メリアーナの指摘
「ミリーがアートムを思って授けてくれたのよ」
と、メリアーナが言えば、
「アッ! そうであったメリアーナ。クルナが産気ついたそうだ」
と、ニックが報告してきたこと、アートムが聞いてきたことが有ったのだ。
「で、アートム。クルナが産気ついたからニックが、使用人用の客室を使用したいと来たのであろ?」
「はい、ルカとルッツの話では、本日の予定が無くなったアイが洗濯場にルカを連れて、布を水に浸けていたらしいのです」
「アイは、洗濯を自分でしているのか?」
と、聞けば、
「まず、話を聞きましょう。カール様」
と、メリアーナが止める。
「アイはルカが護衛で付いていることを知りませんから、ルッツに用事があると言って、洗濯場や干場に付いて行ったそうです。
言い訳通りにルッツの作業場に行けば、後から作業場に来るはずのアイが、林の中からルカとルッツを大きな声で叫び呼んでいたそうです。
二人で林の中をアイを探せば、クルナを抱えて座り込んでいるアイが、焦って話す言葉が分からず、通じる言葉で話せば、妊婦が危ない。破水してるから医者を早くと、言ったのでルッツが事態を理解したと言ってました。
アイの指示で、ニックに部屋の使用許可と人の手配を頼みノアには、大量のお湯と綺麗なシーツと布の手配をして、ノーマン医院からディービスとロッティナと産婆を馬車で館に連れてきたが、医院から後を付けていた者達が敷地内に消えたのをルカが、見ています。
その者達の確保に今ルカに探らせています」
と、アートムが報告する。
「もう良いか? 何でアイは洗濯場に行くのだ」
「アイかルカに聞かないことには……」
「何でアイは林の中におったのだ、作業場は林を抜けなくても行けるぞ」
「アイに聞かないことには……」
「何でクルナを抱えていたのだ」
「アイとクルナに聞かないことには……でも、クルナは今お産中ですし」
「何でアイは、お産に詳しいのだ」
「アイにお産経験があるのでしょうか?」
「なにー! そうなのか?」
と、喚いたところで、メリアーナが止める。
「ハイハイ、そこまでです。アイに聞けばいいのですから、クルナのお産が無事に終わってから聞けばよろしいでしょう」
と、アートムとのやり取りを止めた。
「陛下、どうされました?」
と、さっきから黙って考え込んで居られる、シアン陛下にメリアーナが声をかける。
「いや、カールがアイがお産に詳しいと言ったから何故かと考えていた」
「はぁ? 何故かと言えば、私には子が二人居りますし、孫も四人居りますから、男の私でも端で聞いていた内容はございます」
と、カールが答える。
「私は、ミリーのお産に付き合いました。グロー先生がこれで最後になるかも知れないから、側い居ろと言われて」
と、アートムが答える。
「私は、経験者ですので、でも産んだ事はございますが何を用意するかとは、産婆や医師がするので知らないかも知れませんね」
と、メリアーナが答えた。
「産んだ経験者のメリアーナより、周りにいたほうが準備や用意が分かるということか?」
と、シアン陛下が問う。
「アイは家族から医療関係の仕事は、体が弱いから反対されたと言っていましたよ」
と、アートムが言う。
「確かにそう言っていたが、私も子が二人いるが、妻が産気ついた時は、母上と産婆に追い出されたぞ」
と、シアン陛下が言えば、
「今、なんておっしゃいました?」
と、メリアーナが聞いてきた。
「………………?……………………?…………………………!」
館の要である我妻メリアーナには、信頼、信用の上殆どの事を分かち合っている。
が、昨晩のシアン陛下の妻子の話はまだしていない、
私もアートムも知らなかったことを、まだ伝えていないのに、陛下。
「何故? 黙っておられるのですか? アイが陛下の縁有るものでしたら、陛下ご自身か陛下の血族者の縁者になりますでしょう。
ですが、陛下の母方の縁者は一人を残して存命されていません。陛下の母君のアーリン側妃出身地であるブーゲンビート辺境伯領地のマホガニート伯爵家は、ロビンの妻カリーナの実家ですが、あの時事から名は残りましたが、アーリン様の血族ではございません。
昔からあの地ブーゲンビート辺境伯地では、マホガニート家以外に数家赤髪の血筋がございます。山岳地域のあの地から、珍しい黒髪の外国に行くような要職に付いた貴族の話など聞いたことございませんし、
陛下の赤髪とカリーナとメアリーの赤髪は、同じ赤髪であっても違います。アイの赤髪は陛下の系統に近いと昨日思いました。
ましてや、陛下が縁有るものだと感じたのでしょ?
カール様とミカエルに保護を指示されたのは、陛下ご自身に心当たりがあるからで、全く身に覚えのない殿方がすることではないでしょうに」
と、メリアーナが言ってきた。
「あのな、メリアーナ。私も昨晩聞いた話なんだが? そなたは、いつ陛下の縁有るものだと思ったのだ?」
と、妻メリアーナに聞く、
「カール様から、身元も素性もわからない、外国の女性を陛下の指示のもと保護することになったと、聞いてからでしょうか?」
と、メリアーナが答えた。
「初めからではないか?」
と、言えば、
「初めから陛下の縁有るものだと、思っておりました。
それが陛下ご自身の事なのか? ご友人の事なのか? ご兄姉の事なのか? 知人の事なのか? は、どなたからもお聞きしておりませんでしたが、強いて言うなれば、カール様とアートムでしょうか?」
と、メリアーナが言ってくる。
「私は、後にメリアーナにシアン陛下の縁ある者かも知れぬとは言ったが、アイに確かめた訳でもないからハッキリさせてから言うつもりであったし」
と、言えば、
「そうですか?
私がアイに会ったのは昨日ですが、その前からカール様は、まるで孫のメアリーの話をするようにアイの話を私にして下さいましたよ」
と、笑いながら言う。
「おかしいな、そんなつもりは無かったと思うが、メリアーナがまだ会ってもいない、館にいるアイを悪い子でないと言いたかっただけでな」
「私が初めからアイを受け入れていたのは、カール様は、言葉で。アートムは態度ですね」
と、メリアーナは言う。
「私ですか? 私はメリアーナ様とアイが昨日会ったときは、側に居りませんでしたよ?」
と、アートムが不思議そうに答える。
「そもそもそれ事態が、アートムの態度に出ているのよ」
と、メリアーナが言ってくる。
「アートムの態度?」
と、シアン陛下も不思議がる。
「アートムが陛下の近くにアイが居ることを警戒していないことですわ」
と、メリアーナが答えた。
「あっ!」「そうだな」「…………………………」
と、シアン陛下とアートムを見る。アートムは黙したまま考え込んでいる。
「私は、アートムに警戒されなくなるのに数年かかりましたわ。
ダーニーズウッド家に嫁いで、ダートル、ロビンと授かりましたが、アートムは義父セガール様とカール様の側にしか行きませんしね。
それが変わったのが、8、9年ぶりに陛下が、その時はシアン王弟陛下と、領内でお会いしてからアートムが少しづつ変わりました。
陛下とは王宮でヘンリー王太子が即位される時に初めてお会いいたしました。
まだシアン王子が成人前でちゃんとしたご挨拶は出来ませんでしたが、次の年にカール様の婚約者としてご挨拶出来ました。
結婚式にお会いしてから数年ダーニーズウッド家に来領されず、その時は外国に行かれていたとお聞きしましたが、その頃のお話ですの?」
と、メリアーナが当たりをつける。
「そうだな」
と、陛下は認めるが、
「アートムは、アイをいつから警戒していない?」
と、アートムに聞く。
「私もメリアーナ様に指摘されるまで、気づきませんでしたが、どうやら初日からのような気がします。
勿論、ルカから不審者の話を聞いて刺客や偵察の分類かと様子を礼拝堂に見に行きましたし、警戒しておりましたのに、その日のうちにアイが高熱で倒れてしまいましたので。
警戒処か3日間も意識が戻らずで、心配いたしましたね?」
と、アートムが答えるが、
「どうした?」
と、急に疑問的な答えになったアートム。
「今、ふと思い出したのですが、アイはクルナを抱えて大声で叫んでいたとルカが言っていました。
林の中から作業場に届く大きな声を出して、その後も指示をルカ達に出して、…………アイは大丈夫なんでしょうか?」
と、アートムが言う。
「…………………………」




