいしきにうばわれたのだがな』
「無理やり取られた感はありませんが?」
『アイがなっとくのうえうつしておるからで、よそものにカゴをくれてやるなど、ありえぬからな』
「納得とは、私が願ったからで、合ってますか?」
『もともとアイは、むいしきにふりまいておるが、こかつするまえにわれがとめておる。
が、むいしきなゆえにとめるのが、むずいがの』
と、言ってくる。
「やはり母 朱里が伯母 翠にしたことも同じで合ってます?」
と、聞けば、
『あのしまいはとくべつのよ、ちがちかいせいかほんらいのカゴいどうよりも、はらのおのこにいってしまったのだからな』
と、わたしが感じた事は、加護の移動だったんだ。
クルナさんのお腹に手を添えた時、胎動と意思を感じた。
『アイのちとおなじものならば、われがとめてもとまらなったかもしれぬ』
「私が、母と同じことをしようにも、私には姉妹はいません」
と、その心配は無いと思う。
『ちがまったくつうじてなくて、アイはカゴをもっていかれたのだぞ。らっかんしすぎでないか』
「えっとですね。私はあまり人と触れない方がいいということですか?」
『そうじゃの、アイはむぼうびだといわれたことないのか?
われのみこたちは、こころやさしく、じひぶかいが、けいかいしんはもちあわせていたぞ。アイほどひととのこうりゅうが、ひんぱんでなかったせいもあるが、ひとがきよらかなものでないことをしっていたからな』
と、セイ様が忠告してくる。
「私は、幼い頃から周りの人の手で助けてもらっていたので、人の善悪は分かりますが、何かと手が触れることが多いのです」
と、どうすればいいのか、わからない。
『アイがおさないときに、そばにおったものたちはアイにカゴをあたえていたものたちで、アイからうばうものではないであろう』
と、セイ様が言えば、心当たりが有る。
コンビニでアルバイトをしていた時に、嫌な目で来る人がいた。わたしがお釣をトレイに置く前に手を出してくるのだ。
レジ袋も持ち手の所を相手に向けて、わたしは底を持って渡しているのに、態々両手で底を持って来る。
店長さんか結衣さんは、さりげなく関わらないようにしてくれていたが、他の人と組む時は三時間持たない。体力無いけど凄く疲れる。あれって? そういうことなんだろうか?
大学一年を二回することになったのも、始めの年は講義より講義後のお誘いに返事をするだけで、養護室にお世話になっていた。入室IDでわたしの番号を暗記されて、覗かれることが出てきた時に、養護の先生が対策に先生の使用IDを使うようにしてくれた。
あの頃から、意識をして自分の拒否感は出せるようになったと思うが、拒否感を出さないと持っていかれるということなんだろう。
「セイ様、何となくですが、わかりました。これからは気を付けます。
今回は取られるだけ取られたということですね」
『そうじゃの、カゴのいどうとアイがふだんより、からだのつかいかたをかえたのが、おおきすぎたのだ』
と、無意識にカゴをクルナさんのお腹に流したこと、大人の女性を抱き上げ自分の熱を移したこと、変な姿勢で腹筋と肺を最大限使っての指笛と、大声を出したこと色々とやらかしている。
干していた布はどうなっているんだろう? 2日もたっていたら、始めからやり直しだね。
メリアーナ様のお花の水替えをしなくては、まだ大丈夫だと思うけど。
クルナさんの赤ちゃん見たいな。
『アイ、ほどほどにな。そなた、ほんとうにわかっておるのか?』
と、声に出していないのに、セイ様に注意された。
――アイの前に我と言を交わせておった静は、子を成した後、夫 徳を里帰りの際に事故で亡くし、娘 豊が子を残して儚くなり、孫娘 稔を盲子で麓の山側の村の子だったねずと、一緒に育てあげた。
ねずは両親に愛されて三歳まで、村で育っていたが、母親が次の子と儚くなり、父親だけではねずの面倒がみれず、静が娘の豊と一緒に白彦神社で暮らしていた。
ねずは生まれつき光も通さずの瞳をしていたが、我の気配を感じ取れる稀な子だった。
耳も良く、静が教える笙や龍笛を好み使い手になる。
静と徳の子 豊は、徳の舞の才を受け継ぎ舞人である徳の手解きを受けるも、静の体術を習得を主にして、父徳が帰省時に事故にて帰らぬ人になってから、神社の舞人として奉納舞いを担う。
遅くに子を成したが、産後の肥立ちが悪く子を残して儚くなった。
孫娘 稔は、静の血を受け継ぎ見鬼の才があったが、我と言を交わすことはなかった。
静の我との魂が合うものが、いつの世に出てくるのか?
なんと! か弱き巫女か。我の巫女は見鬼は無い。
なんと! 加護も無いではないか!何をしておるのか前の巫女は? このままでは潰えてしまうでないか。
この巫女は、加護を受容出来るのか?
何故? 加護を振り撒くのだ。
そなたの加護を無闇やたらに扱うでない!
我の巫女に触れるでない!
何とこの世は、邪な気を持つものが多いではないか。
我の巫女の器が持たない。
巫女の受容よりも、搾取され続けば数刻持たぬ。
静よ、そなたの子孫は我を苦慮されることに長けておるぞ。我は理の中におる。理に倣い敢えて見続けてきたが、勝手に理に背き、理に従い好き勝手しておる。
静よ、そなたは我が退屈にせぬようにこの巫女を手向けたのか?
思惑通りと言って良いか?
この巫女は我を静との時を思い出させる。稀な子よ。
「帰ってきたか」
「はい。只今帰路にございます」
「で、どうであった?」
「情報通りでございました。か弱き者でありますが目に麗しく、尊いものを感じます」
「如何にして手に入れる?」
「策にお時間をいただきたく」
「……………手強いぞ、あれは」




