陛下の指摘
「お祖父様、王都の別館に居りますもの達は、他所に情報を漏らしたりいたしませんわ」
と、姉上が答えた。
「では、そなたらは心当たりがないと言うのだな」
と、お祖父様が確認してくる。
「漏れて困るような事情が有ったのですか?」
と、ダニーが聞くが、
「それにしても、そなたらの無作法な態度は、誰に倣ってのことか?」
と、突然シアン陛下が仰った。
……えっ? 誰にって……
「申し訳御座いません」
と、異母兄さんが、立ち上がってシアン陛下に頭を下げて礼を取る。
……うっ? なんで……にいさんが……
「まだ分からぬか?」
と、お祖父様が聞いてくる。
「ミカエル、そなたがこの三人の責を負うのだな」
と、シアン陛下が仰るのです。
「私が王都にて、この異母妹弟達の庇護者に当たりますので、全責任は私にございます」
と、異母兄さんが答える。
……あっ!…………でも…………
「シアン国王陛下、お異母兄様は悪くございません。私です。弟二人を巻き込んで行動を起こしたのもお異母兄様にご迷惑に成ることを顧みなく騒ぎ発てたのも、間違いなく私です」
と、姉上が訴えた。
「メアリーがしたことなら、尚更であろう。責はミカエルで間違いないであろう」
と、シアン陛下が仰った。
「いえ違うのです、お異母兄様は何も悪くないのです」
と、必死に訴えるが、
「メアリーだけじゃなく、ダニーやケビンが何か不祥事を起こせば、全てミカエルの責に成ること位分からんのか」
と、お祖父様が仰って、
「このままでは、ロビンの責に問われるな」
と、シアン陛下が仰った。
……なんで? 父上も……
「そなたら、アカデミーで何を習っておる?
メアリーそなたは、淑女科であろう? 教員は指導しておらぬのか?」
と、シアン陛下が聞いてきた。
「あぁー、シアン陛下、アカデミーの先生方は、ちゃんと指導してくざさいます。私が悪いのです」
と、姉上が項垂れながら弁解する。
「改めて聞く。オリゾーラル公爵家の出入りを許されている商人が、ダーニーズウッド家を偵察しているのは何故だ?」
と、お祖父様が聞いてきた。
……あっ!!…………ぼくだ…………ぼくが……
「すみません。私です」
と、ダニー兄さんが言い出した。
「ダニーがどのような経緯で、偵察されるようなことになった」
と、お祖父様が聞いてきた。
「それは……」
と、ダニー兄さんが姉上と僕を見る。
「ダニー兄さんではありません。僕です」
と、打ち明けるも、
「ダニーでも、ケビンでも構わぬ。迂闊にも漏らしたことがあるなら言ってみろ」
と、お祖父様が凄む。
「私が説明します。先日姉上とオリゾーラル公爵令嬢セリーヌ様とお茶会がございました。
姉上とセリーヌ様は淑女科で親しくされており、別邸にも何回か来邸されています。
それは異母兄さんをお慕いしているセリーヌ様の要望にて、姉上が機会を持たせようとしてのことです。
が、生憎異母兄さんは領土に帰領せれていてお留守でした。私とケビンが姉上とお茶会の場を持たせていたところ、会話の中に異母兄さんの好む色を聞かれたのです。
異母兄さんは決まった色を好んでいるよう見えなくて、ルクールにケビンが聞きに行ったのです。
暫くするとケビンが思案顔で戻って来て、異母兄さんが結婚するかもしれないと言ったところから、領土から父宛に手紙が届いてルクールが慌てて、出かける前の父上に渡したところを、ケビンが見ております。
ケビンは、おばあ様に何か有ったのかと心配で父上達をみておりましたら、女性を領主の客室に住まわす許可を出したとの知らせらしく、ケビンがそのまま姉上とセリーヌ様がいる前で呟いてしまったのです。
それが、ダーニーズウッド家の事情が漏れた経緯だと思われます」
と、ダニー兄さんが簡単に説明するが、異母兄さんは唖然としているし、シアン陛下もお祖父様も憮然としている。
「お粗末過ぎますね」
と、アートムがシアン陛下の後ろから言ってきた。
「………………」
お祖父様も異母兄さんも、今まで見たこたまない苦渋顔で私達を見ている。
それ程失望させたのだろうか?
「失礼致します」
と、ニックが許可も取らずに入室してきた。
「カール様、ミカエル様にお願いがございます」
と、いきなりのニックの言葉に、お祖父様が、
「どうしたのだ?」
と、聞けば、
「使用人用の客室の使用許可と、一部の使用人を私の判断で別行動させたいのですが、許可を頂きたく参りました」
と、ニックが言ってくる。
「ニックが言ってくることなら許可するが、何があったんだ」
と、異母兄さんが聞く。
「はい。クルナが産気付きました。ですが林の中で転んだようでして怪我をしているようなのです。今ルカが馬車を出してノーマン医院に産婆を呼び行っておりますが、準備に人手がいるようです。
何分今日の予定が狂って居りますので、人手をお借りするのは心苦しいのですか、よろしいですか?」
「ニックの手配に任せる。ノアは付いてやれるのか?」
と、お祖父様が聞いてきた。
「ノアの判断に任せます。男の私では分かりませんが、アイが林の中で倒れているクルナを見つけたらしいのです」
と、ニックが言えば、
「なんで?アイが」
と、異母兄さんが呟く。
「私は、色々することがございますので失礼致します」
と、ニックは部屋を出ていった。
「あのお祖父様、客室の女性をアイと呼んでおられましたが、クルナを林で見つけた人もアイという使用人ですか?」
と、ケビンが聞けば、
「この館にいるアイは一人だ。お前達が会ったアイと同じだが、アートムもう少し詳細を聞いてきてくれるか。ニックが珍しく慌ただしくしているから他の者でもいい」
と、お祖父様がアートムを動かす。
「さて、話を戻すがロビンは、どうしているのだ?」
と、お祖父様が聞いてくる。
「父上は、会議が進まず毎日王宮に出向いております」
と、ダニー兄さんが答える。
「父上に聞かなかったのか? お前達の話で手紙は最初の客室使用許可だけの報告の時のようだが、後から詳細は父上宛に送っているぞ」
と、異母兄さんが言う。
「父上には、領土に何か有りましたか? と、お聞きすれば、異母兄さんに任せているから気にするな、と言われ何も教えてもらえなかったのです」
と、ダニー兄さんが答える。
「勿論ルクールも話してくれませんでした」
と、ケビンが聞いたが教えてもらえず、
「そうであろうな」
と、お祖父様が言った。
「そなたらは、詳細を記された手紙を読んだ領主である父親が、領土を任せているミカエルの判断で良いとしていることに、不服で信用せずに勝手に乗り込んできた」
と、お祖父様に言われ、姉上もダニー兄さんも顔色を失くす。
……シアン陛下が、異母兄さんを蔑ろにしているとか言った意味が分かった…………
僕達の行動は、異母兄さんと父上を蔑ろにしたことなんだ……姉上が小さく震えている……
執務室のドアがノックされ、異母兄さんが許可すれば、アートムが戻ってきた。
「シアン陛下、カール様、ミカエル様。ルカからの報告です。ノーマン医院から館までディービス先生とロッティナ、産婆のタウを連れてくる際に後を付けて敷地内に入り込んだ者がいるそうです。今は、この館は人の出入りが激しく安全に欠けます」
と、アートムが言ってくる。
「ミカエル、どうする?」
と、お祖父様が聞いてくる。
「今は、シアン陛下の安全を確保するべきです。アートムは、シアン陛下とお祖父様とで別邸でおばあ様の側にいてもらえますか?」
と、アートムに指示すれば、
「ミカエル様、ルカが侵入者を追って居りますので、館内が手薄です」
と、アートムが答える。
「ここは、人の出入りが朝から激しい。別館のほうが安全でしょう」
と、異母兄さんが言えば、お祖父様が頷く。
「ミカエルに任せる。陛下と別館に待機しておる」
と、シアン陛下とアートムを連れて部屋を出る。




