お仕事です?
王都の中心街に、主に鉱物、鉱石を採掘して精製して貴金属として店舗販売をしている商会が、サイガール商会だ。商会の会長がマイル·サイガール氏。
「今日はアーニル·オリゾーラル公爵閣下の奥方ミーナ様に呼ばれてな、新作の装飾品の相談を承けたまった」
と、マイルが息子のヨハンに告げる。
「今年は、早い定例会議になりましたから、社交界を担う奥様方は大変でしょう」
と、ヨハンも答える。
「ミーナ様ご自身よりも、ご令嬢セリーヌ様に気を揉んでおられたな」
「そうですね。王太子ダニエル様の婚約者との噂がございますが」
「舞踏会には、セリーヌ様を伴って出席されるが、義娘ドミニク様もご一緒されるから、いつもより多めに見繕ってくれ」
「承知致しました。皆さん髪色が違うので被ることはないでしょう」
と、用意のため部屋から出て行こうとすると父が止める。
「ヨハン少し待て、そなたに頼みたいことがあるのだが、ダーニーズウッド辺境伯ロビン様に伝はないか?」
「ロビン様は領土にいらっしゃるのでお会いすることはないですね。王都の別邸で次期領主ミカエル様には、お目通りしたことは有りますが?」
「ふむ、今はロビン様が定例会議に王都におられる、領土にはミカエル様が帰領されているのだがな、そなた行って来てくれぬか?」
と、父マイルに言われたが
「父さん、私が担当させて頂いているお貴族様は、どうされますか?オリゾーラル公爵家以外も承けたまっているのですが」
と、到底無理なことと返す。
「そうであろうな」
「何か言付けでもございますか?」
「嫌な、ミーナ様のご依頼を承けたまって帰宅するつもりであったのだが、セリーヌ様にお願いされたことがあるのだが、仕事ではないのだ」
「仕事でないことを引き受けてしまったのですか?」
「ふむ、ダーニーズウッド辺境伯次期領主ミカエル様の結婚相手を調べて欲しいそうだ」
「えっ! ミカエル様結婚されるのですか?」
「そうらしい、セリーヌ様が別邸のメアリー様とのお茶会でお聞きされたことらしいのだ」
「それはセリーヌ様は、傷心されておられることでしょう」
「だが、ご異母姉弟様方もご存知なくてな、どこのご令嬢なのか、極秘に調べて欲しいそうだ」
「極秘なんで無理ですよ。ダーニーズウッド領なら尚更です。毎年シアン国王陛下が逗留されて、厳重なことこの上ないのですから」
「そこをなんとかならぬか、仕事でないが恩は売っときたい」
と、マイルが言う。その気持ちは分かるが、
「私は動けませんが、下請けの商会で伝を探すでいいですか?」
「そなたが動けないなら仕方ないな。下手なことに頼むでないぞ」
と、マイルは念を指した。
ヨハンは1つ心当たりがあったが、伝と言っていいのか?
ヨハンはサイガール商会の鉱山採掘の責任者をしている。上等の鉱石が出る鉱山は、カーディナル王国南部ブーゲンビート辺境伯領土の山岳地区にある。
ダーニーズウッド辺境伯領主ロビン様の奥様カリーナ様は、ブーゲンビート辺境伯領土の出身、マホガニート伯爵令嬢である。
ヨハンが鉱石の取引をしているその地の商会が、ロカ商会だ。商会責任者はヤーナ·ロカ跡取り娘で、品質管理の責も担っているしっかり者のやり手だ。
ヨハンはヤーナに連絡を取るため下男を送った。
「珍しいですね、ヨハンさんから連絡を頂けるなんて、いつも私からの売込みですのに」
と、ロカ商会ヤーナが言う。彼方の地域に多い赤系の赤茶髪を三つ編みにして片方に流している。
「呼び出して悪かったな。ヤーナの力を借りたいんだが」
「なんです? 仕事じゃないの?」
と、落胆気味に言ってくる。
「いや、仕事はあるよ。それ以外で頼みたいことがあるんだ」
と、ちゃんと依頼書は持ってきている。流石に頼み事だけなんて取引先に出来るわけがない。前倒しで注文書を見せる。
「それなら良かったよ。仕事以外の頼み事とは?」
と、ヤーナが聞いてくる。
「ヤーナは、ダーニーズウッド領土に伝はないかい?」
「あぁ、年に一回卸している鍛冶屋は有りますよ。でも人を使って届ける量じゃないんで、小包で済みますし」
と、教えてくれた。
「それを今回、人をやってくれないか?」
「はぁ? それはウチが儲けないですよ。まだ依頼も来てないですのに」
と、ヤーナが渋る。説明無しでは無理な話である。
「そうだよな。ウチが抜け駆けしようにも、伝が無いからヤーナに頼ってみたが、仕方ないか」
「どう言うことです?」
と、ヤーナが食いついた。
「まだ、極秘なんだかな。ヤーナ秘密は守れるかい?」
と、焦らしなから聞く。頷くヤーナを見て、
「実は、ダーニーズウッド家次期領主ミカエル様が結婚されるみたいなんだが、周りにも秘密にされててな、此方としてはお相手の素性や容姿が分かれば、早めに装飾品をお作りするなり提案をしたり出来ると思って、他の商会を出し抜くつもりだったんだ」
と、説明した。全く嘘ではない。相手が分かれば交渉の仕方もある。
「そういうことかい、なるほどね。それならウチの旦那を行かせるよ。ウチのだけだと頼りないから、数年前にダーニーズウッドから流れてきた者が鉱山で働いているから付けて、お相手の素性と容姿を調べればいいんだね」
と、ヤーナが請負ってくれる。
「やってくれるのかい?」
「その代わり、装飾品に使う鉱石宝石は、ウチのに決まりだよ。他所からなんて赦さないからね」
と、言ってきた。
「勿論、上手く行けば頼むに決まっているよ。ロカ商会の品質は信用してる」
と、ヨハンは本心で言っている。
「おーい、アギル」
と、ロカ商会の山師ユエギが、鉱山採掘中のアギルを呼ぶ。
「悪いな、お嬢が呼んでいる」
「俺を? 呼ばれること何もしてないぞ?」
と、アギルが言うが、
「何でも、子守りを頼みたいだと」
「はぁ? ヤーナさん子供が出来たのか? あの年で」
「馬鹿やろう、お嬢はまだ四十だ。出来るかもしれないだろうが! 違う、ラルトの旦那のことだよ」
と、ユエギが答える。
「意味わからん。ヤーナさんの旦那の守りって、あの人机から動かない人なんじゃないか。作業場から動いてるの見たことないぞ」
と、アギルがヤーナの旦那を貶す。
「そういうな、ラルトの旦那の腕は確かなんだが、何せ石にしか興味が無くてな。ここは後の者に任せて、お嬢のこと行ってきてくれ」
と、ユエギに頼まれた。
「ラルト、入るわよ」
と、ヤーナが自分の旦那が作業している部屋に一声かけて入る。どうせ気付かないけど。
「………………」
「ラルト、貴方の奥さんが来たわよ」
と、ルーペ越しに石とにらめっこしている、ラルトに声を大にして言う。
「わぁあぁ!! びっくりするじゃないか、ヤーナ」
と、いつものやり取りをすれば、襟首を引っ張られてヤーナの部屋に連れ込まれた。
「アギル。悪いけどウチの旦那を連れて里帰りしてきて」
と、ヤーナさんと旦那のラルトさんがいる、事務所で言われた。
「え〰️〰️〰️〰️っ!? 無理っすよ」
と、意味も分からずだが、無理です。断った。
「もう、10年帰ってないでしょ」
と、ヤーナさんは言うけど、
「帰ってないじゃなくて、帰れないんです」
と、アギルは答える。
「知ってるわよ。馬鹿な依頼を受けて、女の子騙して本気に好きになったら騙したことが、ばれてその子の側に居られなくなったんでしょ」
と、雇ってもらうために正直に話したことを言われる。
「ぐぁ! そうですよ!」
「それでもアギルには、帰ってもらいます。旦那を連れて」
「はぁー? なんで? ラルトさんを連れて?」
「アギル一人じゃ、知り合いに会った時困るでしょ。でも、ウチの旦那が居ればアギルはちゃんとした商会の一員で身元を証明出来るでしょ。
そしてウチの旦那は、私が頼んだことを出来るとは思えない。だからね一緒にダーニーズウッド領に行って、調べて来て」
「「はぁー?」」




