ブラコン?
クルナさんの出産から、わたしの捜索までの一連の話をミカエル様から聞いた藍が、フッと横からの視線が気になる。
さっきからニコニコとケビン様から視線が痛い。
「ねぇ、アイ。『にーにー』ってなに?」
……えっ!
「僕がアイを見つけられたのは、部屋の隅で声が聞こえたからなんだ」
と、顔を近付けて聞いてくる。
「やめるんだ、ケビン。さっきアイの声を聞いただろう。喉を痛めているんだ」
と、ミカエル様がケビン様をたしなめる。
ミカエル様が段々わたしの扱いに慣れてきてる?
本当にわたしを見付けてくれたのが、ケビン様であることは間違いないらしい。
「そっか、しゃべれないか。でも僕が見付けたんだからね」
と、言って部屋のソファーに腰をかけて座る。
「アイ、何時ものようにスープを用意させようか?」
と、ミカエル様が聞いてきた。確かにお腹は空いているが、今回は喉を痛めている。カロリーがあって喉に良いものが欲しい。
「ばぁじぃぎぃず」
と、蜂蜜と言ってみたが、通じたか?
「…………何か書くものを用意しようか」
と、ミカエル様が立って、壁際にある机を探る。
「異母兄さん、アイは蜂蜜って言ったんだよ」
と、ケビン様がミカエル様に言う。
「そうなのか?」
と、ミカエル様がわたしに聞いてくる。頷いて返事をすれば、
「果物を擦り潰して、はちみつを入れたものを持ってきたよ」
と、ルカが部屋に入ってきた。
「良く分かったな、ケビン。ルカはディービスから指示が出てたのか?」
と、ミカエル様が弟ケビンと、ルカに聞く。
「いえ、ロッティナがアイが目覚めたら用意するように言ってましたから、ウースに頼んで作ってもらいました」
と、態々料理長に作らせたなんて。声が出るようになったらお礼を言わないと。
ルカが、ワゴンに載せて持ってきてくれたスープ皿には、いろんな色の実を潰した繊維が見え、蜂蜜でとろみが付いている。
器の皿に手を添えると冷たく冷やしてある。一旦火を通した蜂蜜入りのスープが飲みやすい温度になって、喉に沁みわたる。本当に沁みるが、飲み続けると痛みが慣れてきて完食出来た。
胃の当たりも温かくなり、手にも熱が戻ってきた。
わたしがスープを飲んでいる様子を、側でルカがじっと見ているが、いつもの事だ気にしていたら食べれない。
「お薬は飲めるかい?」
と、ルカが聞いてきた。頷いて返事をすれば、ルカが説明してくれる。
「ディービス先生から、今回は喉の炎症と身体の疲労が原因だそうだ。スープが飲めれば軽い消炎剤を飲んで休んでおくようにと、言われたよ」
「え~~~~、また寝ちゃうの」
と、ケビン様が言ってきた。
ルカがケビン様に何かいいかける前に、
「ケビン! アイが休めないから部屋から出ていきなさい」
と、ミカエル様がたしなめる。
「ケビン様、アイはケビン様が思っている以上に虚弱なんです。ご理解下さい」
と、全く表情に出さずに伝えた。
「昼から、クルナの診察にディービス先生が来るらしいから、診て貰えるようにニックが手配するから」
と、教えてくれた。
ミカエル様がケビン様を引きづって部屋から出ていかれた。
「カーテンは閉めるかい?」
と、ルカが聞いてくる。頷いて返事をすれば、天蓋のカーテンを閉めて、どうやら側にいるようだ。
目が覚め時より喉の痛みが治まりつつあるが、違和感はある。薬の作用か眠くなる。
枕の側から携帯を持ち上げ、画面を見れば、
『われとのことはあとで、よい。アイやすめ』
と、セイ様がアイにしか聞こえない声で言ってくれる。
そのまま夢の中に行くように、目蓋が落ちる。
『藍!』 『藍!』 『藍ちゃん!』
『いや~ん、にーにー、にーにー、どこ?』
『藍! ここだよ』『藍! ここにいるだろ』『藍ちゃん!』
『にーにー、にーにー、どこよ?』
『藍! 僕だってにーにーだよ』
『違うよ、にーにーは、にーにーだよ。湊はにーにーじゃないよ。みなとだよ』
『にーにー、にーにー、どこ? にーにー』
……なに?わたしの夢?……小さい時の? 夢?
どんな意味があるのだろう?司は夢には深層心理を脳が情報処理してるときに見せているものだ。
と、教えてくれたが、何? わたしはブラコンだったのかしら?
浅葱兄も、要兄も、樹兄も本当の兄ではないが、小さい時の呼び方を変えれずに、呼び続けてきたが。
周りにシスコンと言われ、それを受け入れていた三人だが、わたしはブラコンの意識はない。
浅葱兄の隠した腹黒さを分かってくれる人を
要兄の照れ隠しで悪ぶるのを分かってくれる人を
樹兄の不器用で間の悪さを分かってくれる人を
兄達が巡り会えたらいいのにと思っていたが? わたしは手離したくないと思っている? 深層心理? 夢で呼び探しているのが、わたしの希望?
……わからん! 司は求めている答えと、影響されて出てくる答えがあると言ってたし……どっちだ?
覚醒しつつある夢の中で、考える
意識がない状態で、わたしが呼んだ『にーにー』とは誰の事なんだろう?
カーテンの外で人が動いてる気配がする。カーテンが、少し開けられロッティナさんが様子見に顔を入れてくる。目が合えばそのままカーテンを引き開ける。
ディービス先生とロッティナさんが、ベッドの側でわたしが目が覚めるのを待っててくれたようだ。
ルカがベッドから離れて診察が終わるを部屋の隅でいるようだ。
「アイ、熱を診るよ」
「口を開けて」
「手を触るよ」
「首を触るよ」
「音を聞くよ。ロッティナ」
と、ロッティナさんが道具をディービス先生に渡す。
盥に手を付けて洗い、側の椅子に腰かける。
「アイ、声を出してみて、ルカの話では酷く割れていると言っていたが」
「ディービス先生、ロッティナさんいつもありがとうございます」
と、やや掠れ気味だか、酷くはない。
「薬が聞いているようだね。今日はこのまま横になっているんだよ」
と、ディービス先生が言う。頷いて返事をすれば、
「僕から一方的に話すけど、いい?」
と、ディービス先生が聞いてくる。頷いて
「アイは、出産経験があるのかい?」
と、聞かれてビックリしたが、首を横に振る。
「ごめん! 多分ないのは分かってたんだけどね。妊娠線が出る人と、出ない人がいるからね」
と、ディービス先生が言えば、ロッティナさんが、
「だから、無いと言いましたでしょう」
と、ロッティナさんがやや呆れて言っている。
「でもな、タウも言っていただろう。見経験者があそこまでクルナの産道の流れを知っているのかと」
と、ディービス先生が言うが、
「兎に角、アイの判断は正確で適切な事をしてくれていたよ。足の怪我も酷い捻挫だったが、骨は折れてなかった。お産が始まると筋が緩むんだ。僕が診るまで何もしてなかったらもっと酷い処置になっていたと思う。良く在るもので固定しておいてくれたね。助かったよ」
と、ディービス先生が言うと、ロッティナさんが
「本当にありがとう、クルナは話せないから不安だったはずなの、アイが側を離れず居続けてくれて良かったわ。産婆のタウの話では、不安や恐怖でお腹の赤ちゃんが無事に生まれないことがあるそうなの、でも陣痛もちゃんときていたし、破水はしていたから余り時間をかけれなかったけど、初産にしたら早くに元気な男の子が生まれたのよ」
と、ロッティナさんが色々褒めてくれて、教えてくれた。
「よかった」
と、口にすれば。
「その後の事は聞いたかい?」
と、ディービス先生が聞いてくる。頷いて返事をすれば、
「クルナを助けてくれたのも、お腹の赤ちゃんを助けてくれてのもアイのお陰だとわかっている。
でも、アイがその身体で無理をして良いわけじゃない。医師としては無理をしたアイを叱りたいが、叱れない」
と、ディービス先生は困惑して言ってくる。
「私も同じ気持ちなのよ。アイの看護してきたのは私です。凄く良いことをしたから褒めてあげたいのに、怒りたい気持ちもあるのよね」
と、ロッティナさんも言ってくる。
「…………すみません」
……小さな命が救えるのなら、また同じことをすると思います。




